『RIDE ON THE EDGE』で理解するGRANRODEOの正確性と親しみやすさ

『RIDE ON THE EDGE』('07)/GRANRODEO

GRANRODEOが約3年振りとなるニューアルバムを3月23日にリリースした。通算9枚目となる今作のタイトルは『Question』。アニメ『最遊記RELOAD -ZEROIN-』OP「カミモホトケモ」、アニメ『範馬刃牙』OP「Treasure Pleasure」などのシングル曲など全12曲を収録しており、今や日本を代表するバンドのひとつと言っていいGRANRODEOの最新型が詰まったアルバムだ。今回はそんなGRANRODEOの1stアルバムから、彼らの本質に迫った。

アニソンユニットならではの職人仕事

当コラムでは多用している“デビューアルバムにはそのアーティストの全てがある”という仮説に基づいて、このGRANRODEOの名盤紹介でも彼らの1stアルバム『RIDE ON THE EDGE』を取り上げる。これは彼らに対する最大級の誉め言葉と受け取ってほしいのだけれど、本作を聴いて、日本製の工業製品のような正確性と親しみやすさを同居させたバンドという印象を抱いた。その日本製工業製品も“いい時期の”との注釈を付けなければならないのが現代日本の哀しいところだが、それはさておき、個人的に思ったところをいくつか挙げていきたい。

まず、外形的なことから言えば、シングル曲が4つ収録されている。“それがどうした!?”と呆れ顔の方もいらっしゃるかもしれないが、これは結構、特徴的なのことなのではないかと思う。2ndシングル「Infinite Love」、3rd「DECADENCE」、4th「慟哭ノ雨」、そして、1st「Go For It!」も“style EDGE”となってリメイクされている。タイトル曲だけはない。そのカップリングも、本作発表時点のものはすべて収録されている。上記に沿って順に紹介すれば、「紫炎」、「ケンゼンな本能」、「シルエット」、そして「mistake」。生真面目というか何というか、すごくちゃんとしている気がする。GRANRODEOはそののち2012年に『GRANRODEO B‐side Collection "W"』という文字通りシングルのB面=カップリングだけを集めたアルバムを発表している。それならば何も先発のアルバムにカップリング曲を入れなくともよかったのではないかと思ったりもするのだけれど、こういうところに彼らのユーザーフレンドリーさが表れていたのではないかと思うのだ。

あと、これらのシングル曲はすべてタイアップが付いたものである。これは忘れてはならない。1stがアニメ『IGPX』のOP、2ndと4thがアニメ『恋する天使アンジェリーク〜心のめざめる時〜』のOP、3rdがOVA『鬼公子炎魔』のEDである。GRANRODEOが今もそのカテゴリで語られることが多いかどうかは分からないが、出自がアニメソング、所謂“アニソン”であったことがこの1stアルバムでうかがい知ることができる。シングル曲以外でも、M4「未完成のGUILTY “style GR”」とM11「LAST SMILE “style GR”」とがゲームから派生したアニメの関連楽曲のリメイクで、M15「Once&Forever;」もゲーム関連曲と、アニソンバンドの面目躍如といった感じである。自らが手掛けた楽曲をひとつもスポイルしないというか、こうしてアルバムに入れ込む辺り、すべての楽曲にもちゃんと敬意を表している印象も受ける。

ついで…言っては何だが、アニソンであることに関してひとつ述べさせてもらうと、その楽曲からも生真面目というか、冒頭で述べた正確性といったものを感じたところである。それはタイムである。1番終わりまで、概ね1分半以内。シングル表題作に限って言えば、ほとんど1分20秒以内に収められている。アニメの場合、OPとEDで3分という不文律があるので(不文律ではなく、業界ルールかもしれない)、そこにきっちりと併せているのはお見事である。80秒程度に収めるだけでも大変だろうに、A、B、サビと所謂Jポップの公式(?)に合わせているのは職人的仕事っぷりと言ってよかろう。すべての作曲を手掛けるe-ZUKA(Gu)=飯塚昌明の手腕の確かさは本作から十二分に確認できる。

