九州・沖縄県紙交換企画【SDGsの姿 2022】ー5ー 全壊自宅を交流拠点に再建「道野さん夫妻」(熊本県八代市)

住民流出“防波堤”に

被災した自宅を改修し、コミュニティースペースとしての活用を目指す道野真人さん(右)、紗喜子さん夫妻=熊本県八代市坂本町

 2020年7月の豪雨災害で甚大な被害が出た熊本県八代市坂本町で、全壊した自宅をコミュニティースペースにも使えるように再建している夫妻がいる。会社員道野真人さん(46)、紗喜子さん(42)だ。「多くの人がかかわり、みんなが集える場所に」。そんな思いが詰まった改修作業が着々と進む。

 真人さんは東京生まれ。15年、結婚を機に「父が育った地域で暮らしたい」と坂本町に“Iターン”。かつて祖母が住んだ古民家で暮らしていた。

 20年春、空き家を生かした町づくりに取り組む鹿児島県南九州市の大工、加藤潤さん(53)に教わりながら、自分たちでリフォームも済ませた。

 豪雨災害に見舞われたのは、その約1カ月後だった。自宅横を流れる球磨川支流の油谷川が氾濫し、自宅1階の天井付近まで浸水。夫妻と長男(3)の3人は2階に避難し、自衛隊に救助された。

 坂本町の風景は被災で一変した。川沿いは家屋の解体が進み、町外への移住希望者もいる。「うちも解体しかないか…」。八代市内の仮設住宅で悩む真人さんに、紗喜子さんが「このままでは住民は減るばかり。うちが『防波堤』になろう」と背中を押した。

 加藤さんを講師に、地元住民や友人らが参加したDIY(日曜大工)での改修作業も取り入れた。参加者全員で、町内の被災家屋から譲り受けた床材や瓦を川で洗って再利用した。「家造りに携わることで思い入れを持ってもらう狙いもあった」と紗喜子さん。

 今春の完成を前に昨年末、臨床心理士による「親子のケア講座」に初めて自宅を貸し出し、参加者の笑顔に触れた。2人は「この空間はさまざまな使い方があるはず。利用する人たちがつくり上げてくれれば」と語った。(熊本日日新聞・熊川果穂)

 【メモ】2020年7月の豪雨災害で八代市坂本町は全壊158戸、大規模半壊66戸、半壊123戸。20年12月の住民意向調査では、全半壊世帯のうち49%が今後も町内に住みたいと回答したが、15%は町外移住を希望した。

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