「3カ月先どうなってるか」「スマホが命綱」 年末年始、炊き出しの列で声を聞く

「先が見えない毎日に疲れている。いつまでこんな状況が続くのか」―。寒空の下、炊き出しの行列に並んだ男性はそう訴えた。前年に続き、コロナ禍の収束が見通せない中で迎えた年末、そして年始。仕事や住居を失った人たちへの炊き出しや弁当配布、緊急相談会などの「年越し支援活動」が首都圏の各地で行われた。支援団体は「炊き出し行列の人の数はリーマンショックのとき以上」「コロナで雇用の底が抜けてしまったような状況」と口を揃えた。炊き出しに並ぶ人たちに、その胸の内を聞いた。

◆「野宿は寒いですよ」 緊急宿泊所を追い出されたことも

12月30日、東京・千代田区麹町の教会で「年越し大人食堂」が開かれた。弁当などの配布は正午。その1時間前には、100人近くの列ができていた。用意されたのは400食分のレトルトの中華丼だ。菓子や缶詰なども配られた。会場では生活相談、健康相談なども受け付けていた。

近くの土手の上で、弁当のふたを開けた男性(41)は昨年8月に警備会社のアルバイトを解雇されたという。黒いニット帽にダウンコート。肩にショルダーバッグをかけ、背中に大きなリュックを背負っている。寝袋を詰めたバッグが足元に置かれていた。解雇されてから間もなく住まいを失い、「9月くらいから公園で野宿してる」と言う。

野宿は寒いすよ。でも自分、緊急宿泊所のような人がいっぱいいる所、合わないんです。ストレスたまるんです。大きな声を出したら追い出されたこともあったし。

男性は問わず語りに、「毎日、あちこちの炊き出し(会場)を回って(食べるほうは)何とか…。こういうの、本当、ありがたいすよ」と口にした。所持金を問うと、「500円もあるかな」と首をかしげた。

炊き出し会場に戻って生活相談を受けてみてはと水を向けると、明確に拒まれた。

そういうのはいいんです。自分、自分のことを分かってくれる人じゃないとダメなんです……。自分のことを分かってくれる人とは今、連絡が取れなくなってしまって。何とか仕事、探さないと。でも、どこもダメなんですよね。警備の仕事だったら戻りたいけど。

東京・麹町の教会で(撮影・本間誠也)

◆「あっちこっちの炊き出しを回っている」

コロナ禍の前は「一人親方」として建設関係の仕事をしていたという男性(72)は、ハンチング帽をかぶって茶色い厚手のコートを着込んでいた。正午からの弁当配布に合わせて、池袋のアパートから麹町まで「歩いて来た」という。

コロナで仕事は全然ダメ。たまに知り合いから声がかかるくらい。家賃を払うので精いっぱいだから、あっちこっちの炊き出しを回ってる。1カ月前には外で倒れて新宿の大久保病院に運ばれたんだけど、その医療費も払ってない。医者は栄養失調だって言ってた。いろんな人から「生活保護を受けたら」と言われるけど、おれは住所、いろいろ変わってて、その手続きが面倒だから……(生活保護の申請を)やっても多分ダメじゃないの? 年が明けていよいよ苦しくなったら考えてみる。

◆命綱はスマホ「止められたらバイトもできない。終わりだよね」

12月30日、東京都内は朝方、氷点下近くまで冷え込んだ。麹町の協会で中華丼などが配られていた午後1時には14.1度まで上がったものの、夕暮れとともに寒さはまた厳しくなる。

冷たく、強い北風が吹く中、新宿に足を伸ばした。都庁近くの新宿中央公園。午後6時からの炊き出しを前に4時半から冬物衣料が配布されることになっていた。スケートボードを楽しむ少年たちの横で、支援者たちがブルーシートを広げていく。段ボール箱から毛布やコート、セーターやズボンなどが大量に運び込まれた。その周りを約100人が囲み、気に入った服や寒さをしのげる服を選び始めた。

大きなビニール袋に毛布や何着もの服を詰め込む人、自分の脚にズボンを合わせて長さを比べる人……。大半は50~70代の中高年の男性だが、中には30~40代の男性や、わずかながら女性もいた。

東京・新宿中央公園(撮影:本間誠也)

両肩に3つのバッグをかけて服を選んでいた男性に話し掛けた。30代に見える。ぶっきらぼうなもの言いながらも、質問にポツポツと答えてくれた。

男性は10月、派遣で働いていた機械工場を解雇され、工場が契約していたアパートからも「追い出された」。貯金はほとんどなかった。その後は日払いの清掃のアルバイトを「週に2、3回」。ネットカフェなどで寝泊まりしているという。手持ちの現金がなくて宿泊できないときは一晩中、新宿の街を歩き回ったり、マクドナルドで時間つぶしをしたりした。

スマホの支払いを滞納してるので、いつ止められるか。早く(お金を)入れないと。止められたら掃除のバイトができなくなる。(そうなったら)終わりだよね。工場を首になったのはコロナ(のせい)か分からないけど、景気が悪いからじゃないの?……地下街が広いから、(新宿に)いるようになった。(地下街は)外よりはずっとあったかい。寒い時は何したって寒いから。

今晩、12月30日の寝場所は「まだ決まってない」と男性は言った。

◆2021年が明けて「3カ月先はどうなってるか…」

年が明けた1月2日。

池袋のサンシャインシティは新春の買い物をする家族連れや若者たちでにぎわっていた。同じエリアにはプラネタリウムや水族館、高層ホテル、展望台もある。東池袋中公園があるのは、サンシャインシティのすぐ横、ほとんど同じ区画だ。

