韓国アイドルグループGOT7ジニョン主演!繊細な演技と瞳が印象的な映画『降りしきる雪』

雪が滅多に降らない南の地方を舞台にした『降りしきる雪』は、つらい現実に直面する少年少女に胸の痛む思いになると共に、社会の不条理や弱者の存在について考えさせる作品です。これが映画デビューとなった主演のジニョンと、やはり映画初主演のジウの今にも壊れそうな佇まいと不安げな表情は、いつまでも忘れられないものとして心に深く刻まれました。

両親に連れられ、京畿道の水原から慶尚南道の固城(コソン)という小さな町に引っ越してきたミンシクは、転校先の高校で殺人犯の娘として同級生から虐げられているイェジュを知ります。

最初は同級生に合わせていたミンシクですが、イェジュに対する偏見はなく、普通に言葉をかけるようになり、イェジュも彼に心を開いていきます。それでも、周囲のイェジュを見る目は変わらず、同級生だけでなく大人たちからも疎外される状況を、ミンシクが変える術はありません。

元いた高校で起きた性暴行事件の巻き添えで転校を余儀なくされたミンシクと、父が確たる証拠もないまま殺人犯の容疑をかけられたことで、加害者家族と見なされ理不尽な目に遭っているイェジュ。二人には悔しい思いを抱えながら、表立って声を上げることもできないという共通点があります。

そんな彼らは、山の中で見つけた1匹の黒ヤギの世話をすることで少しだけ癒やされていきます。ところが、ヤギは自分のものだというミンシクの父の知人に返却を迫られ、それが悲劇を招くことに……。

ミンシクとイェジュが、ヤギを救うためになりふり構わない行動に出てしまうのは、自分たちの悲しい境遇を寄る辺のないヤギに重ね合わせているからなのでしょう。より弱い(と彼らが考える)存在を守ろうとすることで、彼ら自身が救われるのです。ただ、誰しもがそうとは限りません。

保身のために他人の足を引っ張り、弱い者を叩くことで優位を保とうとする者が少なからずいるのが現実です。そして、自分はどちらの側にも属さないと断言できる人はいるのでしょうか。

景気不振の田舎町で人々の鬱積した思いは大人から子供へと伝わり、イェジュのような弱者への暴力として形を表します。イェジュが同級生から受ける仕打ちは犯罪レベルですが、彼らにも周囲の大人にもそうした認識はないようです。

ミンシクの父は牧師であるにもかかわらず、息子を理解することなく面倒を起こしたと手を上げ、イェジュが自分の教会に足を運ぶことを快く思いません。一観客としては父を責めたくなるものの、もし自分がその立場に置かれたらどうするだろうと考えると、神の愛とは無縁の父の言動を一概に非難はできなくなってきます。

『降りしきる雪』おうちでCinem@rtにて独占配信中 ©2016 MYUNG FILMS INSTITUTE All Rights Reserved.

ボーイズグループGOT7のメンバーであり、俳優としての活躍も目覚ましいジニョンの繊細な演技とピュアな瞳が印象的です。映画ではミンシクが首都圏から慶南へと引っ越してきますが、実際にはその逆で、ジニョンは桜の名所として知られる慶尚南道・鎮海(チネ)で育って高校1年で上京。方言が抜けなかった時期もあり、本作ではイェジュ役のジウに方言を教えてあげた一方、標準語を直してもらったりしたのだとか。ジウも少ないセリフの中でイェジュの悲しみを巧みに表現しています。

短編映画で注目されて、これが長編デビュー作となったチョ・ジェミン監督は、『オアシス』や『シークレット・サンシャイン』『バーニング』などの巨匠イ・チャンドン監督の弟子として知られる新鋭。級友がいじめを受けるのを傍観してしまった高校時代の、自身の苦い経験に基づいて脚本を書いたのだそうです。

ただ、本作は誰かを断罪するわけではなく、殺人事件の真相や、登場人物のその後が描かれることもありません。雪が降らないはずの町で、枯れた田畑の上に横たわって、花びらのように舞い落ちる雪を見るミンシクの瞳は何を物語っているのでしょう。


Text:小田香

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