ロシアとウクライナの両大統領はベラルーシ国境での停戦交渉のテーブルに着いたが、先行きは不透明で予断を許さない。国家による他国への軍事侵攻によって市民たちの日常は突如として一変した。祖国の安寧を願い、祈ることしかできない在日ウクライナ人たちがいる。胸中に耳を傾けた。
2月26日の午後1時すぎ。東京・渋谷駅ハチ公前広場は多くの人で埋め尽くされた。
「ストップ・ロシア」
「ウクライナに平和を」
空に向けたシュプレヒコールが響いた。
行き交う人々も次々と足を止めた。国籍や人種、立場を超え、思いを共有する人も少なくない。国旗の中心にハートとピースのマークを入れたプラカードを手にしたウクライナ出身で音楽プロデューサーのXLII(シリー)さんは、この光景に、少しだけ胸をなで下ろしていた。
「自分の自由が奪われたら、自分の声が無視されたら、自分の未来が奪われたらどうなるのか? そうしたウクライナ人の気持ちに共感してくれていると感じた」
ともに街頭に立った日本人の妻と、母国ウクライナを訪れたのは昨年10月。入籍の2カ月前のことだった。
XLIIさんは、故郷を流れる雄大なドニエプル川と生まれ育った街を思い返していた。
約10年ぶりに母国を訪れたばかり。歌手で日本人の妻、イリナさんと実家に赴いていた。街並み、自然、文化、歴史…。「今後は二人でここに住んでみたいと思っていた、その矢先のことだった」
思い描いていた幸せな日々はしかしロシアによる侵攻によって崩れ去った。