住友林業、ロンドンで木造6階建てオフィス開発 ネットゼロカーボン建築を世界へ

住友林業が住宅・不動産事業で欧州に初進出し、ロンドンで木造6階建ての環境配慮型オフィスの開発を進めている。建築時の炭素排出量を英国で一般的な鉄筋コンクリート造の建物と比較して約80%削減し、木材の炭素固定量をオフセットすることで竣工時点でカーボンネガティブとなることを見込む。建物を省エネや創エネ仕様にし、再生可能エネルギーの利用を組み合わせることによってビルとして約60年間ネットゼロカーボンを保ち続けるという。欧州は脱炭素社会に向けた中大規模木造建築で世界をけん引する市場とされ、今後、住友林業はこの建築を足がかりに「ネットゼロカーボン建築」のグローバル展開を加速させる。 (廣末智子)

竣工時にカーボンネガティブ

プロジェクトに伴い、同社は英国の不動産開発業者であるBywater Properties 社との合弁会社を設立。さらにプロジェクトの出資母体となるSF (Sumitomo Forest)Paradise Member社と、英国での統括会社となるSumirin UK社を設立した。スキームとしては住友林業が出資をメーンに行い、Bywaterを中心とする合弁会社が設計・施工を担当する。

建物はロンドン市内で再開発が進むテムズ川南岸エリアで今年9月に着工。持続可能な森林から調達したFSC認証材やPEFC認証材などを原材料に、建物を解体後も木材を再利用できることを条件とする英国の建築物環境性能評価基準に準拠し、建物の生涯炭素排出量から木材炭素固定量を差し引くことでネットゼロカーボンを実現する設計になっている。

具体的には、このプロジェクトにおける炭素排出量の推移を、①木材使用により削減された建築時の炭素排出量に対して、②木材の炭素固定量をオフセットすることにより、③竣工時にカーボンネガティブになると試算。さらに建物使用中のエネルギー消費によって排出される炭素量を加算しても約60年間はネットゼロカーボンを維持する見通しを示している=図表。

建物は高遮熱性能の外壁や日射を防ぐブラインドなどで高い省エネ性能を有し、屋上の太陽光発電設備で自家発電を行うほか、エレベーターの減速時に生み出される電力の再利用を計画している。建物内部の梁や柱、天井には木肌を露出させ、木の雰囲気やぬくもりを体感できるとともに、隣接する緑豊かな公園の空気を循環させるシステムなどを通じて快適な職場環境を創出する。

総事業費は約4800万英国ポンド(約74億8800万円)で、2024年の完成を目指す。設計段階において既に先進的な低炭素建築計画が評価され、世界の優れた建築を表彰するWorld Architecture Festival Award 2021のClimate Energy & Carbon賞や、ロンドン市内の環境や生活に貢献するデザインの建物に贈られるNew London Award2020を受賞しているほか、今後は環境認証の「BREEAM」や、健康配慮型オフィス認証の「WELL」、スマートビルディング認証の「WIRED SCORE」で最高レベルを取得する予定という。

同社は脱炭素社会の実現に向け、海外での中規模、大規模の木造開発を視野に昨年、オーストラリアでの木造オフィス開発に参画。今回はその第2弾となり、今後、豪州や欧州で先進的な環境対応や中規模木造の知見を深め、「ネットゼロカーボン建築」のグローバル展開を進める。

同社の広報担当者は、「脱炭素で世界をリードする欧州においてプロジェクトを通じて得られる最先端のエンボディード・カーボン(建物の原材料調達から加工・輸送・建築・廃棄の過程で生じる炭素排出量)の見える化や削減の知見を生かし、日本市場での、建物の生涯における環境負荷を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の普及にも貢献していきたい」と話している。

国内外の森林保護へ1000億円規模のファンド設立も

さらに同社はこのほど国内外で大規模な森林の保護や管理を行う1000億円規模のファンドを設立することを発表した。同社は現在、国内では、国土の約800分の1に当たる約4.8万ヘクタールを、海外ではインドネシアとパプアニューギニア、ニュージーランドの3国で約23.1万ヘクタールの森林を管理・保有しているが、これを2030年には計50万ヘクタールにまで拡大する計画。どの地域にどのぐらい増やすかなど、具体的な計画は現時点で決まっていないが、今後、森林の保護や植林によって生まれるCO2の吸収量や固定量を正確に測定し、国際機関などの認証を経て、出資企業にCO2排出量を相殺するための「カーボンクレジット」として配分する。

© 株式会社博展