職人的仕事っぷりはKISHOW(Vo)=谷山紀章が作る歌詞も同様だ。全部が全部そうだとは言わないけれど、アニメのOP、EDとなるとその歌詞は作品の内容に沿ったものであることがほとんどだろう。本作収録のシングル表題作に関して言えば、明らかに作品由来であることが分かる。それだけでなく、この歌詞から作品の内容を想像することすらできるのではないかと思う。M2「慟哭ノ雨」とM3「Infinite Love」は恋愛ものであってその成就をゴールとするものであることは伝わるし、壮大な世界観であるような気がする。M12「DECADENCE」はタイトル通り、退廃的な匂いがプンプンしていて、《グロテスクな化粧》《スカルフェイス》《悪魔のベッドシーン》《媚薬にまみれ》《堕落にまみれ》などなど、それらしいワードが並んでいる。もちろん作品のストーリーをそのままトレースしたものではないだろうが、その作風を直感的に感じさせるものではあろう。筆者はどちらのアニメも見ていないので間違っていたら素直に謝るしかないけれど、軽くググったところでは、バトルものにラブソングを当てているとか、コメディにダークな内容を添えたとかではないようなので、それほど大きな認識違いはないだろう。世界観を大きく損ねず歌詞を作る、しかも、1stアルバムからそれをやっているのだから、谷山紀章の作詞家としての手腕も確かなものである。(ちなみに、M6「Go For It! “style EDGE”」はmavieが作詞を担当しており、本作で唯一、谷山紀章の作詞ではない)

コンポーザーとしての確かな手腕

まずは概ね外形的に分析できることを挙げてGRANRODEOの特徴を軽く分析してみた。この辺りだけで見ても、優れたアニソンユニットであることが分かるだろう。だが、彼らの特徴、魅力はそこだけに留まらない。飯塚昌明の職人的仕事っぷりとして、シングル曲はA、B、サビと所謂Jポップの公式に沿っていると指摘したが、シングル曲以外でも巧みにメロディメイクをする人である。どの曲をとってもサビが実にキャッチーだ。キャッチーなものしか選んでないのかと思うほど、キャッチーなものしかない。アルバムだとl曲くらいはメロディを重視しない楽曲があってもよさそうなものだが、本作に限ってはそんなことはない(M1「RIDE ON…」とM9「EDGE OF…」のインスト曲、M13「Vanessa」の寸劇(?)がそれに当たるかもしれないが…)。これは確かな才能と言えるだろう。狙ってやったとしても、インスト、寸劇を除いた14曲でメロの立ったものを揃えるのは至難の業と言える。

しかも、親しみやすさだけではなく、そこに叙情性があるというか、愁いを秘めた旋律が隠れているように思う。個人的に注目したのはM4「未完成のGUILTY “style GR”」、M11「LAST SMILE “style GR”」辺り。サビは共にキャッチーで耳に残ることを前提として──M4はイントロからマイナー調でありコードも繊細な感じで、とりわけ1番のサビで言えば《巡る心遠くもがき続ける ああ、夢の中で》《未完成な罪が鼓動を砕く 刻まれるこのGuilty》辺りに、アッパーなだけではない、独特のエモーションが宿っているようである。M11はミドルテンポなこともあってか、さらに強めに叙情性を感じるところがあろうか。Bメロもいいが、やはりサビが秀逸。とりわけ後半の《抱き締めてもう一度だけ あの日のように あの頃のように》、もっと言えば《もう一度だけ》でファルセットになるところに感情の揺れを感じるところである。オルゴール風のイントロ、Aメロでのピアノと、そこに辿り着くまでのサウンド的演出もいいと思う。M4、M11以外では、M8「紫炎」のメロディもなかなかおもしろく感じた。サウンドはグイグイと迫るアプローチでサビも高音と、一聴した感じは突き抜けていくような様子ではあるものの、開放的かと言えばそうでもないところにGRANRODEOらしさを見た思いである。e-ZUKAが優れたメロディメーカーであることは間違いないけれど、職業作家的な側面だけでなく、楽曲にしっかりと個性を残しているのは、優れたアーティストの証左と言える。

