「気候非常事態宣言」若者の請願不採択 長崎県議会、行政どう向き合った?

長崎県に「気候非常事態宣言」を出すよう求める請願が賛成少数で不採択となったのを見届け、議場を後にする岩瀬さん= 県議会

 7日に閉会した定例長崎県議会の最終本会議で、長崎県に「気候非常事態宣言」を出すよう求めた県内高校生らの請願書は、賛成少数で不採択になった。県が既に策定、実行する対策計画を理由に、多数派の自民系2会派の賛同を得られなかった。初めて飛び込んだ「政治の世界」は若者たちにどう映ったのか。行政と議会は彼らの声にどう向き合ったのか。(六倉大輔、三代直矢)

 請願は県内の高校生や大学生らでつくる「フライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)長崎」が提出。代表の県立諫早高2年、岩瀬愛佳さん(17)らは、傍聴席から本会議を見守った。賛成10人、反対35人で不採択が決まると、肩を落として議場を後にした。

 岩瀬さんは9月、請願人を代表して観光生活建設委員会に出席。熱波や豪雨など異常気象につながる地球温暖化(気候変動)の危機感を県民と共有する目的を説明した。だが、趣旨説明が「休憩中」に行われ、議事録に残らないことに疑問を持った。議会規則でそう決まっているが、議員と県の議論を眺めながら「どうして私たちは参加できないんだろうって、ずっとウズウズしてた」。

 自民系会派が賛同しなかった理由は、県が今年3月に策定した計画があったからだ。県当局は、計画に伴って表明した「ゼロカーボンシティ」と「趣旨や目的が同じ」として、宣言に後ろ向きだった。自民系会派の議員は「県の取り組みも一定評価する必要があり、同じ内容のものを名前を変えて出すのは難しい」と説明。議論を深めるために、請願提出を次回以降の定例会に延ばす提案もしたという。

 FFF長崎は今議会の提出にこだわった。「気候変動の警鐘は一刻を争う」というのもあるが、長期の活動にメンバーが疲弊していたのも事実だ。5月から、県庁や議会を何度も訪ねたり、深夜に及ぶミーティングを重ねたりした。記者たちも、進学や就職も控える学生にとって「政治参加」は容易ではないと感じた。

 「今回の活動で学んだのは、人を信じないこと」。委員会で請願が不採択となった直後、岩瀬さんはそう言ってうつむいた。協力的に思えたのに結局、賛同が得られない人もいた。多数派の方針で個人の意見がオセロのように覆る政治の論理や、既定路線を重んじる行政の姿勢が、若者たちには不可解に映ったようだ。

 勇気を出して声を上げた結果、得られた実感が「失望」や「徒労」だけだとしたら、あまりに悲しい。県は対策計画を着実に進め、進捗(しんちょく)状況を分かりやすく発信する必要がある。議会は、この問題に引き続き関心を払い、厳しくチェックしてほしい。もちろんメディアにも、社会の問題意識を促し続ける責任がある。

 若者たちには、期待外れの結果だったかもしれない。でも、記者たちの感想は少し違う。請願を巡る議論は白熱し、議員たちの“真剣勝負”を感じた。自民系会派のある議員は「請願は連日のように会派内で話題に上っていた」と明かした。当初は慎重だった野党系最大会派は「環境問題に積極的に関わるメッセージとしたい」と賛成を決めた。県の担当者も取材に「若者の声は大きな動きにつながった。連携して取り組みたい」と率直に語った。

 あえて「大人」の立場から言わせてほしい。胸を張っていい。あなたたちは、確かに社会を動かした。

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