北京五輪開催は、五輪が存続し得るかの岐路|和田政宗 「人間の尊厳の保持」も無く、「平和な社会」も無い中国でオリンピックを開催していいのか。北京冬季五輪は五輪精神のかけらもなく、今後のオリンピックが定期的な大会として存続し得るか、岐路になる大会となる――。

中国のためならなりふり構わないIOC

北京冬季五輪が2月4日から始まってしまう。雪がほとんど降らない地域で人工雪で開催するなどそもそも無理のある大会であり、まさに中国の国威発揚プロパガンダにIOCが乗ったオリンピックと言える。

ウイグルやチベットなどでの人権弾圧、民族虐殺は、明確に五輪憲章に反する。五輪憲章には「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」とあるが、ウイグルやチベットなどの悲惨な状況は、「人間の尊厳の保持」も無く、「平和な社会」も無い。

そんな国でオリンピックを開催すること自体がおかしい。北京冬季五輪は五輪精神のかけらもなく、今後のオリンピックが定期的な大会として存続し得るか、岐路になる大会となるだろう。

そして、中国は開閉会式を中心にプロパガンダを行うとみられている。開閉会式については、台湾が参加しないことを表明した後、IOCから五輪参加国・地域としての「責任を果たす」よう参加を強く求める通知が何度も届き、最終的に参加することとなった。

この開閉会式参加をめぐっては、これまでの大会では台湾は英語で「チャイニーズタイペイ」と紹介され、中国語表記は「中華台北」であるわけだが、中国国務院の報道官は1月26日の記者会見で台湾選手団を「中国台北」選手団と発言した。

これを受けて台湾では、中国が開閉会式で「中国台北」を使用し、台湾は中国の一部であるとの中国のプロパガンダに使われる可能性が強いとの懸念が広がり、開閉会式の参加取りやめとなったとみられている。

しかし、IOCはこうしたプロパガンダに使われる懸念もお構いなしに台湾に強く参加を要請し、その決定を覆させた。IOCは中国のためならなりふり構わない姿勢を見せている。

スマホの中身が監視される

一方、中国にとっては見せたくない部分もある。フィギュアスケートの羽生結弦選手は今回の北京冬季五輪にも出場するが、羽生選手が滑り終わった後には、羽生選手が好きな「くまのプーさん」のぬいぐるみがスケートリンクに投げ込まれ、その素晴らしい演技をファンが祝福する。この光景は「プーさんシャワー」と呼ばれ、羽生選手への熱烈な応援の代名詞にもなっている。

しかし中国では、「くまのプーさん」が習近平国家主席に似ているとのSNSの投稿が8年ほど前から相次いだが、その後SNSへの投稿は削除され、4年前からは検索すらできなくなっている。とにかく中国による「くまのプーさん」隠しは凄い。

今回は「プーさんシャワー」はどうなるのか。無観客開催との話もあるが、このためだけに無観客とすることもあるのだろうか。そもそもこんなことが注目されるほど、自由と人権がない国でオリンピックが開催されること自体がおかしなことである。

そして、自由と人権という点では、中国国内の人達のみならず海外から中国に入国した選手や関係者、メディアの記者なども制約を受ける可能性が極めて強い。

これは1月末の日本選手団の中国入国にあたり、日本の各メディアでも報道されるようになったが、選手や関係者、メディア記者のスマホなどの情報端末が中国当局に監視されるのではないかという点である。

その懸念は、まさにその通りと考えるべきであり、中国国内での通話やメールは全部中国当局に監視されているという前提で使用しなくてはならない。

そうした傍受が中国当局により技術的に可能であるということ、中国製の情報端末に「バックドア」と呼ばれる、情報を抜き取るための仕掛けがなされているとの解析が各国の専門家によって発表されているということを考えれば、中国当局に全て見られている、情報は抜き取られる、ということは当たり前と思って良い。

だからこそ、日本や各国の外交官や企業の駐在員などは、重要な会話の際には隠語を使ったり、情報を抜き取られない方法でやり取りをするのである。

そこで本人にとって知られたくない情報や秘密情報などを中国当局が手に入れると、その後、様々な脅しや懐柔等の仕掛けにより、味方に引き込もうとする工作をしてくることは、2004年の上海総領事館員自殺事件など過去の事例からも明らかである。

様々な工作のターゲットに

なお、私の知人友人の多くは、日本で普段使っている携帯電話は中国に持ち込まない。中国入国後、プリペイド携帯電話などを購入して使用し、帰国前にその携帯電話を復元できないよう破壊し捨ててくる。

また、上着のポケットに何かを突っ込まれないよう、ポケットを縫い付けて中国に入国する知人もいる。中国に入国する際は、しっかり警戒をしなければ、様々な工作のターゲットにされてしまう可能性があることを考えなくてはならない。

中国は北京冬季五輪が終われば、国家の威信をかけたビッグイベントはしばらく無くなる。覇権主義的攻勢を強め、やりたい放題やってくるのではないかと各国の外交関係者、軍事関係者と意見交換すると警戒の声が強い。

中国はこの五輪直前にも尖閣諸島周辺の領海に侵入をしている。五輪後にさらにエスカレートすることも覚悟しなくてはならない。中国に対して受け身では危機的な事態を招く。国土と国民を守るため、尖閣への公務員常駐をはじめ主体的な行動あるのみだ。

著者略歴

和田政宗

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