やや蛇足になるが、そのサウンドについても少し触れておこう。GRANRODEOのサウンドは、重く激しいエレキギターを鳴らすハードロックが基本だ。本作においては、ほとんどそこを徹底していると言っていいだろう。M6「Go For It! “style EDGE”」はパンク~ラウドロックであったり、M7「059/21」はブギーであったりするが、ハードロック的なアプローチから大きく外れることはない。ほとんどの楽曲で間奏ではギターソロが披露されていて、結構な速弾きも少なくない。だが、そうは言っても、あまりマニアックな印象がないことは、おそらくGRANRODEOのアドバンテージだろう。マニアックに聴こえないのには様々な背景があって、件のメロディのキャッチーさがその最大の要因だろうが、加えて、彼らのデビューが2000年代半ばであったことの影響も少なくなかろう。X JAPANが再結成を発表したのが2007年と、本作『RIDE ON THE EDGE』リリースと同年だ。LUNA SEA、JUN SKY WALKER(S)、SIAM SHADE、YMOなどもこの年に復活している。ウィキペディアによれば、1990年代後から凡そ10年ほどの月日が経ったことで再結成が続いたという分析だが、この時期、日本のロックシーンがある種の成熟を見たという受け取り方もできよう。ロックフェスが根付いたのも2000年代だ。エレキギターサウンドがアングラでも何でもないどころか、アニメやゲームのテーマ曲となっても不思議ではない土壌は整っていた。ハードロックサウンドを武器にしたGRANRODEOがデビューするにあたって、進むべき道は充分に開けていたのだ。

歌詞の独自性にロックを見る

さて、最後にもう一度、歌詞の話。タイアップが付いた楽曲でKISHOWの歌詞は、その作品の内容に沿ったものであり、その手腕が確かであると述べた。それでは、ノンタイアップはどうかと言うと、そこに彼ならでは作風を見出せるように思う。注目したのは以下のフレーズ。

《しょっぱい真実をせせら笑いながら/それでもallways感謝しよう》《全部偽善だよなんつって分かってんだよなんつって》(M10「RIDE ON THE EDGE」)。

《冷めた心を さらして/今を揺らめいてたい/どうぞ錆びた心見さらせ/目を閉じたままで》)(M14「mistake」)。

《吹けば飛ぶような儚い夢に/賭けた命笑わば笑え/尊く高き星に選ばれし mission/痛みだけを確かめるような/そんな弱さ 今越えてゆけ/彷徨う魂が浮かび上がる Once & Forever/抱いて貫け》(M15「Once&Forever;」)。

会話のような言葉使いをする一方で、《見さらせ》や《笑わば笑え》といった、やや古風と思える言い回しもサラリと入れ込んでいる。作風の多彩さがうかがえ、やはりライターとしての確かな手腕を確認できるし、個人的にはそのフリーキーさには好感が持ったところだ。ロックなのだから自由だし、自由であるからロックである。個人的に最もおもしろく感じたのは、M7「059/21」。歌詞を書いた日が2005年9月21日で、それを“おうこくのつい”と読ませるアイディアも楽しいところだが、その内容は相当、興味深く思える。

《楽にLuckは来ない あがくにしろ/明日はUsの番だ 十人十色》《さぁ消して 自我をトレース/軽く鬱状形態 たちこめる先入観/さぁ見せて 壁にリリース/どうぜ 単調淡白 隠し得ぬ連帯感/不信を抱いても周るし回る/しょうがない 愛はある 嘘はない》《肺にHighな酸素 みんなダマす/ロクにRockをしない 君に明かす》(M7「059/21」)。

言葉遊びに目が行くけれども、果たしてそれだけだろうか? 私見では、これは彼らの所信表明として捉えることもできるし、若干の皮肉も含めて本音があるような気がするが、それは気のせいだろうか。その判断はリスナーにお任せしたい。

TEXT:帆苅智之

アルバム『RIDE ON THE EDGE』

2007年発表作品

<収録曲>
1.RIDE ON…(instrumental)
2.慟哭ノ雨
3.Infinite Love
4.未完成のGUILTY “style GR”
5.シルエット
6.Go For It! “style EDGE”
7.059/21
8.紫炎
9.EDGE OF…(instrumental)
10.RIDE ON THE EDGE
11.LAST SMILE “style GR”
12.DECADENCE
13.Vanessa
14.mistake
15.Once&Forever;
16.ケンゼンな本能
17.Two of us

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