【薬剤師会】磯部専務理事、「医療的ケア児」への評価に思い語る/「現場の苦労に光が当たった」

【2022.02.10配信】日本薬剤師会は2月9日、令和4年度診療報酬(調剤報酬) 改定に係る答申を受けて、会見を開いた。この中で、専務理事の磯部総一郎氏は今改定で医療的ケア児への評価が新設されたことへの思いを語り、「現場で苦労があっても理解されていない業務にスポットライトを当てていくことは非常に大事なこと。そういった意味で今回の評価は嬉しく思っている」と述べた。同テーマに関しては、2020年2月に成育医療等協議会が立ち上がったが、薬剤師が委員に入っていなかった。そのことに課題を感じた薬剤師会からの速やかな働きかけにより、3月の第2回の協議会で薬剤師からの意見陳述の機会が設けられ、今回の改定での評価までつながった背景がある。

「1つ、芽が出た」

会見で記者から、「最も思い入れのある改定項目は何か」との質問が出ると、専務理事の磯部総一郎氏は、「私の個人的な思い入れにはなるが」と前置きした上で、医療的ケア児に対する薬学的管理の評価が新設されたことを挙げた。

今回の改定では、「服薬管理指導料」として「小児特定加算」350点、「在宅患者訪問薬剤師管理指導料」として450点が新設されている。

磯部氏は、「特定の項目の中では、ある意味で一番評価したのが、この分野だと思っている」とした。

その上で、ここに至るまでの経緯を説明。

2020年2月、成育医療基本法の基本方針を検討する「成育医療等協議会」が立ち上がったが、委員に薬剤師は入っていなかった。このことに対し、磯部氏は「現場で薬剤師の苦労がいろいろあるにもかかわらず検討会の場に薬剤師が入っていないのは問題」と感じたことから、厚労省に対し、現場の薬剤師の声を聞いてもらう機会を要望したという。現場の薬剤師からは、国の検討会で声がかからないことに加え、地域においてもなかなか薬剤師に声がかからないといった訴えもあったという。その状況では地域連携がとりづらい実情も浮かび上がっていた。医療的ケア児の薬学管理は高い専門性が必要な一方で、非常に手間がかかって不採算であることも現場で取り組みづらい背景になっていた。

働きかけのかいもあって、第2回の検討会では日本薬剤師会副会長の安部好弘氏、明治薬科大学小児医薬品評価学・石川洋一氏、小児薬物療法認定薬剤師・川名三知代氏から意見陳述が行われた。
特に川名氏からは、地域では与薬は保護者と薬剤師の協働作業であることや、地域ニーズは入院から在宅へ移っていること、さらに処方の量が多く、ハイリスク薬や粉砕も多い医療的ケア児への関わりの実態、薬学管理の実例などが紹介された。
なお、川名氏はその後、日本薬剤師会の理事に就任している。

現場の声は関係者に「響いた」(磯部氏)ことから、「基本方針にも薬剤師の思いをだいぶ入れていただいた」とし、医薬・生活衛生局での予算での研修事業も並行して進めてきたとした。今年度の予算事業では10都道府県が研修を進めているという。

努力が進められていることが中医協の場でも理解され、評価が創設された。

こうした経緯を振り返り、磯部氏は次のように述べた。

「評価新設を私は大変嬉しく思っています。つまり、地域でもなかなか理解されておらず非常に地味だけれども大事な業務について、大変だと、応援しなくてはいけないんだと、そういうところに光を当てることが非常に大事なことだと思っている。現場の方々のご苦労にスポットライトを当てていかなくてはいけないということに、1つ、芽が出た。まだまだ充分ではないという意見もあると思いますが、評価をいただけたということは非常にありがたいなと思っています」とした。

また、医科でも医療的ケア児の評価は新設されており、病院薬剤師業務としても、退院時に必要な服薬指導を行い、文書で薬局に対して情報提供することで、新たに退院時薬剤情報管理指導連携加算を算定できることになっている。
磯部氏は、この評価についても触れ、「連携が重要な病院薬剤師と薬局薬剤師が同時に評価されていることは、地域での連携を進める上でもありがたかった」と述べた。

編集部コメント/“芽”を増やせるか、育てていけるかが問われている

今回の調剤報酬改定をめぐる取材の中で、最も印象深かった言葉は、2月2日の会見での「薬剤師のしたことを評価するのが調剤報酬であり、その一方で薬剤師がその仕事をするための施設を維持するのも調剤報酬」という山本信夫会長の言葉だ。
シンプルで、当たり前とも思える言葉だが、示唆に富んでいると感じる。

調剤報酬は、調剤基本料や地域支援体制加算などの「施設」を支える項目と、薬学管理料などの「薬剤師がしてきたこと」の項目に大別できるが、業界団体からの要望や会見の報道では、どうしても「施設」の項目に注目がいきがちである。しかし、施設の在り様が時代の変化とともに変わろうとも、社会で薬剤師が必要とされていく基盤を強固にするのは「薬剤師のしてきたこと」の項目ではないか。翻って、薬剤師が働く場である「施設」においても、そのことは重要であるはずだ。

そういう意味では、「薬剤師のしてきたこと」の今回の改定での、最も象徴的な評価が「医療的ケア児に対する薬学的管理」ともいうことができる。

磯部氏が「1つ、芽が出た」と表現したように、そういう芽を今後、増やしていくことが重要になる。診療報酬に目を向ければ、孤独・孤立によって精神障害やその増悪に至る可能性が認められる患者に対して、医師が自治体と連携しながら多職種でサポートを行う体制評価する「こころの連携指導料」などが新設されている。

医療的ケア児が一面では医療の高度化や、病院から地域へのシフトによって支援体制の拡充が求められているように、社会情勢の変化とともに大きくなっている課題は多い。この中で薬剤師が果たすべき役割も広がっていくと考えられる。

ただし、評価は“してきたこと”のみが議論のテーブルに載る。現場でどのような実績がつくっていけるのか。現場から今後も、数多くの評価されるべき実績が示されることに期待したい。

同時に、“してきたこと”の評価創設は、取り組みの普及拡大を促進する役割も持つ。評価が新設された医療的ケア児に関しても、特定の薬局だけが重い負担を担うのではなく、地域の中でどのように負担を分散し、支援のネットワークを築けるのか。それぞれの薬局に、課題が課せられている。

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