日没の頃、その公園に長い列ができていた。午後6時からの弁当配布を待つ人たちだ。気温は5度を下回り、行列の人たちはみな肩をすぼめている。

支援物資を受け取った男性(52)が立ち止まってくれた。弁当やお菓子、果物などが入ったビニール袋を手にしている。この会場の炊き出しに並んだのは「2度目」だったという。働いていた中古車販売会社を解雇され、「失業保険で何とか食いつないでいます」。だが、失業保険の給付も「あと2カ月で終わり」。次の仕事は決まっていない。

アパートに住んでいるから、私なんかまだマシなほうかも。でも、3カ月先はどうなっているか。仕事は探しているけど、ないんですよ。アルバイトやパートみたいなのはあるけど、やっぱり安定したのに就きたいし……。先が見えないのがつらいです。夜寝れないし、怖くなる時もあります。

東京・東池袋で(撮影:本間誠也)

◆状況は最悪 支援団体「リーマンショック時以上」

東池袋中央公園で炊き出しなどの生活困窮支援を行っているのは、NPO法人「TENOHASHI」だ。事務局長の清野賢司さんは「今年度(2021年度)の炊き出し利用者は、リーマンショックの時を超えて最高の人数になると思います。毎回毎回、初めて来られる人が多くて」と危機感を募らせる。

コロナの緊急事態宣言が解除された2021年9月以降も、行列に並ぶ人は減らなかった。11月27日には、1日としては過去最高の472人を記録した。1日当たりの平均利用者は、2019度が166人、2020年度が約230人。清野さんは「2021年度は380人から400人になる見通しです」と明かし、こう続けた。

この会場で生活相談に来る人の平均年齢は、2021年度もその前の年度も48、49歳です。炊き出しに並ぶ人の平均年齢も同じくらい。ただ、炊き出しに並ぶ若者の数は増えています。一方的に仕事を首になった、一方的にアルバイトのシフトを減らされた、といった20代、30代の相談もよく受けます。

何の保証もない非正規の人がこれだけ増え、フリーランスの人も増えてきて……。そういった状況でコロナのようなことが起こると、いとも簡単に生活の基盤が失われてしまいます。そういうことが露呈してしまいました。先が見えない中、次の仕事に就けるまで少しでも節約しようとしている人で、われわれの炊き出しに並んでいる人はかなりいると思います。

東京・東池袋(撮影・本間誠也)

清野さんは、次のように行政に強く要望する。

相談受けて思うことは、住まいが安定していない人が多いことです。誰もが安定した住居を得られるよう、経済政策などではなく、社会保障として住宅政策に取り組んでほしい。困窮した人が住まいを失うことがあっても、(政策によって)普通のアパートに住むことができて次のステップに進めるように。下支えとなるように。われわれは『ハウジング・ファースト』と呼んでいます。これを日本の社会政策にきちんと位置付けるべきではないでしょうか。

◆横浜・寿町 1月3日、炊き出しに400m以上の列

横浜・寿町はかつて、東京・山谷、大阪・釜ヶ崎と並ぶ日雇い労働者のまちとされた。

1月3日。寿町の寿公園では、12月30日から始まった「年越し炊き出し」の最終日を迎えていた。カレー弁当の配布が始まる午後3時には、寿公園のある約100メートル四方のエリアを1周以上、400メールを超える長蛇の列ができていた。

列にはドヤ(簡易宿泊所)の自室から出てきた高齢者がいた。ほかにも耳にピアスをした若い男性、小学生の子どもを連れた親子がいる。一見、場違いと思えるような、普通の身なりの中高年の男性も少なくなかった。

50代の女性が取材に応じてくれた。

ベージュ色のコートは厚手で、フード付き。ショルダーバッグを2つ、肩にかけている。「炊き出し(に並ぶのは)は初めて」と言う。洋菓子の工場で働いていたが、コロナ禍で10月末に雇い止めになった。蓄えは「ほんの少し」で、「来月の家賃が支払えないかもしれない」とうなだれている。

「思い切って(行列に)並びました。少しでも節約できるから」。次の仕事の当ては? その問いには黙って首を横に振るだけだった。

横浜・寿町(撮影・本間誠也)

◆支援者「雇用の底が抜けた。初めて見る顔が増えてきた」

炊き出し会場内で生活相談、健康相談に応じる森英夫さんによると、炊き出しに並ぶ人の中に、初めて見る顔が増えている。

地区の路上生活者の夜間パトロールをしていても、以前からの人たちに加え、40代くらいの新しい人もいます。コロナによって底が抜けたような雇用の状況が、多くの人を困窮に追い込み、多くの人の住まいを失わせています。苦しんでいる人には『生活保護などを受けることは権利であり、受給することをためらう必要はないんです』と呼びかけたい。私たちはその手助けをしたいと思っています。

年末年始の炊き出しを挟んだ12月30日、東京証券取引所の日経平均株価は2万8791円を付け、年末の終値としては32年ぶりの高水準となった。年が明けた1月4日、年明け最初の終値は2万9301円。年末の大納会の日よりも500円以上も高くなった。

しかし、炊き出しに並んだ人や並ぼうかどうか迷っている人にとって、そんな話は関係がなかった。2008年のリーマンショック以降の13年余り、「過去最大の経済対策」「いずれ良くなる」「アベノミクスで景気回復!」といったフレーズを虚しく聞かされ続けてきたのだ。

日本の足元の脆弱さ、崩壊ぶりは何も変わっていない。

(フロントラインプレス・本間誠也)

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