【追う!マイ・カナガワ】使用済みパソコンから「都市鉱山」発掘 平塚の〝達人たち〟に会いに行った

ドライバーでパソコンの解体作業をする男性=平塚市西真土1丁目

 「古い小型家電から集めた金属は本当に五輪のメダルになったの?」という疑問を取材し、東京五輪・パラリンピックのすべてのメダルがリサイクル資源で作られていたことを伝えた昨年12月の「追う! マイ・カナガワ」の記事を読んだ平塚市の露口信行さん(51)から、リサイクルの現場をぜひ見てほしいと連絡をもらった。露口さんが働くNPO法人は障害者の就労支援の一環で、「都市鉱山」とも呼ばれる使用済みパソコンから金属の〝発掘〟を手掛けているという。

 「この作業から出た基盤が金メダルになるということは伝えていますが、作業している障害者がどれほど理解しているかは分かりません。でも、みんなも選手の活躍に携われたのはうれしかったと思いますよ」

 平塚市の住宅街の一角。アイヌ語で「キラキラ光る」という意味を持つNPO法人トムトムの事業所で、FMラジオが流れる中、自閉症やダウン症などの障害のある人たちがペンチやドライバーを器用に使ってパソコンを解体していた。

 トムトムは「日本基板ネットワーク」という団体に所属し、約20人で年間2千台ほどのパソコンを解体し、金メダルの基にもなった基盤、鉄類、モニターなどに仕分けしている。金を含む基盤であれば、精錬事業者、鉄や非鉄類であれば県内のスクラップ事業者へ納品し、収益を障害者の工賃に充てているという。

 トムトムでは、とてもスピーディーに細かい作業を行う障害者の人たちを「マイスター(達人)さん」と呼んでいる。細かな作業に長時間集中して取り組んでいたマイスターさんたちに、露口さんは「コツコツ実績を重ねて、社会や地球環境保全に貢献していきたいですね」と目を細めた。

 全国の約50の作業所などが参加する日本基板ネットワークにも話を聞くと、担当者は「障害者が作業したものが形になったことはうれしい。メダルになったのは象徴的なことだが一過性で終わらせてはいけない。今後も、資源循環社会に貢献することが大切だ」と力強く語ってくれた。

◆取材班から

 障害者が一生懸命パソコンを解体する姿を目の当たりにし、記者の脳裏には五輪のメダルシーンが思い浮かんだ。今まで廃棄されたり、海外へ送られたりしたものを丁寧に分別することで、五輪のメダルにもなっている。感動の裏に、たくさんの人々の思いが詰まっていることが実感できた。

 ただ、企業や行政が情報流出などの懸念を強めている事情もあり、各作業所は古いパソコンをコンスタントに集めることに苦心しているとも聞いた。障害者の就労支援にもつながるので、自宅に眠っているパソコンを寄付に回してみたらいかがだろうか。

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