徳島県上勝町はなぜゼロウェイスト・タウンとして有名になったのか 分別だけではない隠された6つのポイント

ゼロウェイスト・タウンとして国内外から注目を浴びる徳島県上勝町。2003年に「ゼロウェイスト宣言」を打ち出し、2020年までに廃棄物量を抑え、焼却・埋立ごみの排出をなるべくゼロに近づけることを目指してきた。ごみを45分別に仕分けるなど分別を徹底し、ごみを資源に生まれ変わらせた結果、町は現在、約81%と高水準のリサイクル率を維持している。その秘訣はどこにあるのか。単純に分別数を増やしたからではない。町唯一のごみ収集所が併設された公共複合施設「上勝町ゼロウェイスト・センター」を訪ねると、分別時の仕掛けやデザイン、一つひとつの工夫が鍵を握っているのだということが改めて見えてきた。そのポイントを6つに絞って紹介する。(井上美羽)

ゼロウェイスト・センターは老朽化したゴミステーションをリニューアルする形で、2020年に町の中心部にオープンしたホテルとの複合施設「WHY(ワイ)」に併設されている。町民が唯一ごみを出すことのできる場所であり、町外の自治体の視察先、企業のテレワークや研修先、また学校の修学旅行先としても選ばれる場所だ。上勝をごみゼロの町として知らしめ、国内はもとより世界にゼロウェイストを発信する、上勝町の中心的な存在であると言える。

ゼロウェイストを達成するための6つのポイント

①ごみの価値を可視化する

ゴミステーションには、45のカテゴリーに分けられた箱やエリアがある。箱には、1キロあたりの処分費用のほか、どこで何になるのかも記載されており、資源の循環が一目で分かるようになっている。

例えば、同じプラスチック容器を比較しても、「その他のプラスチック」の処分コストは「53.8(円)」で、“プラ”のロゴマークがついた「プラスチック製容器包装」は「0.51(円)」と、「その他のプラスチック」の処分コストの方が、「プラスチック製容器包装」の100倍かかることが分かる。つまり、ごみの価値が可視化されているのだ。

ちなみに、なぜ「プラスチック製容器包装」の方が安いかというと、その場合、メーカーがあらかじめ処分料を払ってくれているためだ。

②微量の汚れも取り除く

同じ素材であっても、少しの汚れの有無でごみになるか資源になるかが左右される。

水でゆすぎ、目視で汚れが落ちているものは「その他のプラスチック」に分類され、油汚れが落ちない場合は「可燃ごみ」となる。

上勝町では回収量が一般的な自治体と比べ少ない。処理施設を保有していないため、回収したごみは1年間倉庫で保管した後、リサイクル工場へ送られる。そのため、汚れたプラスチックが混ざっていると、そこからカビが繁殖し、リサイクル可能な他の容器も全て燃えるごみで処分しなければいけなくなってしまう。つまり、分別して捨てる際は微量の汚れも混ざらないよう配慮しなければいけない。

③単一素材でまとめる

リサイクルの前提条件は、単一素材であることだ。

多くの自治体において新聞紙を束ねる紐はビニール製であり2種類の素材が使われるため、回収後に業者側で再度分別をしなければならない。ここで解かれたビニール紐は当然新たなごみになってしまう。

上勝町では紙製の紐を推奨している。紙製の紐の場合、新聞紙と同じ素材のため、解く必要はなく、業者の手間が省かれるため、買い取り単価を高く設定しているのだという。

④情報にアクセスしやすい環境を整える

案内人のHOTEL WHYスタッフの田村浩樹さんによると、各家庭である程度分別してから持ってきてくれている人が多く、分別を間違えてごみが出されるケースは少ないという。

営業時間内であれば常にスタッフが常駐しているため、分別方法が分からなければすぐに聞くことができたり、施設やホームページ上などでも細かく分別の情報を公開していたり、小学校の課外授業の一環に施設見学が組み込まれていたりと、町民が不自由なく情報にアクセスすることができるようになっている。

