薬師丸ひろ子「LOVER'S CONCERTO」アルバム曲順に感じる繊細かつ美しい愛の物語  薬師丸ひろ子 歌手活動40周年

薬師丸ひろ子のコーラス魂を感じる「A LOVER’S CONCERTO」

さあ、美しい愛の物語が始まる!

薬師丸ひろ子の6枚目のオリジナルアルバム「LOVER'S CONCERTO」(1989年)は、タイトルチューン「A LOVER’S CONCERTO」から幕が上がる。

快晴の朝、カーテンをパーッと明けたときのような爽快感! 太陽の温かい光を全身で感じるようなイメージで、薬師丸ひろ子の歌声が降り注ぐのだ。

そもそもこの楽曲は、1965年にアメリカのガールズバンドThe Toysが発表し、国内外問わず、いろんな方がカヴァーしている名曲。1990年後半、三菱シャリオグランディスCMで流れていたサラ・ヴォーンverはとてもキャッチーだったし、古くは1966年の紅白歌合戦で、金井克子さんがゴーゴーアレンジで歌っていた。

薬師丸ひろ子のアレンジは、曲の基になっているJ.S.バッハの「メヌエット・ト長調」の可憐さがグンと前に出ている出色の出来。「あぁーピアノで習ったわ」…… というノスタルジーも添えて感動が来る。

彼女の歌の原点が合唱であるというのは有名な話だ(高校時代、コーラス部所属)。声に特徴はあるが歌い方はまっすぐでクセがない。それが独特のロイヤル感を出し、最強の個性になっている。

このアルバム当時、彼女は25歳。歌手デビューから8年経っていたが、これまでのどの曲より、彼女のそんな合唱魂がストレートに活されている一曲に思える。

心の澱みとか疲れとか、剥がれていく心地良さがなんだか懐かしい。

折り返しは「元気を出して」バレンタインバージョン

全10曲のこのアルバムの醍醐味は “歌の順番でストーリーを感じる” こと。1曲目「A LOVER’S CONCERTO」で美しく壮大に始まり、折り返し地点の5曲目では「元気を出して」のバレンタインバージョンがしっとり流れる。

井上鑑による編曲は間奏のギターが寄り添ってくれるようで、切ないけど癒されるというミラクルな仕上がり。ここでじーんと来たあとに、第二章のはじまりを思わせるドラマチックな「水色の瞳」が続く。この展開、最高にエモーショナル!

終盤、讃美歌を思わせる神々しい9曲目「うたかた」から「語りつぐ愛に」で締める流れも胸がキュッとくるほどメランコリックだ。

10曲を通して、繊細かつ美しい愛の物語が紡がれているイメージ。「天使の歌声」と言われ、歌手としても評価がとても高い彼女だが、オリジナルアルバムのコンセプトがどれもしっかりしている点も、その大きな要因の一つだろう。

歌の世界を作り上げる職人の面々も松井五郎、筒美京平、吉田美奈子など相変わらず豪華だが、珍しいところでは、4曲目の「平凡」で小室みつ子の詞に平松愛理が曲を付けている。これがとても瑞々しくてチャーミング! 薬師丸ひろ子の少女性がふんわりと出ている。

水曜グランドロマン伝説の主題歌にもなった「語りつぐ愛に」

ラストの「語りつぐ愛に」は、作詞:来生えつこ、作曲:来生たかおという「セーラー服と機関銃」コンビによるもので、1988年から1991年日本テレビ系で放送された長時間ドラマ『水曜グランドロマン』の初代主題歌。『水曜グランドロマン』枠自体は3年と短命ではあったが、主題歌は伝説。この「語りつぐ愛に」と「瞳がほほむから」(今井美樹)、「水に挿した花」(中森明菜)と名曲揃いである。

もともと来生たかお14thアルバム『With Time』(1988年)に収録されていたこの歌を、彼女が歌うことに決まり、競作になった。ネットリとした来生たかおバージョンも素晴らしく、こちらは薬師丸ひろ子verより憂いが強め。ただ、どちらかを聴いたら、もう片方のアレンジも聴きたくなるというデンジャラスな引き寄せの法則を発するので、両方スタンバッておくのがオススメだ。

ちなみに、薬師丸ひろ子は「語りつぐ愛」をレコーディングでとても気分よく歌え

「あっ、自分は歌が上手いかもしれない」

―― と感じたという。ところがその後録音した、同じ来生作曲の7曲目「つばめが飛んだ空」(作詞:松井五郎)は試されているように感じるほど苦戦したのだとか。

来生たかお作品に翻弄される薬師丸ひろ子……。なんとも妄想をくすぐるエピソードである。

アルバムに収録されている「語りつぐ愛に」はオリジナルよりもイントロが長く、ドラマ性がより強く感じられる。「A LOVER'S CONCERTO」で開いたカーテンから様々な愛の景色を見た後、カーテンが閉じられ、エンドロールがゆっくりと降りてくる――。そんな終演の余韻が耳から全身に広がっていく。

アルバム『LOVER'S CONCERTO』は1枚が物語。もし、サブスクリプションで聴くのであればぜひ、シャッフルはせず、通しで!

カタリベ: 田中稲

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