ボクシングファンが待ちに待った国内最大級のビッグマッチ、世界ボクシング協会(WBA)ミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳)が、世界的な人気を誇る国際ボクシング連盟(IBF)同級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)と闘う統一戦は12月29日、さいたまスーパーアリーナで予定されていた。
しかし、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の影響で外国人の入国が禁止され、12月3日、来春に延期されることが発表された。ボクシング界には衝撃が走った。
日本人が出場するこれほどのスーパーファイトは数えるほどしかないだろう。
歴史を振り返り、同レベルの試合を挙げれば、1952年5月、フライ級の白井義男が日本初の世界戦に登場した一戦。また65年5月、ファイティング原田が“黄金のバンタム”エデル・ジョフレ(ブラジル)に挑み、2階級制覇を達成した熱戦ぐらいだろうか。
今回は重量級のミドル級。両者とも抜群の実績を誇り、注目度、世界的な規模を考えると正真正銘の「世紀の対決」である。
村田は2012年ロンドン五輪金メダリストで、アマチュア、プロの両方で頂点に立った唯一の日本人だ。
落ち着いたスタンスから放つ連打は鋭い。戦績は16勝(13KO)2敗。一方のゴロフキンは04年アテネ五輪の銀メダリスト。破格の強打に定評があり、過去にWBAミドル級王座を19連続防衛。41勝(36KO)1敗1分けで、安定感がある。
夢の実現へ準備は着々と進められていた。ともに人気、実力を兼ね備えており、日程調整などハードルは高かった。
しかし、両陣営とも対決へ前向きで、11月12日に正式発表された。
村田が「彼を倒し、自分が最強だと証明したい」と勝利宣言すれば、ゴロフキンも「村田はスーパーチャンピオン。素晴らしい試合がしたい」とコメントしていた。
高額チケットの前売りも開始され、後はゴングを待つだけだった。
しかし、状況は一変。関係者によると、ゴロフキンらの特例措置による入国も認められなかったという。それでもファンにとって村田の変わらないスピリットが救いだろう。
ショックを振り払うかのように本人は「今回の件は自分の人生を愛するための試練」と驚くほど冷静に受け止めている。
村田は19年12月以来、2年以上もリングから遠ざかることになる。
年齢も来年1月12日で36歳を迎える。その中、ボクサー人生の集大成ともいえるリングで「闘う哲学者」はどのような答えを出してくれるのだろうか。(津江章二)