白血病治療薬が難病ALSにも有効か 被験者の50%以上で進行止まる

 日本の研究グループが世界で初めて、難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)に白血病治療薬が効く可能性があることを突き止めた。被験者は10人弱と少ないものの、初期的な臨床試験において半数以上の患者の病気の進行が止まったことが確認できたという。

被験者9人のうち、5人の病気進行が止まる

 研究成果を発表したのは京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久教授、徳島大学病院脳神経内科 和泉唯信教授、京都大学医学部附属病院脳神経内科 髙橋良輔教授、北里大学病院脳神経内科 永井真貴子診療准教授、鳥取大学医学部附属病院脳神経内科 渡辺保裕准教授らの研究チーム。

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経細胞が変性して筋萎縮と筋力低下を来す進行性の疾患。経過に個人差はあるものの、人工呼吸器を装着しなければ発症から数年で死に至る致命的な疾患であり、国の難病指定も受けている。現在、進行を緩和する薬はあるものの、いまだALS の進行を停止する根本的治療法は確立されていない。

 研究チームはこれまで、ALS患者由来のiPS細胞から作製した細胞を使い、ALSの病態を再現できることや、その作成した細胞を検体として、治療できる可能性のあるさまざまな化合物を試験できる「iMNシステム」を開発。さらにこのシステムによる試験で、慢性骨髄性白血病の治療薬として用いられている既存薬「ボスチニブ」が、ALSに対する強い治療効果を持つ可能性を発見していた。

 今回はそれを受け、実際に希望する患者に対し実際に「ボスチニブ」を投与する初期の臨床試験を実施、主に安全性について検証を行うなかで、副次的に効能についても確認できた。

 具体的には、ALS患者9人にボスチニブを1日あたり100mg~300mgを12週間投与、投与による副作用などが現れないかを試験した。下痢などの事象がみられたが、これはボスチニブの副作用としてすでに知られるもので、ALS患者に投与することで新たに出たものではなく、投与量などの調整で対応できるものと評価された。ALSに対する有効性については、病状の進行度を示す指標「ALSFRS-R」の変化を調べたところ、9人のうち5人において、ボスチニブ内服後にALSFRS-Rスコアの低下が停止していることが確認された。スコアが低下した4人と低下しなかった5人の血液を調べたところ、神経細胞の軸索突起に豊富に含まれる細胞骨格の成分「ニューロフィラメントL」という物質の量が異なっていることも分かった。投与期間中、スコアが継続的に維持されたことが確認された既存の薬はなく、世界初の成果といえる。

 研究チームではこの結果について、被験者の数が限られており更なる検討が必要としつつも、実用化に向けて次の段階の臨床試験を計画するとしている。

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