レタス、キャベツ、水菜、ほうれん草、クレソン、パセリ、ルッコラ……家でサラダを作ろうとすると、使う葉物野菜は定番のラインナップになりがち。
そう悩む家庭も多いのではないでしょうか?
お決まりの野菜は味を知った安心感があるものの、料理のレパートリー的にもマンネリになりがちですよね。
そんななか尾道にオリジナル葉物野菜があることを聞きつけました。
それが、因島(いんのしま)で栽培される「しまなみリーフ」。2021年で出荷3年目になる新しい葉物野菜です。
食卓をパッと彩ってくれそうな新しい野菜を求め、「しまなみリーフ」を栽培している因島の「たからじまファーム」へ取材に行ってきました!
因島(いんのしま)ってどんな島?
因島は瀬戸内海に浮かぶ島で、2006年の市町村合併以降は尾道市に属しています。
尾道の市街地からは約17キロメートル。
北に位置する向島(むかいしま)、南にある生口島(いくちじま)とともに、今ではしまなみ海道でつながった経由地として多くのサイクリストが訪れる島となっています。
古くから船で栄えた地域として今でも造船業が盛んですが、ほかにも”村上海賊”の拠点地やロックバンドのポルノグラフィティの出身地としても、聞いたことがあるかもしれません。
「たからじまファーム」を所有する株式会社岡本製作所も、この因島で船体ブロックを製造している造船企業です。
ものづくりの島なのでいたるところに工場が点在していますが、海は穏やかでなんとも静か。
余暇には釣りやマリンアクティビティを楽しむ人も多いのだとか。
因島の豊かな環境で栽培される「しまなみリーフ」とは、一体どんな野菜なのでしょうか。
「しまなみリーフ」ってどんな野菜?
「しまなみリーフ」は、あざみ菜と高菜をかけ合わせて作られた、たからじまファームのオリジナル葉物野菜です。
因島の温暖な気候と豊かな自然に育まれながら、露地栽培×無農薬で伸び伸びと栽培されています。
特徴は、なんとも鮮やかなグリーンとひらひらのかわいい見た目!
サラダ野菜の定番であるレタスや水菜よりも、ケールやサニーレタスの趣(おもむ)きがあります。
栽培期間は10月〜3月と冬季限定。
寒くなることで、このフリルがよりギザギザになっていくのだそうですよ。
「しまなみリーフ」の味の特徴や気になる栄養価
「しまなみリーフ」を生で試食させてもらったのですが、シャキシャキの食感に少しピリッとした辛みがおいしく、「野菜を摂っている!」「身体が喜んでいる!」という気持ちになれる食べごたえがありました。
辛みといってもさわやかなものでアクはまったくなかったので、子どもでもおいしく食べられると思います。
また、炒めたり煮込んだりと火を通してもおいしいのだとか。
少し熱を通すことによって辛みが抑えられるうえ、より一層グリーンも鮮やかになって食卓のアクセントに。
さまざまな食材と相性が良いというのはうれしいポイントです。
また、食物繊維、葉酸、鉄分、カリウム、ビタミンCといった栄養価に優れているのだとか!
上記のようにほかの葉物野菜と比較するとわかりやすく、たとえばビタミンC含有量で比べると、レタスが100グラムあたり5ミリグラムなのに対して「しまなみリーフ」は100グラムあたり128ミリグラム。
その差、約25倍です。
「しまなみリーフ」ってどこで買えるの?
「しまなみリーフ」は尾道市因島を中心に、地元のスーパーマーケットや有機食品販売店、たからじまファームのECサイトにて購入が可能です!
ほかにも、広島県の飲食店やホテルに販路を拡大し、提携店では「しまなみリーフ」を使った料理を楽しめます。
そんな「しまなみリーフ」を中心に、たからじまファームで野菜の栽培から出荷、広報活動までを広く担っている大前莉香(おおまえ りか)さんにインタビューしました!
「たからじまファーム」の大前莉香さんにインタビュー
オリジナル野菜の栽培を通じて因島を盛り上げたい
──「しまなみリーフ」はどのようにして誕生した野菜なんですか?
