傑作アルバム「家庭教師」むき出しの岡村靖幸がそこにいる!  2021年 11月16日 岡村靖幸のアルバム「家庭教師」がリイシュー

パンパンに膨れ上がった期待? 岡村靖幸「家庭教師」の衝撃

これまでの人生で最も聴いたアルバムは紛れもなく、1990年11月16日にリリースされた岡村靖幸『家庭教師』だ。

同年7月にリリースされたシングル「どぉなっちゃってんだよ」で、遅まきながら岡村ちゃん沼にハマった私。『家庭教師』がリアルタイム岡村ちゃんアルバムリリースの初体験であった。

リリース前にタイトルを知っただけで妄想爆発。『家庭教師』―― そんな四文字熟語をアルバムにつけるって、ホント、どぉなっちゃってんだよである。家で悶々と岡村ちゃんを聴くベイベ(岡村ちゃんファンはこう呼ばれる)たちに、岡村ちゃんが手取り足取り密室でいろいろ教えてくれる、そんなアルバムなの? 私の期待はパンパンに膨れ上がった。

リリース日に手に入れて、一気に聴いた『家庭教師』。“密室で教えてくれる” なんてそんなもんじゃない。もうね、密室から危ない世界に引きずり込まれたような、そのくらいの衝撃だった。

時は1990年、バブル末期のリアルが詰まっている!

1987年『yellow』、88年『DATE』、89年『靖幸』。『家庭教師』の前にリリースした3枚のオリジナルアルバムも、青春しててセクシャルな岡村ちゃんワールド全開なのだが、『家庭教師』はもっと切実でスリリング。これまでよりゴージャスなサウンドなのに、むき出しの “岡村靖幸” を見せつけられたような、そんな印象を受けた。

1990年の流行語大賞を見ると、「アッシーくん」「オヤジギャル」「バブル経済」…… そんな言葉が並んでいる。時代はバブル末期。のちの検証によると、90年秋にバブルははじけていたらしいが、私も含めて大半の日本人は、あの状態がずっと続くと思っていたのでは。“ジャパン・アズ・ナンバーワン” は永遠くらいに思っていたかもしれない。

トレンディドラマみたいな生活にあこがれ、気になるのは、週末に遊ぶクラブや、バーゲンで手に入れるべきブランドのこと。でも、こんなんでいいのかな。天安門事件があったし、中東が危ういことになってるし、株価も不安定なんでしょ? 私たち、平和ボケしてない? 夜遊びに夢中になりながらも、ぼんやりとした不安が徐々に生まれていた、あの頃のリアルが『家庭教師』には詰まっている。

日本語ファンクの一つの完成形、アナログ盤での新たな発見に期待大!

このアルバムのさらにすごいところは、そんな1990年という時代を切り取りながら、今聴いてもまったく古びていないこと。展開、アレンジ、岡村ちゃん独特の譜割りと歌い方。言葉のセンスが岡村ちゃんの魅力の一つだが、歌詞なんて何をのせてもいいんじゃ?と思わせるくらいに、サウンドもメロディーも唯一無二のキレキレ感。日本語ファンクの一つの完成形だと思う。あぁ、どう説明しても言葉が足りない。語りつくせない。

2021年11月16日、31年の時を越えて、ついに『家庭教師』アナログ盤がリリースされる。レコードで聴くことで、新たな発見があるのではとドキドキする。

まだ聴いてない人は、これを機会に、ぜひアルバムを通して聴いてみてほしい。イキりと焦燥感がひた走る「どぉなっちゃってんだよ」で始まり、濃密なセクシャルをぶち込んだり、爽やかに青春したり、少子化を憂いたりしながら、学生時代の甘くてほろ苦い記憶を呼び起こす名曲「ペンション」で終わる、この曲順である必要性もよくわかるはず。

タイトル通り、密室感があるのだが、アルバム全体で物語やつながりが感じられる『家庭教師』。私にとっては “青春大河アルバム” なのだ。これからも、何百回、何千回と聴き続けるに違いない。

カタリベ: 平マリアンヌ

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