ぱんぬスタジオ ~ 元旅人の写真家が運営。ビル4フロアでがらりと雰囲気が変わる貸スタジオ

全国からコスプレイヤーが集う貸スタジオが笠岡市にあります。

ぱんぬスタジオはビル1棟、まるごとレンタル可能。世界観の違う4つのフロアで自由に撮影ができます。

運営しているのは、3年半かけて自転車で日本を一周したことがある写真家・ぱんぬさん。

ぱんぬさんはこの日本一周をきっかけに、写真家となったのです。

ぱんぬスタジオと、ぱんぬさんの生き方・思いを紹介します。

ぱんぬスタジオはこんなところ

笠岡市の国道2号線沿いにあるぱんぬスタジオ。

笠岡駅と笠岡港旅客船ターミナル「みなと・こばなし」のちょうど中間に位置します。

写真左のクリーム色のビルがぱんぬスタジオ

2018年4月に写真家のぱんぬさんがオープンしました。

2・3・4階に加え屋上部分と、ビル1棟がそのまま撮影スペースとして開放されており、各フロアで世界観ががらりと変わります。

それぞれのフロアを紹介していきましょう。

2階 レンガ壁フロア

入口を入ってすぐ、2階はレンガ壁フロアです。

壁紙ではないリアルな質感のレンガ壁と、温かみのある木材フローリング。

撮影用の小物やドライフラワーが並び、家具はアンティーク調。美しい空間が広がっていました。

ずっと居たくなるような居心地の良さです。

大きな窓があるので、自然光によって美しく撮影できます。夕方、特に光の向きが良いようです。

小物や家具のテイストが統一されており、雰囲気のある写真がすぐに撮影できそう。

各フロア、天井が吊り下げ可能な仕様となっているので、小物のアレンジでさらに自由度高く撮影をすることができます。

撮影スペースはおよそ3.35メートル×6.5メートルです。

3階 白部屋

3階には真っ白な空間が広がっていました。

3メートル幅の「白ホリ」が設置されており、白の背景で撮影することができます。

「白ホリ」とは撮影用語で、白ホリゾントの略。

床と壁面の境界線が曲線でつながることで、被写体と床の境界に影が出づらくなり、被写体が浮いているようなシンプルな写真を撮ることができるのです。

白ホリで撮影した写真(左) 提供:Pan-nu quality photo Works

およそ3.7メートル×6メートルのスペースで撮影できます。

4階 廃ビル

明るい3階フロアから一転し、4階には薄暗い廃墟を思わせる空間が出現。

リアルに解体しただけのむき出しのスペースです。

さびれた壁・天井、ドラム缶や、窓を覆う板が世界観を醸し出しています。

撮影可能スペースはおよそ5.4メートル×4.6メートル。

4階から上は土足で入るようになります。空調はありません。

屋上

4階からさらに階段を上がると、屋上にたどり着きました。

笠岡港旅客船ターミナル「みなと・こばなし」や笠岡駅を一望!

国道2号線を絶え間なく車が走っていました。

昼だけでなく、まちの灯りによって夜も雰囲気がある写真が撮影できるのではないでしょうか。

各フロアのほか、階段などで撮影してもOKです。

ぱんぬスタジオの使い方と料金

料金設定は、全フロア貸切で3時間ひと枠となっています。

平日料金

最初の3時間が6,000円で、以降3時間ごとに3,000円追加
(例)3時間:6,000円、 6時間:9,000円、9時間:12,000円

土・日・祝日料金

最初の3時間が9,000円で、以降3時間ごとに6,000円追加
(例)3時間:9,000円、 6時間:15,000円、9時間:21,000円
※3時間のみのレンタルは午前9時〜12時限定

