見過ごされた先駆者・村上雅則 メジャー公式サイトが特集記事を公開

日本時間1月31日、メジャーリーグ公式サイトのマイケル・クレア記者は「見過ごされた先駆者・村上雅則」と題して史上初の日本人メジャーリーガーである村上雅則を特集する記事を公開した。南海ホークス入団後、野球留学でジャイアンツ傘下A級フレズノに派遣され、1964~65年に2年間だけメジャーの舞台でプレーした村上。クレア記者は様々なエピソードや村上自身の発言を交えながら、「マッシー」の愛称で親しまれた日本人左腕のキャリアを振り返っている。

「まだ幼い頃に野球を好きになった」という村上だったが、父の清(きよし)は息子をスポーツ選手にするのではなく、医者になってほしいと考えていた。しかし、村上は野球を諦めることができず、中学2年のときに父に内緒で野球部に入部。すぐに父にバレてしまったが、一生懸命に勉強して成績を維持することを条件に野球を続けさせてもらえることになった。父は息子に「野球選手になりたいなら日本で一番の選手になれ」と言い聞かせたという。

プロ2年目の1964年、村上はチームメイトの2選手とともにジャイアンツ傘下A級フレズノに野球留学することになった。このとき、ジャイアンツはメジャー昇格者が出た場合に1人1万ドルで買い取ることができるオプションを盛り込んでいたが、南海側はメジャー昇格者など出るわけがないと考えていたという。このオプションの存在がのちに問題を引き起こすことになる。

ジャイアンツのキャンプ地に合流した村上は、日本に比べて練習がはるかに軽いことにカルチャーショックを受けたという。その後、マイナーで49試合(うち1先発)に登板して11勝7敗、防御率1.78の好成績を残し、7月の試合ではランニング本塁打も放った。こうした活躍が認められてメジャー昇格が決まり、9月1日のメッツ戦の試合開始15分前に契約書にサイン。その日の8回裏に登板し、ついに「メジャーリーガー・村上雅則」が誕生したのだった(1回1安打2奪三振無失点)。当時の「週刊ベースボール」には「プロ野球創設以来30年の努力の末、我々の夢が実現した」と記されていたという。

初登板から4週間が経過した9月29日、村上は9回表からの3イニングを1安打無失点に抑える好投を見せ、メジャー初勝利をマーク。村上は「夢を見ているような気分だった。ホテルに帰ったときに自分が日本人メジャーリーガーとして初勝利を挙げたことを実感した」と当時のことを振り返っている。村上はこの年、メジャーで9試合に登板して1勝0敗1セーブ、防御率1.80を記録。ジャイアンツは当然のように村上を買い取るために1万ドルを南海に支払った。

ところが、南海は村上を帰国させるように主張。村上のメジャー挑戦はわずか1年で終わってしまうかに思われたが、数カ月にわたる議論の末、「1965年シーズン終了後に南海復帰」という妥協案で決着した。村上は5月からジャイアンツに合流。5月6日には同じ誕生日のウィリー・メイズとともにチームメイトから誕生日を祝ってもらったという。「村上と私は言葉がいらないくらい仲良しなんだ」とメイズ。のちに殿堂入りするゲイロード・ペリーも当時ジャイアンツに在籍しており、「彼は昔も今も、これまでに出会ったなかで最も素敵な人間の1人だ」と話している。

オフシーズンのゴタゴタが影響したのか、序盤は不安定なピッチングが続いたが、最終的には45試合(うち1先発)に登板して4勝1敗8セーブ、防御率3.75をマーク。8月15日には日本人初のメジャーリーガーとなった村上の功績を称えて「マサノリ・ムラカミ・デー」が開催された。この年、ジャイアンツは首位ドジャースと2ゲーム差の2位に終わったが、クレア記者は「村上がフルシーズン投げていたらどうなっていただろうか」と記している。

アメリカでプレーする機会を与えてくれた鶴岡一人監督との約束を守り、1966年から南海に復帰した村上。日本では18年間で103勝82敗30セーブ、防御率3.64という成績を残したが、クレア記者は「日本人初のメジャーリーガーという大きな伝説の足元にも及ばない」とメジャーでの村上の功績を強調する。引退後もジャイアンツとの交流は続いており、2008年にはボブルヘッド・デーが開催され、2014年にはデビュー50周年を記念して始球式も務めた。

村上のあと、次の日本人メジャーリーガーが誕生するまで30年も待たねばならなかった(1995年の野茂英雄)。現在まで続く日本人メジャーリーガーの流れが野茂からスタートしていることは間違いないが、我々は村上の先駆者としての功績を見過ごすべきではないだろう。その村上は「人生は一度きり。日本から最高峰の舞台へ行きたい選手は挑戦すべきだ。失敗する可能性もあるが、人生の1ページとして一生残る経験になるのだから」と後輩たちへエールを送っている。

© MLB Advanced Media, LP.