イケア、コロナ禍の努力にねぎらい 全世界の従業員に総額約146億円贈る

新型コロナウイルスによる日本国内の感染拡大が落ち着きをみせている今、世界30カ国でイケア・ストアを運営しているIngkaグループが、コロナ禍で店舗運営やオンライン販売を支えてきた従業員の多大な努力に対する感謝として、同グループの世界すべてのコワーカー(一緒に働く仲間の意味)に合計1億1000万ユーロ(約146億円)を贈ると発表した。日本でも、約3700人いるイケア・ジャパンのコワーカーに対し、契約時間に応じて1人最大約7万4000円の一時金が来年1月の給与支払い日に支給される予定だ。イケア・ジャパンはウェルビーイングの観点から、コワーカー自身が自分を大切にし、自分を労わるセルフケアができるよう取り組みを強化しており、今回の“贈り物”もそうした考えに基づく支援の一環という。(廣末智子)

ビジネスの中心は人 コワーカーを的確且つ思いやりのある方法で支援

イケアは「ビジネスの中心は人々」との考えを掲げており、Ingkaグループでは世界30カ国374店舗で働く17万人以上のすべての従業員を、「一緒に働く仲間」という意味を込めて「コワーカー」と呼ぶ。「コワーカーが心身ともに健康で安全な環境で働けるよう守ること」は非常に重要な施策として位置付けられており、2020年度のサステナビリティレポートの中でも、「(コロナ禍で)イケアが重視したのはできる限り多くのコワーカーの生活を可能な限り長く守っていくことだった」と強調。子どものいるコワーカーに対しては、追加の育児休暇やフレキシブルな勤務調整を可能な限り提供したことが記されている。

今回の全世界のコワーカーへの一時金支給について、同グループのイケア・リテールで、People&Cultureマネジャーを務めるUlrika Biesért氏は「新型コロナウイルスの感染拡大が始まったころ、私たちはイケアバリューと人道的なアプローチに沿って、コワーカーを的確且つ思いやりのある方法で支援することに奮闘しました。今回の贈り物も、そうした考えのもとに行う支援の一つです」と強調。

一時金は、国ごとに分配され、2021年8月31日時点で雇用されており、且つ、2022年1月の給与支払日に勤務しているグループの全コワーカーに適用される。総額1億1000万ユーロ(約146億円)を世界17万人の従業員で単純計算すると一人当たりの額は約8万6000円だ。

同グループには、既存の賞与であるコワーカー向けの成果型ボーナス制度や、コワーカー個人へ年金拠出金として積み立てを行うイケア独自の仕組みによるプログラムがあるが、今回の一時金はそれらとは別に支給されるという。

2021年度は売り上げ好調「コワーカーの勇気と献身なければ成し遂げられなかった」

コロナ禍での売り上げは、いわゆる“巣ごもり需要”を背景に、流通業の中にはかえって伸びたところもある。同グループでも、イケアのリテールの売上高について、2021年度は374億ユーロ(約5兆円)と、前年比6.3%の成長率を見せたことを発表したばかりで、全体に対するオンライン販売のシェアは18%から30%に増加、「コロナ禍の困難な時期にもかかわらず、新たに26地域に店舗をオープンさせた」と説明。日本でも、2020年6月に「IKEA原宿」、11月に「IKEA渋谷」、今年5月に「IKEA新宿」と、都心型店舗を3店開業しており、「オンラインストアとアプリ、実店舗をつなぐオムニチャンネルを促進した」としている。

こうした好業績について、同グループは「コロナ禍でオンラインでの販売を加速させ、イケアの店舗を安全且つ、お客さまのニーズに合う形で運営できるようにしたのはコワーカーたちである」とした上で、「コワーカーの勇気と献身、社会起業家精神がなければ成し遂げられなかった。特に店舗のコワーカーは、もっとも必要とされているときに、何百万人もの人々の家での暮らしをよりよくしたいという私たちの意欲を届けてくれた」とコワーカーへの感謝の気持ちを表明している。

イケア・ジャパン コワーカーのウェルビーイング実現に多彩なプログラム

一方、イケア・ジャパンでは今年5月、コワーカーのウェルビーイング(心身ともに満たされた状態のこと)の実現に向け、「不安や心配事がある際には1人で悩みを抱え込まないよう、いつでも相談できる体制の構築」や、「コワーカーとの対話や傾聴に関するマネジャー向けトレーニングセッションの実施」「ヨガやマインドフルネスのセッションの開催」「メンタルヘルスに関するウェビナーやトレーニングの実施」などのプログラムに取り組むことを発表。

その際、これらは「コワーカー自身が自分を大切にし、自分を労るセルフケアができるようサポートしていく」ためのプログラムであり、当時、同社の社長兼チーフ・サステナビリティ・オフィサーを務めていたヘレン・フォン・ライス氏の「イケア・ジャパンで働くすべてのコワーカーが自分自身のウェルビーイングのために少しでもリフレッシュ、そしてリラックスしてもらえることを願っている」とする言葉を紹介している。

今回の一時金もこの流れにあるもので、イケア・ジャパンの広報担当者は取材に対し、「コロナとの闘いは、世界で依然として余談を許さない状況が続いている」とする認識を示した上で、一次金は好調な売り上げに対する従業員への利益還元という意味合いでは決してなく、「過去18カ月のコロナ禍における従業員の多大な努力に対する感謝としての支給だ」と強調した。日本のコワーカー1人当たりの平均支給額については明かしていない。

コロナ禍の従業員に対するボーナスでは、米小売り大手ウォルマートや、米アマゾン・ドット・コムが、年末商戦期に流通現場などで勤務する米国内の従業員に臨時ボーナスを支給したり、日本でも流通大手のイオンが今春、国内外のグループ企業のスーパーや専門店、配送の現場で働く社員やパートら約45万人に1人当たり1〜2万円、総額60億円の一時金を支給したことが話題になった。

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