カメラマンを含めて6名までは上記料金で、7人目以降1人追加ごとに3時間1,000円が追加でかかります。

商用利用の場合は1時間12,000円です。

食べ物の持ち込みも可能なので、撮影だけではなく、ちょっとしたパーティーなどで利用することも可能。

一棟まるごとレンタルできるので、家族や仲間とさまざまな楽しみ方ができそうです。

平日はコスプレのかた限定で、ぱんぬさんが撮影してくれるプランも(オプション料金3時間5,000円~)。

また、「ぱんぬロケ撮ツアープラン」では、ぱんぬさんと一緒に撮影地へ出向き、撮影をしてもらえます。

世界観をZoomで打ち合わせてから、移動込みで最大10時間のロケが可能。

参加人数により料金は異なりますが、たとえば4名参加の場合、1人15,000円となります。

詳しくは公式ホームページを見てください。

提供:Pan-nu quality photo Works

次にオーナーのぱんぬさんへ、インタビューを行ないました。

ぱんぬスタジオオーナー ぱんぬさんにお話を聞きました

自由度高く撮影ができるぱんぬスタジオ。

オーナーのぱんぬさんは、自転車での日本一周旅を機に写真家となりました。

旅のことや、この貸スタジオをオープンした経緯、写真への思いなどを聞きました。

旅人から写真家へ

──ぱんぬさんは昔から写真家を目指していたのですか?

ぱんぬ(敬省略)──

もともと、やりたいことが特にない人生を送っていたんです。

出身地である笠岡を離れ、6年くらい大阪で暮らし、24歳のときに地元に帰ってきました。

写真に出会ったのは、高校生のころ。家で見つけた古いフィルムカメラを2年ほど使っていました。

壊してしまったとき、古いカメラだから「新品を買ったほうが安いよ」といわれて、そうなると、うん万円。

そんなにお金がかけれないなぁと思い、諦めました。

次にちゃんとカメラを始めたのが、28歳。3年半の自転車旅に出発するタイミングです。

まわりが会社で働き成果をあげていたり、家族を持ったりする時期ですよね。

自分はこのままでいいのかなと思いながら暮らしていました。

もともと旅が好きで、16歳のときに自転車で四国一周、17歳、19歳のころはヒッチハイク旅をしたことがあるんです。

やりたかった日本一周の旅を実現するにはもう遅いかな、という気持ちもあったんですが、リスペクトしている行きつけのバーの店主に「27歳でしょ? まだ全然行けるよ」という一言をもらい、「よし、明日から一年間、職場の引継ぎや準備をして、旅立とう」と決めたんです。

自転車旅とヒッチハイク旅を比べたら、自転車旅のほうがまちのことが思い出に残っていました。

「泊まってけよ」、「飯くったか」とか、たくさんの人とのふれあいがあったんです。旅に出るならやっぱチャリでしょと、自転車旅に決定。

期間は設けずに自分が満足するまでと決め、結果、3年半の旅となりました。

提供:Pan-nu quality photo Works

カメラは当初、コンパクトデジタルカメラを持っていく予定だったんですが、当時働いていた職場の美大出身の上司に「もっといいカメラを持っていったら?」といわれ、オリンパスのミラーレス一眼カメラを買いました。

自転車でただ日本を一周するだけでなく、人と話すきっかけをつくるために、「ポストマンぱんぬ便」という、手紙を届けていく活動をしていました。

──「ポストマンぱんぬ便」! どんな活動ですか?

ぱんぬ──

たとえば「〇〇県の友人の家まで、この手紙を届けて」と手紙を受け取り、実際に届けに行くんです。

旅の順路に合わせてのお届けなので、書いてから3年後にやっと手紙が届いた、という人も。タイムカプセル状態ですね。

そして手紙が届いたら、差出人と受取人が並ぶ一枚の写真が完成します。

全部で300通以上、配達しました。口コミでどんどん広がり、旅の終盤にはテレビ番組に取り上げられ、旅の期間が半年伸びたんですよ。

旅をしていたら「どこから来たの?」とよく聞かれます。そんなときは自分の活動をまとめたファイルを見てもらいました。

手紙のやりとりをお手伝いしたかたたちの写真や、新聞に取り上げていただいたときの記事などが入っており、見知らぬ人とも話が弾みます。

そして、最後には自分が撮影したA4サイズの写真と「旅資金を増やすために写真を販売してます」の文字。

「君はこれで食ってるのか。じゃあ購入するよ」と言っていただけるんですね。

当時は、1日1枚、1,500円の写真が売れたら生活できました。

泊まっていいよと言ってくださるかたの家には泊まっていましたし、だいたい「困ってることない?」と聞いてもらえて、お米をもらったりしていたので、銭湯代と、まとめて洗濯するときのコインランドリー代さえあれば、野宿旅は困らなかったんです。

提供:Pan-nu quality photo Works

写真が売れるのは応援の気持ちであって、写真のクオリティではないとわかっているものの、せっかくだから飾ってほしいという気持ちも生まれてきました。

この写真は売れやすい、売れにくい、という傾向を見ながら、求められる写真について考えていましたね。

旅が終わったら、写真業がしたいと思うようになり、3年半の旅を終えてから、フォトウエディングの会社に就職。

いつ終わるかわからない旅をずっと待ってくれていた今の奥さんと沖縄へ渡り、2年間暮らしました。

そして2016年、結婚を機に地元へ戻ってきたんです。

人が集まる場所づくりへの挑戦

──このビルとの出会いは?