大前(敬称略)──
「しまなみリーフ」は2021年で3年目となる、因島のオリジナル野菜です。
もともと前身となる葉物野菜を作っている農家さんがいて、そのかたから引き継いだという経緯があります。
以前は「せとリーフ」という名前だったんですが、より因島をイメージしてもらいたくて「しまなみリーフ」として改めてブランディングを進めました。
大前──
因島の農家は年々高齢化が進み、跡取り問題から継承もなかなか難しい状態です。
因島を盛り上げるためにも、若い人にも農業に対して興味を持ってもらえたらという想いをもって、私たちたからじまファームでは農作物の栽培を続けています。
──しまなみリーフのこだわりや特徴を教えてください。
大前──
一つひとつ手作業でていねいに作ることにこだわっています!
毎日の生活に必要な栄養価が高いことが特徴で、その点は重点的に発信していきたいです。
いろいろな働き方ができる今だからこそ、農業だって選択肢になる
──大前さんが農業に携わることになったきっかけを教えてください。
大前──
たからじまファームに配属されるという前提で、ファームを有する岡本製作所に入社しました。
前職は医療機器の事務でしたし経験があったわけではないのですが、特に農業に抵抗はありませんでした。
「たからじまファーム」は岡本製作所のグループ会社、株式会社アド・カスタム岡本のアグリ事業部に属しています。
──就農って「大変」とか「そんなに簡単ではない」というイメージがあります……。
大前──
そうですか?
──わあ、朗らかですね!
大前──
(笑)
もし少しでも就農を考えている人がいるなら絶対やったほうがいいと思います。
農は「食」と密接につながっているので、生きていくうえで絶対に役に立つと思うんです。
──とはいえ、苦労も多いのでは?
大前──
たしかに除草剤や農薬を使っていないので、毎日雑草や虫との闘いです。
夏は日差しや暑さも堪(こた)えましたね……。
また、たとえば今季(2021年)は暑い日がかなり続いたので、植え付けの時期をずらすなど気候の変動も加味して臨機応変にスケジュールを立てて取り組みました。
大前──
また全国的に見ても今、農家の高齢化が深刻です。
「もう来年にはやめる」「もう今季でやめる」といいながらなかなかやめることのできない農家のおじいさん、おばあさんがたを見ていると、若い人がその畑やノウハウを継いでくれたらいいのに、って。
私みたいに、企業に属して農業に関わるという手もあります。
今の時代、いろいろな働き方があるからこそ農業も働き方のひとつ。自然とふれあいながら、働くっていう選択肢がもっと広がればいいなと思っています。
どうしたら知ってもらえる?広報担当としてあれこれ考えるのも楽しみ
──たからじまファームでは「しまなみリーフ」だけが栽培されているんですか?
大前──
「しまなみリーフ」のほかにもレモングラスや空芯菜、杜仲茶などを栽培して地元のスーパーマーケットに卸しています。
ファームとしては皆さんの健康に寄り添っていきたいという思いがあり、栄養や健康に関する内容をパンフレットを取り入れるなどの工夫をしています。
──大前さんは栽培だけでなく出荷やマーケティングにまで従事されていますよね。「しまなみリーフ」の販売戦略などでの苦労はありますか?
大前──
はい。栽培、出荷はもちろん、交渉や商談・営業といった販路の確保まで、社長とマーケティング担当者と私ですべて担っています。
ここ最近の苦労といえば、新型コロナウイルス感染症の影響により試食販売ができないのが痛手ですね……。
新しい野菜だからまずは食べてみていただきたいのにそれができないから、どうしても販促活動には制限があります。
コロナ禍の前は地元のスーパーマーケットで試食販売をしていたんですよ。
食べてみると「おいしい!」って言ってくださるお客様は多く、それで買ってくれる人が多かったです。
なんとか「しまなみリーフ」の魅力が伝わるよう考えていて、今季はInstagramを使った「しまなみリーフ」プレゼントキャンペーンも開催しています。
プレゼントキャンペーン期間は2021年11月1日(月)〜12月31日(金)。詳しくは「たからじまファーム」のInstagramアカウント(@takarazima5)を参照
──栽培から広報まですべてを担うってかなりお忙しいかと思うんですが……1日の流れを教えていただけますか?
大前──
午前8時ごろには収穫・出荷準備をして、朝のうちにスーパーマーケットに納品します。
やっぱり朝採れの新鮮なものを買っていただきたいので!