子どもや年配者まで、幅広く分かりやすい情報を公開していることは、住民の理解を得る上で大きな鍵を握る。

実際に、おじいさんと孫が一緒に捨てに来て、子どもが大人に「これはこっちだよ」と教えている場面も見かけるそうだ。

⑤外に魅せる

センター内には、ゴミステーションだけではなく、まだ使えるものを無料で持ち込み、持ち帰れる施設(くるくるショップ)がある。また、併設のホテル客室や施設の家具の一部にリユース品を使っていたり、町内の空き家などから集めた古い540枚の窓枠を建物全体に使用していたりと、リニューアル時の設計においてもなるべく新たな資源を使うことのない配慮がされている。こうしたリユース・リサイクルへの徹底した取り組みは、単純にごみを減らすことにつながるだけでなく、視察にやってきた人の興味関心を誘うストーリーとなり、ゼロウェイストの取り組みにブランド価値をつける役割も持つ。

案内された施設内のキッズスペースでは、リサイクル不可能だった使用済みの洗剤容器を花王が提携している工場で原材料に戻すことで、ブロックに再生させるといった新たな実証実験も行われていた。

こうした町外からの注目や企業との連携が、町内における取り組みを加速させていることは間違いないだろう。

⑥「来たくなる」空間を維持する

施設を見学する中で、最も印象的で驚いた点は、施設の「清潔感」だった。施設では、スタッフが常に施設内の掃除をしており、ごみ収集所であることを感じさせない。マットレスの解体など、住民が個々で処理しきれないものまで丁寧に分解し整理し、「生ごみ」は各家庭で処理をしてもらうことでごみステーション特有の臭いも全く感じなかった。こうした清潔感を保つことで、「来たくなる」空間を維持している。

■暮らしの中に定着する

町民はそれぞれの生活スタイルに合わせて、このセンターに家庭ごみを持ってくる。週に2〜3回やってくる人もいれば、職場への通勤前に毎朝くる人もいるという。

住民に話を聞くと「もともとゼロウェイストを生活の中で強く意識していたわけではないけれど、分別をして持っていかなければいけないという手間が面倒なので、そもそもごみをあまり出さないようになりました。サランラップなども使うとごみになってしまうので、家では代わりにリユースできる蓋を使ったり、買い物をするときにも意識しています」ということだった。

町民からの深い理解を得るために、町民が誤解を生まないようにするために、町内におけるコミュニケーションを細部まで怠らないこと。そして、外からやってきた人も楽しく学べるように設計された空間やルールなどの施設側の細かなデザインや工夫が、上勝町が80%以上のリサイクルを達成できた大きな要因の一つなのだろう。

■ゴミのライフサイクル全体を考える

しかし、上勝町でももちろんまだ「焼却・埋め立てごみ」として処分されてしまう資源が約20%あり、それは、町民と行政だけでは解決できない問題だ。

田村さんは「残りの20%は、使い捨てのものなど、最初から捨てる時のことを考えられていないものです。ごみは、最後に捨てた消費者だけの問題ではなく、生産される最初の段階、つまり生産者を巻き込む必要があります」と説明する。

生産過程において、捨てられる時のことを考えたデザインや仕組みづくりが、ごみをなくす上では必須になってくる。

こうして一つひとつの資源の前後のライフサイクルを考えてみると、その資源の価値をより長く維持する方法が見えてくる。私たちが「ごみ」と認識し、一つのごみ箱にまとめられた資源は、分別を徹底することでそれぞれの価値をまだ保ち続けられる可能性も大いに秘めている。そして、その価値をさらに広げるためには単純に分別だけには止まらないちょっとした仕掛けと工夫が大切なのだ。

上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY
徳島県上勝町にて、ごみのない社会を目指し生産者/消費者、町民/町外在住者が交流し学びあうことを目的に2020年5月30日(「ごみゼロの日」)にオープンした公共複合施設。 施設内には、上勝町の廃棄物中間処理施設である「ゴミステーション」、コミュニティ/イベントスペースである「交流ホール」、シェアオフィスとして利用できる「ラボラトリー」そして、ゼロ・ウェイストアクションをコンセプトに掲げた宿泊体験施設「HOTEL WHY」が設置されている。 上勝町は2003年に日本国内で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、ごみの総量削減とリサイクルに取り組んできた結果、リサイクル率は80%を達成し、2018年に「SDGs未来都市」に選定されている。
ホームページ:https://why-kamikatsu.jp/ インスタグラム:@why.kamikatsu
HOTEL WHY予約サイト:https://www.chillnn.com/177bcc0b991336

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