名門・横浜高元主将「誰でも野球できる環境を」 児童養護施設などに用具提供 プロ球団や企業にも共感の輪 

スポーツメーカーなどから届いた野球道具を手にする小川さん=横浜市港北区

 誰もが野球を楽しめる環境を―。高校野球の名門、横浜高の主将として甲子園で活躍した小川健太さん(31)がジュニア向けに、グラブやバットなどの用具を無償提供する活動を続けている。自身はひとり親家庭で育ち、大学や社会人チームでもプレーした。「やってみたい、続けたいという気持ちに応えたい」と、さまざまな困難と向き合う子どもたちに寄り添おうとしている。

 原点は幼少期にある。小川さんは小学3年から6年までいじめられた。「学校に僕の居場所はなかった」と、逃げるように門をたたいたのが近所の軟式野球チーム。部員はちょうど9人で、翌週から試合に出て野球の面白さに魅了された。 

 プロ選手になる夢を抱き、中学はクラブチーム「中本牧シニア」に入部。だが両親は離婚しており「硬式用の道具は価格が高くて母におねだりできなかった」。最初の1年間、グラブは軟式用を使い続けた。倉庫に眠る古びたバットに800円のグリップを巻いて練習したこともあった。

 横浜高では2008年、甲子園に春夏連続出場。同学年の倉本寿彦(横浜DeNAベイスターズ)や土屋健二(元日本ハムファイターズなど)、1学年下の筒香嘉智(大リーグ・パイレーツ)らを擁したチームを引っ張り、夏はベスト4進出を果たした。

 卒業後は明治大、九州三菱自動車と進み、25歳でユニホームを脱いだ。社業にいそしむ傍ら、育ててもらった野球への思いが消えることはなかった。

 「家庭環境を理由に野球を諦める子どもたちを少しでも減らしたい」。そんな思いで20年6月に日本未来スポーツ振興協会を設立し、代表理事を務める。現役時代にライバルだった県内外の選手らもメンバーに加わり、現在は国内9カ所とカンボジアの計10カ所に支部を設置。57人の子どもと児童養護施設3カ所を支援している。

 共感の輪は広がりつつある。スポーツメーカーなどから用具の提供を受け、プロ野球の埼玉西武ライオンズとパートナー契約を締結。他球団とも交渉を進めている。資金協力してくれる企業も増えてきた。

 「子どもたちの喜ぶ姿を見ると、やって良かったと感じる」と小川さん。当面の目標は25年までに47都道県で活動することだ。「費用はまだ全然足りないが、年間6千人をサポートしたい。スポーツは基礎体力の向上につながるし、いじめの逃げ道にもなる。始めるきっかけをつくれたら」と話している。

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