午前10時過ぎくらいにスーパーマーケットへの納品が終わったら、日にもよりますが畑作業、販促物の作成やポップ作り、ミーティング、商談などをしていますね。
──ほかにこだわっているところや工夫されている点はありますか?
大前──
野菜自体は一つひとつ手作業でていねいに栽培していてそれがこだわりですが、それ以外の作業効率化はいつも念頭においていますね。
どうしても少ない人数でやっているので、なんでもかんでも手作業でやればいいというわけではありません。
たとえば今季の出荷からは包装を変えました!
これまでは、パッケージにブランドロゴの入ったシールを手作業で1枚1枚貼っていたんですが、今季からボードン袋にロゴを印刷することになりました。
ボードン袋:青果やベーカリーに使われることの多い防曇袋。曇りにくいのが特徴で透明度があり、鮮度を保つことができる。
──「しまなみリーフ」自体が鮮やかなので、それが背景になって文字がとても映えますね。
大前──
作業効率という観点からのパッケージ変更でしたが、新鮮な見た目になって満足しています!
その代わり、スーパーマーケットに置いてもらうポップなどは手書きにして、生産者側の思いが伝わるように温かみを表現しています。
もっとさまざまな場所で「しまなみリーフ」を楽しんでもらいたい
──どういった想いで日々取り組んでいますか?やりがいを教えてください。
大前──
やっぱり食べた人に「おいしい」と言ってもらえるのがやりがいですね。
Instagramで「#しまなみリーフ」と検索すると、食べてくれた人が投稿してくれていたり。
自分の知らないところで、いろいろなアレンジを試していただいているのは広がり方としてとてもおもしろいですし、自分が作った野菜が喜んでもらえているのがシンプルにうれしいです。
前職ではなかなかそういう喜びを感じる機会がなかったので。
今は消費者の声が直接聞けたり、仕事で多くの業種・事業のかたがたと関われていることがとても楽しいです。
──今後どのように「しまなみリーフ」を広めていきたいですか?
大前──
もっとさまざまな場所でしまなみリーフが買えるようにするのが目標です。
今は地元・因島が中心ですが、周辺地域にもどんどん広げていきたいですね。
輸送コストなどが課題ですが、そこは工夫してとにかく「しまなみリーフ」を知ってもらえるように広報活動にも力を入れたいです。
また「しまなみリーフ」は収穫の関係で冬季限定の販売になります。
1年を通しておいしく召し上がっていただくためにも、加工やほかの商品とのコラボレーションも進めていきたいです。
しまなみリーフ入りのウインナー、ぎょうざは作ったので、今後も地元の特産品やお店、ほかの商品とうまくおいしさの掛け合わせを追求していけたらと思います。
──最後に、大前さんがおすすめする「しまなみリーフ」の食べ方を教えてください。
大前──
茎まで食べられるのでもちろんサラダにして生でも召し上がっていただきたいですが、私のイチオシは鍋です!
しゃぶしゃぶみたいにして、ポン酢で食べてみてください。
ほかにはお好み焼きに入れていただくのもおすすめですし……あ、レシピ集も作ったんです。ほら。
──うーん。ちなみに、このなかだとおすすめはどれですか?
大前──
本音は全部がおすすめなんですけど!
「シンプルグリーンサラダ」「フジッリ&リーフのグリーンソースパスタ」……「リーフのベーコン巻」もおいしいですよ。
リーフをベーコンで巻いて焼くだけでソース作りも簡単なのがポイントです!
おわりに
「女性が農業をやるにはいろいろな苦労があるのでは……?」
最初はそんな想像をして取材に臨みましたが、活き活きとした大前さんから「しまなみリーフ」への愛が伝わってきて、苦労よりもたくさんの喜びがあることがわかりました!
生鮮食品売り場でもよく見かける「生産者の顔が見える野菜」って信頼や安心につながりますが、畑にお邪魔して収穫も見せてもらい話を聞いたことで、消費者としてもものすごく親しみを感じたのも良かったです。
ちなみに筆者が作っておいしかった「しまなみリーフ」のレシピは、ひき肉と一緒に炒めてバター醤油を絡めた和風パスタでした。
サラダだけじゃなく、いろいろな食べ方ができるのはうれしいですね。
「しまなみリーフ」は尾道市周辺のスーパーマーケットやたからじまファームのECサイトで販売されています。
販売は冬季限定なので、見かけたらぜひ一度手にとってみてください。