岸田政権は「ぼんやり」した政権か?|和田政宗 菅総理はなぜ退陣しなければならなかったのか。「岸田ショック」はなぜ起きたのか。そして、なぜ、矢野財務次官は月刊誌で「このままでは国家財政は破綻する」と政府批判を展開したのか。「本音」で語れる政治家、和田政宗参議院議員が事の真相に迫る!

菅総理の功績と退陣の理由

いよいよ解散総選挙を迎える。

丸4年ぶりのことであり、身が引き締まる思いだ。政権与党である自民党は岸田新政権で国民の審判を受ける。国民の信任はいかようになるであろうか。

今回の総選挙に臨むなかで、菅総理が9月3日に退陣表明をした時点に遡りたい。菅総理は新型コロナ対策と併せ、自民党が総選挙で勝利することが国民のためになると行動してきた。自身が総理総裁として内閣改造を行い党人事を刷新すれば、自民党はギリギリでも勝ち切れる。だからそれを断行して選挙に臨む。これが最善の道であるというのが菅総理の意志であったと思う。

しかしながら各メディアの情勢判定が伝わってくるなかで、菅総理は「自分の仕事は新型コロナ対策をやりきることである。選挙は新総裁に任せる」という考えに至ったのである。

ひとえにこれは、「自民党を総選挙で勝たせる。国家国民のために」という思いであったと考える。菅総理は政権発足当初から自らを「仕事をするための内閣である」と述べてきた。政権発足当初の高支持率で、党内からは「解散せよ。絶対圧勝だ」との声のなか、それを突っぱね、国家国民にとって早急に改善すべき課題は何かと考え、その改善に取り組んできた。

国民の利便性につながる行政のデジタル化とデジタル庁の創設、携帯電話の料金値下げ、不妊治療の保険適用を当面やるべき3つの課題として総裁選で表明したほか、2050年カーボンニュートラル、安全保障上重要な土地の利用規制法の成立。日米豪印のクアッドの枠組みを作り、何よりも旧宮家男系男子の皇籍復帰の道筋を作ったことなど、これまでの政権では成し得なかったことを菅政権は実現してきた。

しかし、菅政権は新型コロナ対策において、退陣表明時点では国民の不安を解消するまでには至っていなかった。ただ、実行した施策は全く理にかなっており、ワクチン接種をはじめとした対策によって、現在、新型コロナの新規陽性者数は劇的に減っている。

これは、のちにしっかりと検証しなくてはならないが、ワクチン接種はもっと時期を早められたと私は考える。政治サイドというよりも省庁の動きがにぶかったし、それを動かせなかった政治にも責任がある。これがうまくいっていたら感染拡大が抑制できている今の状況を3か月前に実現できていたかもしれないし、であるならば、菅総理の退陣もなかったと思う。

しかしながら菅総理は退陣し、岸田政権の誕生となるわけだが、昨日10月14日に岸田総理によって衆議院は解散された。公示日は10月19日、投票日は月末の10月31日になる。総理就任から10日間での解散は、戦後最短での解散となる。岸田総理の狙いは就任直後の勢いに乗って選挙に臨むことである。

ただ、岸田内閣の支持率は高くない。自民党にとっては、岸田内閣の支持率が発足当初としては伸び悩むなかであっても、現有議席を確保し、それを上回る勝利に繋げなくてはならない。

岸田政権の政策については様々な方にお話を聞くと、「総花的でぼんやりしている」との厳しい声が聞かれる。何を実行するのか教えて欲しいとの声が相次ぐ。我々はこうした声に対し、分かりやすい説明をしてしっかりと政策の中身を国民に届けなくてはならない。

不安材料を断ち切ることができるか

岸田総理は「新しい資本主義」を訴え、成長と分配の好循環を掲げている。分厚い中間層の再構築についても総選挙の公約に掲げている。あとは、具体的に何をするかである。国民の期待は、積極的な財政出動であり、必要な金融緩和による経済のV字回復である。総選挙において具体的な規模感や内容を示していかなくてはならない。

こうした動きに対し、不安材料がいくつかある。まず、財務省の矢野康治事務次官が『文藝春秋』11月号に寄稿した論文である。矢野次官は積極的な財政出動論について、「まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかり」と批判し、「このままでは国家財政は破綻する」としている。これは、安倍総理、菅総理が財務省に強力な指導力を発揮していたことに対し、その重しが外れたことで、「今だ」ということでの寄稿であるとみられる。

財政再建の必要性を強く印象付けようという内容であるが、経済が成長すれば税収も増えるわけで、自ずから財政再建は成し遂げられていく。それがアベノミクスからの流れであり、岸田総理も所信表明演説で、「危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行う。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない」と述べている。今は、国民の暮らしを支え、経済の反転攻勢のために積極的な財政出動が必要である。この流れを止めてはならない。

そして、もうひとつの不安材料は、岸田総理の所信表明演説に「改革」や「規制改革」の文言がひとつもなかったことである。安倍政権、菅政権の一丁目一番地の政策が、規制改革であった。昨年の菅総理の所信表明演説では、「行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、規制改革を全力で進める」「国民のために働く内閣として改革を実現し、新しい時代をつくり上げる」と規制改革の断行を力強く宣言した。

規制改革は経済の弾力性と成長をもたらし、経済に対する国民の将来展望に期待感を持たせるものであり、国家戦略特区の活用などで、実際に効果を上げてきた。しかし、岸田総理の所信表明演説でこうした文言がなかったことなどから、株式市場が反応した。規制改革は経済全体の将来展望への期待のみならず、規制緩和が期待される分野の銘柄への期待感に繋がることから、株式市場へ好影響を与えることが多い。

金融所得課税への警戒感や、規制改革への言及がなかったことで岸田総理の新総裁選出以降、日経平均が8営業日連続で下落したことをはじめ、株式市場は厳しい状況が続いている。これに対し、岸田総理は金融所得課税については当面行わないことを表明し、今週の国会における各党の代表質問に対する答弁でも、電波オークションの引き続きの検討に言及するなど、規制改革についても菅政権からの継続性に言及した。岸田政権は、こうした不安材料を断ち切り、国民にわかりやすく説明することが重要である。

いずれにしても総選挙を勝ち切り、引き続き政権を担えなければ元の木阿弥である。自民党がしっかりと勝利することが国家国民のためになると確信している。党所属の参議院議員として精一杯総選挙を支援したい。

著者略歴

和田政宗

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