東日本大震災から11年 防災と避難は今 コロナ禍で新たな課題

 東日本大震災から11年。震災を教訓に、各地で津波や地震への対策、避難訓練が進められたが、新型コロナウイルス感染症の影響で状況は一変。訓練の実施不可、避難所運営での新型コロナ対策など、新たな課題に直面している。こうした状況を踏まえ、どのように震災の脅威を伝え、備えていくのか。現状を取材した。

〈上越市対応〉経験生かし備え増やす 資機材拡充や総合防災訓練

 地震などの災害時、各地域の避難所はその後の避難生活にもつながる、非常に重要な役割を担う。プライバシーやペット同伴などの配慮が進むが、新型コロナウイルス感染症への対策が課題となる。上越市もそうした現状を踏まえ、必要な資機材のさらなる準備を進め、昨年実施した総合防災訓練で得た経験も生かす方針だ。

 同市は令和3年度予算の補正として、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用し、避難所の感染症対策に必要なパーテーションなどの資機材を拡充する。当初予算を含め、新たに29基をそろえる。一基につき、大人2人が使える試算だという。

 昨年に市総合防災訓練を実施できたのが大きいという。同市危機管理課によると、2年ぶりの訓練では実際に市民を交えて避難所開設から受け入れ、体調不良の人を緊急搬送するまでを体験。「コロナ禍での避難について初めて体験し、良い経験になったという人もいた。市としてもマニュアルに沿って避難所を開設でき、意見を聞き取って今後に生かしていく」と語る。

昨年10月に大島区で行われた総合防災訓練。コロナ禍での避難所開設、運営など、本番と変わらぬ条件で行った

分かりやすくマニュアル改定

 避難所運営マニュアルにも細かい改定を実施。顔色が悪い、呼吸が荒いといった「体調が悪い」人について、15歳以下の子ども、大人、65歳以上の高齢者の症状をイラスト付きで分かりやすく解説など、「分かりやすさ」を第一に改定した。

 今後呼び掛けていきたいとしているのが、「避難指示での迷わず避難」「命を最優先に」の2点。国が昨年5月に避難勧告を廃止し、避難指示に一元化した頃を踏まえ、「避難指示が発令されたらただちに避難所へ」と訴える。新型コロナ感染の恐れから避難所入りをためらう人には、「症状がある人向けのスペースを設けるなど、対策を取っている。命を第一に考え、まずは避難を」と呼び掛けた。

〈上越市防災士会直江津支部・泉秀夫支部長〉「率先避難」が身を守る

 上越市防災アドバイザーで、市防災士会直江津支部の泉秀夫支部長(上越市港町1、80)は新型コロナウイルス感染症の影響で、令和2年から活動できない状態が続いていると話す。

 防災士約60人が登録する同支部は本年度、避難所開設や運営を想定した図上訓練を予定していた。しかしコロナ下を鑑み、実施の見送りを決めた。

 直江津港に近い港町1、2丁目は上越市内で唯一、津波発生時の「避難困難区域」に指定されている。避難時間に余裕がなく、避難所まで7分以内に移動しなければならない。

 最後に避難訓練を行ってから約4年が経過。住民はそれぞれに家族構成や生活環境が変化し、また高齢化率も進む。津波発生時、時間内に避難完了できるか不安は大きい。

 逃げ遅れを防ぐため、両町内会は「まず、わが身!率先避難」を防災のスローガンに掲げる。真っ先に守るのは自分の命。「逃げよう」と声に出し、周囲に避難を呼び掛ける行動を推奨する。また結果的に避難が無駄に終わったとしても、責めない住民の意識も不可欠と泉支部長は話す。

 新型コロナに意識が傾く昨今、避難訓練ができず、災害への危機感が鈍くなっていると泉支部長は危惧する。そのため今月下旬に、避難に必要な事前準備、町内会で取り決めた避難マニュアルが一覧で表示された「避難行動計画書」を、対象地域に全戸配布する予定だ。住民に対し、あらためて防災意識を喚起する。また「いつ、何をするのか」を時系列で書き込む、自分自身の防災行動計画「マイ・タイムライン」の作成も準備予定という。

 泉支部長は「3月11日は、災害に対して気を引き締め直す機会」と言葉に力を込めた。

「率先避難」の重要性を語る泉支部長

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