【独自】懲戒処分「停職3カ月」を公表せず 警視庁巡査長がストーカー 「指針」に反し、隠ぺい?

◆ストーカーを繰り返し、「停職」

ストーカー行為を繰り返していたとして、警視庁の巡査長が停職3カ月の懲戒処分を受けながらこの事案が公表されていなかったことが、フロントラインプレスの取材でわかった。警察庁から都道府県警察に通達された「懲戒処分の発表の指針」によると、停職事案は発表する決まりとなっている。例外規定があるとはいえ、警視庁は「指針」に反する形で発表を見送っていた。非公表という事実は、懲戒処分事案に関する情報開示請求により、フロントラインプレスが入手した公文書から判明した。

問題の事案に関する開示文書は、そのほとんどが黒塗りされており、文書で把握できる情報は限られている。それによると、処分された職員は警視庁の本庁「■課」に所属する「巡査長」で、処分は「停職3カ月」だった。適用された法令は「地方公務員法第29条第1項第1・3号(規律違反など)」「ストーカー行為等の規制等に関する法律第18条」「警視庁警察職員服務規程第7条『信用失墜行為の禁止』等」。処分の発令執行は2020年1月17日で、規律の分類は「セクハラ・不倫等」だった。

警視庁作成の公文書。「停職3カ月」の文字が見える

◆刑事罰を定めたストーカー規制法18条も処分の根拠に

上記のストーカー規制法18条は罰則規定であり、条文には「ストーカー行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」と記されている。したがって、この「巡査長」は懲役か罰金の刑事罰を受けたことになる。それでも免職にはならなかった。

規律違反の内容は次のように記されている。

「職員は■■■■■■■■■■■■勤務している者である。職員は令和■年■月■日から■年■月■日までの■■■■■■■■■■■■■■■■に対し、のストーカー行為を繰り返し、その過程において■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■など、警察官としてあるまじき行為をなし、著しく規律を乱した」

開示された公文書は黒塗りが目立つ

◆「やむを得ない場合は公表しない」と警視庁

警察職員が国家公務員法や地方公務員法に基づいて懲戒処分を受けた場合、都道府県警察は「懲戒処分の発表の指針」に則って事案を公表することになっている。「発表の指針」は、1999年から2000年にかけて警察の不祥事が相次いだことから、警察庁が「警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化」を目指し、2001年に都道府県警察へ通達された。

法律に基づく公務員の懲戒処分は重い順に「免職」「停職」「減給」「戒告」の4種類ある。「指針」によると、警察が発表する懲戒処分は(1)職務執行上の行為及びこれに関連する行為に係る懲戒処分(2)私的な行為に係る懲戒処分のうち停職以上の処分―などとなっている。したがって、職務執行上の行為であれ、私的な行為であれ、停職以上はすべて発表しなければいけない。

警察庁が都道府県警察に通達した「指針」

ところが、警視庁はこの事案を発表しなかった。同庁人事一課の担当職員は、フロントラインプレスの取材に対し、「『発表の指針』には例外規定として、『被害者その他関係者のプライバシーその他の権利利益を保護するためやむを得ない場合は、発表を行わない』とあり、それに該当するということ」と説明した。

確かに「発表の指針」には例外規定はある。だが、このストーカー事案に関する停職処分が発令された2020年1月17日の前後、警視庁は例えば、2019年12月中旬と2020年1月下旬などにストーカー規制法違反容疑で一般人を逮捕した事案を報道発表している。停職処分を受けた「巡査長」がその後、書類送検されたかどうかなどは不明だが、“身内”と一般人による行為との比較で、逮捕・不逮捕や事案公表が二重基準になっていないだろうか。

また、警視庁の警察官による過去のストーカー事案としては、2007年8月に立川署の巡査長がストーカー行為の果てに32歳の女性を拳銃で殺害する事件が起きている。

◆識者「警察庁の指針に反して発表しないのは意味不明」

「発表の指針」を制定した目的は「警察行政の透明化」だった。これに反するような警視庁の対応について、日本体育大学の清水雅彦教授(憲法学)は「警察は時に一般人なら逮捕するケースでも、相手が警察官なら書類送検にしたり、懲戒免職相当事案なのに依願退職で済ませるなど身内に甘い傾向がある」とした上で、こう指摘した。

「今回問題となっているストーカー事案の場合、発表の仕方や内容によっては被害者のプライバシーに影響のない方法はあろうかと思う。プライバシーの保護を理由に、警察庁の指針に反して発表しないと言うのは意味不明だ。同じ時期の一つひとつの事例と比較するなどして警察の対応について今後も指摘していくしかない」

(フロントラインプレス・本間誠也)

© FRONTLINE PRESS合同会社