半世紀ぶりSL奇跡の復活 山北町でD52試運転

 約半世紀動かなかった機関車の車輪がゆっくりと回りだし、汽笛が山あいの町に響き渡った。山北町山北の山北鉄道公園で18日、常設されている蒸気機関車D52の試運転が行われた。同SLを動態化させる町の「奇跡の復活事業」の一環。鉄道ファンや町民ら約100人が見守る中、「歴史的遺産」に再び命が吹き込まれた。

 機関士役は、町から動態化を委託され、作業を進めてきた鉄道文化協議会の恒松孝仁さん(60)。元機関士でもあり、この日はかつての国鉄時代の制服「ナッパ服」で正装し、助士とともに連携して慎重に車輪2回転分の距離を3往復させた。

 動力にかつての蒸気とは異なり、圧縮空気を用いる以外は当時と同じ仕様。煙室でまきを燃やして煙をはき出す“演出”を加え、「ボーッ」という迫力のある汽笛が一帯にとどろいた。

 走行距離が短い分、操作には細心の注意を払ったという恒松さんは「試運転としては完璧。車軸にも油が回っていた。郷愁というか、現役当時をほうふつさせますね」と自身5両目の機関車再生に胸をなで下ろし、関係者らと固い握手を交わした。

 山北は明治期から東海道線(現在の御殿場線)の重要拠点として栄えた「鉄道の町」。町は新たな観光資源としてSLの動態化に着目、国の「地方創生」事業にも認められ、昨年末から着手した。山北鉄道公園保存会の関亀夫会長(82)は「13カ月前に初めて聞いた話がもう現実になるとは。機関車が生き返った感じ」と驚きの表情だった。

 試運転に手応えを感じた恒松さんは「動いたという既成事実ができた。日本に現存するD52で自力走行できるのは山北町のものだけ」と胸を張る。10月14日の「鉄道の日」での復活披露に向け、今後は安全柵設置など作業が進められる。

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