忘れまい〈13〉横浜・中区の本社から南区へ 徒歩1時間 誤報で徒労

 大きな揺れが収まった後も、横浜市中区の神奈川新聞本社編集局は騒然としていた。倒れた棚や散乱する資料をまたぎ、同僚記者と社有車に乗り込んだ。11階の窓から臨海部にたなびく煙が見え、もしや火災なのではないかと目指すことにした。頼るべき情報はなかった。

 真っ黒な煙を上げていたのは、磯子区根岸にある製油所の煙突だった。消防車も駆け付けた現場で担当者に尋ねると、「地震による緊急停止が原因。火災や事故ではない」。緊急停止に伴って余剰ガスを燃焼させたため、通常より炎や煙が大きくなったという。

 本社に報告しようにも携帯電話は通じず、連絡は取れない。仕方なく中華街方面へ向かう同僚と別れて車から降り、歩いて向かうことにした。

 社に戻って見聞きした情報を伝えてほどなく、今度は「横浜市南区で崖崩れ」と殴り書きされたメモを手渡された。再び現場へ走りだす。

 しかし、電車は止まり、幹線道路は大渋滞。タクシーをつかまえられるような状況ではない。1時間以上かけて歩き、なんとか現場にたどり着いたが、付近の住民に状況を聞くと「消防の人も来たが、どこにも崖崩れは起きていない。誤報だ」という。

 どうしてそんな情報が出回ったのか。そう思いながら、つながりにくい携帯電話を手に「誤報」と報告するまで30分以上かかった。そのもどかしさは、今も忘れられない。

 正確な情報を把握し、また伝えることがいかに難しいか。震災後、編集局に配備された新型の無線機を前に、あらためて思う。

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