中国共産党「100年の秘密兵器」|石平 結党当時、党員数五十数名しかいない弱小政党だった中国共産党はいかにして勢力を拡大し暴力による政権奪取をはたしたのか。我々日本国民全員が、中国共産党という極悪政党の伝統的浸透工作の正体を正しく認識する必要がある。

単なるホラ吹き

2021年7月1日、中国共産党結党100周年を祝う式典において、習近平主席は一時間以上の大演説を行った。そのなかで彼は、この100年間における中国共産党(中共)の「歴史的功績」を一つひとつ数えて褒め称えたが、大半が真っ赤な嘘だった。「わが共産党は人民を解放して人民に幸福をもたらしてきた」とは単なるホラ吹きで、厚かましい自画自賛にすぎない。

唯一、彼らが自慢できることは、結党当時は党員数五十数名しかいない弱小政党が、やがて勢力を拡大し暴力による政権奪取に成功したことだけである。だが、中国人民と周辺民族にとって、それは災難でしかない。

浸透工作の始まり

問題は、中共がどのようにしてそれほどの勢力拡大を成し得たのかである。草創期は、当時のソ連共産党とコミンテルンからの全面支援が決め手の一つであろう。1921年の中共結党はコミンテルン極東書記局の主導と支援下で実現されたもので、中共の生みの親は、コミンテルンという外国勢力である。

結党してから2年間、中共は国内でテロ活動や破壊活動を頻繁に行い党勢拡大を目指したが、それらはほぼ失敗に終わり、勢力拡大は一向に振るわなかった。

1923年、中共の無能さに痺れを切らしたコミンテルンは方針転換を図り、中国近代革命の父である孫文率いる国民党勢力を支援した。当時、中華民国は軍閥勢力によって乗っ取られていたため、孫文は革命勢力を再結集し、広州を根拠地に軍閥の打倒を目指していた。

そこでコミンテルンは、孫文の軍閥打倒を支援すると申し立て、その条件として中共を全面的に受け入れることを国民党に要求。支援欲しさに孫文はこの要求を呑む。これこそ中共が党勢を拡大した最大の転機であり、中共による国民党浸透工作の始まりとなった。

「隠れ共産党員」が急増

1924年はじめから、コミンテルンの斡旋下で多くの中共幹部が共産党員のまま国民党に入党し、国民党組織の要職を占める。たとえば、中共幹部の譚平山は国民党中央組織部長に就き、国民党の組織を牛耳る。同じ中共幹部の林伯渠は国民党中央農民部部長に、もう一人、結党当時からの中共幹部で有名な毛沢東は、国民党中央宣伝部部長代行・部長を歴任した。

一方、中共は国民党が創建した国民革命軍への浸透を進めた。当時、孫文は軍幹部を養成する軍学校「黄埔軍官学校」を広州郊外に創設。かの有名な周恩来は、中共がこの黄埔軍官学校に送り込み、要職である政治部主任に就かせた人物である。この時、周恩来は、ソ連でスパイ訓練を受けて帰国したばかりだ。

以来、周恩来は政治部主任の立場を最大限利用し、共産党員を外部から招き入れて軍学校に潜入させたり、軍学校の教官と生徒を対象に共産党への入党を勧誘するなど浸透工作を着々と進めた。

その結果、軍学校の上層部には周恩来以外に共産党幹部の聶栄臻と葉剣英の両名が入り込み、第一期生から第四期生までの全校生徒にも「隠れ共産党員」が急増する。それらの生徒は卒業後、国民党軍の幹部となって国民党軍内の共産党勢力となった。

極悪政党の伝統

1927年、孫文亡きあとの国民党はやがて共産党の浸透工作に危機感を覚え共産党の排除を始めるが、それに対抗して中共は自前の軍隊を作り、蜂起を決意。同年8月1日、周恩来と国民党中央組織部長の譚平山が中心となって、国民党軍内に入り込んだ軍学校卒業生を糾合し、国民党軍の一部をそのまま乗っ取った形で国民党に対する武装蜂起を起こす。

この8月1日は共産党軍の建軍記念日にされているが、考えてみれば何のことはない。共産党軍の「建軍」は、国民党軍に対する乗っ取り工作の結果にすぎない。

こうして建軍した共産党軍は以来、反乱勢力として国民党政府軍と内戦を戦い、やがて政権奪取を果たすが、そのプロセスにおいて中共はまた、国民党政府軍の中枢部に対して日本人の想像を遥かに超えた浸透工作を展開し、共産党軍を内戦の勝利へと導く(この辺りの経緯は筆者の最新刊『中国共産党 暗黒の百年史』《小社刊》の第一章に詳述)。

敵対する勢力のなかに深く入り込んでその組織を乗っ取る手法は、まさに中国共産党結党以来の伝統であって、彼らの勢力拡大の一番の「秘密兵器」であることがよく分かる。そして、共産党政権はいまもこの「秘密兵器」を巧みに用いており、欧米や日本といった自由主義陣営の国々が彼らの浸透工作の主な標的となっている。日本で中国の人権侵害を非難する国会決議が潰された理由は、まさにここにあるのかもしれない。

中国共産党結党100周年に際し、われわれ日本国民全員が、中共という極悪政党の伝統的浸透工作の正体を正しく認識し、警戒を強めていかなければならないのである。(初出:月刊『Hanada』2021年9月号)

石平

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