ブラック・キャッツ「VIVIENNE」原宿発ジャパニーズ・ネオロカビリーの誕生!  ブラック・キャッツ 結成40周年

原宿クリームソーダ、リーゼントのカリスマ店員たち

80年代初頭、ヒョウ柄にドクロマークのタグが付いたクリームソーダ(CREAM SODA)の長財布が全国のツッパリ少年の羨望の的となり、大ブームを巻き起こす。ボンタンなど改造学生服のケツのポケットからチラリとのぞかせるドクロマークのカッコよさは、すべてのツッパリ少年の共通認識であり、僕も例外ではなかった。

原宿にあった二軒のクリームソーダには、この財布を目当てに押し寄せる全国の中高生が後を絶たなかった。連日開店前から、学生服姿の修学旅行生が群れを成す。

クリームソーダというポップでキャッチーなネーミングと反逆の象徴であるドクロが結びついた瞬間、80年代を象徴する原宿カルチャーが生まれ、瞬く間に全国を席捲したのだ。そんなブームの渦中にあってもブラック・キャッツのメンバーは、店に立ち続けていた。

彼らは原宿クリームソーダの店員で結成された伝説のロカビリーバンド。昼間でも真っ暗なクリームソーダの店内には50年代のロックンロールが爆音で響き、リーゼントでキメた店員たちの甘いグリースの香りが満ち溢れていた。

当時、中学生だった僕にとって紛れもない一発目のカウンターカルチャー! 初めて店内に足を踏み入れた瞬間の心臓の鼓動を今でも覚えている。それはタブーの扉を開けた瞬間だった。

リーゼントに派手な50sファッションで身を包んだ店員たちは皆優しく、ブラック・キャッツのメンバーたちも例外ではなかった。太宰治の『斜陽』の一節の言葉を借りるのであれば「不良とは、優しさの事ではないかしら」とでも言おうか―― そんな店員たちに全国のツッパリ少年は心底憧れた。少し前に「カリスマ店員」なる言葉が流行ったが、そんな生易しいものではなかった。80年代のクリームソーダの店員たちは、真のカリスマ店員だった。だって、僕は今でも彼らに憧れ続けているのだから。

ジャパニーズ・ネオロカビリーの誕生!セカンドアルバム「VIVIENNE」

ブラック・キャッツは1981年9月21日ファーストアルバム『CREAM-SODA PRESENTS~BLACK CATS』をリリース。デビュー当時、メンバー全員が楽器の初心者ということもあり、このアルバムはティーンエイジャーの激情を真空パックしたような “粗削り” なガレージサウンドであった。しかし、メンバーは、超多忙な日々を送る中、練習を重ねる――

半年後にリリースされた『VIVIENNE』では格段に演奏が上達し、音が研ぎ澄まされていた。このアルバムのA面では50年代の早世のロックスター、バディ・ホリーの甘く切ないメロディを踏襲。それは、クリームソーダの店内に漂う甘いグリースの香りとハワイアンシャツのプリントを想起させるようなトロピカルな印象だった。

全曲カヴァーのB面では、エルヴィス・プレスリー、リトル・リチャード、ビル・ヘイリーといった往年のスターたちの名曲を80年代ニューウェイブ的な解釈でブロウアップさせ、独自の世界観を確立する。当時、人気を博していたストレイ・キャッツとは、全く趣の違うジャパニーズ・ネオロカビリーの誕生だ。

クラッシュ、ジョニー・サンダース、ゴーゴーズ… 愛されたブラック・キャッツ

このアルバムがリリースされる約1か月前、来日公演を行ったザ・クラッシュのメンバーは、クリームソーダに立ち寄っている。彼らはブラック・キャッツのファンだと公言し、数年分の会費を払いファンクラブに入会したという。また、パンクロックのオリジネーターの一人でもあるジョニー・サンダースのギター(レスポールJr)にはブラック・キャッツのステッカーが貼られていた。

そして彼らは1982年の夏、ビルボードでNo.1を獲得したガールグループ、ゴーゴーズ(The Go-Go's)のフロントアクトとしてアメリカツアーを大成功に収める。さらに、1984年からは、ヴォーカルの高田誠一、覚田修が2年連続コカ・コーラのCMに出演。

レベルミュージックの歴史に名を残すミュージシャンたちに愛され、最盛期から30年以上経つというのに、現在でも彼らのロゴの入ったグッズや服は売れ続けている。こんなバンド、日本においては他に類を見ないだろう。ブラック・キャッツの伝説は世代を超えて受け継がれ、これまでにリリースをした再発盤を含むCDの売り上げは100万枚を超えているという。

カタリベ: 本田隆

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