ぱんぬ──

笠岡で個人事業主になり、写真家の活動を続け、翌年このビルと出会います。

もともと知り合いが所有しており「使っていないし、手放したい」ということで、購入しました。

ビル一棟を購入し改装するにはたくさんのお金がかかりましたが、こことの出会いがなくても、いずれどこかでやっていたとは思いますね。

人は楽しい場所に集まるけれど、その楽しい場所を作ろうとする人は少ない」という言葉、本当にそうだなと思います。

逆にいえば、そういった場所を作りさえすれば、人が集まるということ。

写真を趣味にしている人と一緒に自分自身が楽しむためにも、ここを拠点に、これからもいろいろなことをしていきたいです。

文化が育つことはマーケットが育つことにも紐づき、活動の継続にもつながります。

──笠岡を舞台にしたコスプレ撮影イベントも開催されていますね。

ぱんぬ──

「島コス笠岡」ですね。話題性で情報が広がって全国からコスプレイヤーが集うようになり、ソールドアウトが続きました。

現在、コスプレ撮影イベントはコロナ禍でお休み中ですが、同じ趣味の仲間が集う時間は盛り上がるので、またやりたいですね。

白石島や北木島、本土では菅原神社、白雲大社でも開催したことがあります。

白石島

島で窓口になってくださるかたとやりとりし、実現しています。

日本全国旅をしましたが、笠岡の大きな魅力が、島があるというところではないでしょうか。

島の良さは孤立したスペース感。時間の流れが違います。夜はとても静かで、都会から来られた人がそろって驚くほど。

昔のものが残っていて、タイムスリップしたようなまちなみもいいですね。

その場に身を置くこと自体がアクティビティになるんです。

白石島

コスプレ撮影のきっかけは、ライティング(照明)を使った撮影技術のクオリティの高さに驚いたことです。

沖縄でフォトウェディングの会社に就職しましたが、婚礼写真でもライティングは大切。

提供:Pan-nu quality photo Works

コスプレ写真を見て、すごいなぁと思っていたんです。

撮影技術を上げるためにも、コスプレ撮影をやっていきたいと思うようになり、笠岡に帰ってきてから始めました。

「コスプレイヤーの知り合いいませんか」と知人に聞き、人づてに紹介してもらったのが始まりです。

──家族ができて撮影への思い、取り組み方、変わったことはありますか。

ぱんぬ──

これまで、「ここ!」と思ったところでしかカメラを構えなかったんです。

でも、子どもが生まれてからはなんでも撮ってしまう。そして写真を見返したときに、「懐かしいな」ってなるんです。

提供:Pan-nu quality photo Works

かけがえのない瞬間が残せる写真。なんでも撮っとかなきゃ、ってなりましたね。なので、家族の写真はスマホでも手軽に撮影しています。

現在、貸スタジオの利用はほぼほぼコスプレイヤーさんですが、家族写真の撮影での利用もときどきあります。

また、スタジオのほか、外での婚礼写真などのご依頼も受け付けているんです。

提供:Pan-nu quality photo Works

ナチュラルなイメージなのか、はっきりとしたイメージなのか、人によって欲しい写真はさまざまなので、そのご要望に応じてライティングの有無やテンポの良さを考え撮影しています。

提供:Pan-nu quality photo Works

おわりに

私もあちこちを旅し、写真を撮影するのが好きです。

風景や人の表情、その一瞬をどう切り取るかという判断に、今現在の撮り手らしさまで反映されるというのが、写真のおもしろいところだと思います。

ぱんぬさんは旅や撮影の仕事、イベントの企画を通して、多くの人と出会ってきました。

取材を通し、人に寄り添う心が写真に現れているんだな、と納得した気持ちです。

自身の旅の経験や、人との出会い、ライフステージごとに、写真への向き合い方を深めているぱんぬさんが作り上げた、貸スタジオ。

今後、ぱんぬスタジオを舞台に、どんな催しや人との出会いが育まれていくか、楽しみです。

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