なぜ“戦力外ドキュメンタリー”は人気なのか 「社会の縮図」が視聴者の共感呼ぶ?

なぜ“戦力外ドキュメンタリー”は人気なのか(写真は18年のトライアウトの様子)【写真:福谷佑介】

第1回放送から10年以上携わった元担当ディレクターが明かす舞台裏

時に絶望し、悩み、支えられ、立ち上がる。プロ野球人生と向き合う数々の姿に、寄り添ってきた。今年で18回目を迎えるTBS系の人気番組「プロ野球戦力外通告」。家族を含め、ありのままの姿をさらけ出す密着取材を可能にしているのは、選手との信頼関係。第1回放送から10年以上携わった元担当ディレクターは「何を聞かれてもいいと思ってもらえるくらい仲良くならないといけない」と語る。

【表】人気番組「戦力外通告」に過去出演した選手の一覧

野球ファンだけでなく多くの共感を呼ぶ年末の風物詩。今年は28日午後11時から放送され、元楽天・牧田和久投手や元ソフトバンク・川原弘之投手、元阪神・高野圭佑投手に密着している。「そろそろ視聴者として見たいんですが、まだ無理ですね。取材する側として見ちゃいます」。2015年まで担当したディレクターの根本教彦さんは、そう言って頭をかく。放送が始まった2004年当時から現場で取材してきた番組の“生き字引”的存在だ。

戦力外通告の直後から、密着を開始。トライアウトの合否も含め、選手がどんな決断をするか全くわからない中でカメラを回す。「本当に読めないので、リアルに追っていくしかない」。プロ人生の岐路に立たされた悲痛な言葉が欲しいと思っても、「そんなに辛くないです」と言われることも。ただ、その想定外こそが各選手や家庭の“色”でもあり、紛れもないリアルになる。

リビングに家族とディレクターなんて風景はしばしば。気まずい空間にさせないためにも「まずは邪魔しないこと。奥さんや家族に好かれないと始まらないですね」。空気のような存在になったり、練習相手になったり、一緒に息抜きしたり、選手の子どもと遊んだり……。「カメラが回ってない時間もかなり多いです」。様々なアプローチ方法で、関係を築く。

欠かさぬ戦力外選手への敬意「友達って感じではないですね」

ただ、単に仲良くなればいいというものでもない。「友達って感じではないですね。やっぱりプロ野球選手だという尊敬する姿勢は忘れないようにしていました」。聞きにくい話題を振らなければいけない場面があるからこそ、適度な距離感も不可欠。「選手の立場になって考えるようにしていました。もし自分が選手で、奥さんや子どもがいたら、今どんな気持ちだろうと」。時や場所を選びながら思いを聞き出してきた。

そんな丁寧な取材を、映像に投影する。「視聴率なんて考えたことはなかったですね」。番組名こそ悲壮感が漂うが「挑戦している姿を取材し、元気を与えるものだと思っています」と確信する。ひと言で表すなら「社会の縮図、とでも言うんですかね」。逆境に目を背けず、たとえ泥臭くてもリスタートを切る姿は、どんな視聴者も他人事に思えない瞬間がある。

取材や編集作業は決して一筋縄ではいかないが「終わってみると、やって良かったなと思うんです」。一テレビマンとしても、名刺がわりになる番組に携わってきたことを誇りに思う。「周りから『どんな番組やってきたの?』と聞かれた時に言うと、『あれやってたんだ!』と反応がいいんですよね」。担当から外れて6年経っても、大切な存在に変わりない。

番組公式ツイッター:https://twitter.com/tbs_senryoku?s=21

番組公式サイト:https://www.tbs.co.jp/senryokugaitsuukoku/(小西亮 / Ryo Konishi)

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