ブライアン・メイ、1998年のソロ2作目を振り返る。当時のライナーノーツも掲載

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第58回。

今回はブライアン・メイ(Brian May)による1998年に発売された2枚目のソロ・アルバム『Another World』について。このアルバムは、長年どのフォーマットでも入手不能状態だったが、復刻盤として2022年4月22日に発売されることが決定している。

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 『Back To The Light』から6年、ブライアン・メイは、2作目のソロ・アルバム『Another World』を1998年にリリースしました。クイーンとしては、1995年に『Made In Heaven』をリリース。フレディが残した歌声による作品を完成させることで、一つの区切りをつけた、そんな時でした。前を向いて、新たなキャリアのスタートを切るきっかけとなったアルバムが『Another World』。しかし、そんなブライアンに再び悲しい別れがやってきました。コージー・パウエルとの別れです。

『Another World』は、そんな悲しみを受け止め、乗り越えなくてはいけない作品として残されました。そして『Another World』は、長い年月を経て、この度『Back To The Light』に続いて、リマスター・ゴールド・シリーズ復刻版として、4月22日にリリースされます。深い思いを胸に、アルバムは再び陽のあたる道を歩き始めようとしています。

デラックス・エディションには、オリジナル・アルバムのリマスターがDisc1に、さまざまなスタイルのミックス集がDisc2に、また、ワールド・ツアーのパリでのライヴ・テイクとして、「On My Way Up」や「Hammer To Fall」が収録されているまさにデラックス盤となっています。『Another World』に収録されている「On My Way Up」は、アコースティック・ギター、コーラスが全面的に押し出されているサウンド。デラックス盤発売に先駆けて、2022年ヴァージョンとして生まれ変わった「On My Way Up」がすでにリリースされています。

『Another World』は、ブライアンにとって、アーティストとしての音楽スタイルを最大限に表現したアルバムであり、ミュージシャン仲間に支えられて制作したアルバムです。当時、1998年のブライアンが何を考え、何を求めてアルバムを制作し、ツアーを敢行したのか、当時のアルバム・ライナーを読み返して、改めてこの作品の重みを感じることができました。新装盤になりましたら、このライナーが皆さんに届けられることはないと思いますので、ここにあらためて抜粋したものを書き残そうと思います。1998年が、ブライアンのキャリアの通過点の中で、重要な時代であったことを感じてもらえたら嬉しいです。

Photo by Richard Gray © Duck Productions Ltd

(1998年発売時のライナーから抜粋 文:今泉圭姫子)

『メイド・イン・ヘヴン』から2年、そして新曲1曲を加えたベスト・アルバム『クイーン・ロックス』から1年、ブライアンが心の区切りをつけた2作目にあたるソロ・アルバム。タイトルは『アナザー・ワールド』。そのタイトル通り、ブライアン・メイのあらたな世界が1枚の作品に収められている。これまでのソロは、クイーン時代にブライアンがヴォーカルをとっていたサウンドの延長線上にあるものが多かったのだが、『アナザー・ワールド』は、これまでにないアグレッシヴな音がメインになっている。

「ザ・ガヴナー」では、ジェフ・ベックとギター競演。これは興奮する。思いっきりブルースしたシャドウズの「F.B.I」は、ステイタス・クオーのフランシス・ロッシとこれまたギター競演。憧れのギタリスト、ジミ・ヘンドリックスのカヴァーは「ワン・レイニー・ウイッシュ」、初期のクイーンが前座を務めたこともあるモット・ザ・フープルの「オール・ザ・ウェイ・フロム・メンフィス」では、イアン・ハンターの協力を得ている。「ホット・パトゥーティー」では、恋人でシンガーのアニタ・ドブソン、そしてエミリー・メイの名がある(*末娘)。とにかくこのアルバムは、ブライアンの素敵な仲間たちに支えられて完成したのだ。

そして、ブライアンのパートナーとして、全編にわたって参加しているのがコージー・パウエル。ブライアンのソロ活動のほとんどに協力してきたドラマー、コージーはブライアンがクイーン以外のメンバーを除いて、最も信頼をおいている友人といえる。ところがそのコージーが、この原稿を書いている今日(4月8日)、5日日曜日に事故で亡くなったというニュースが入ってきた。

詳しいことは、何もわからないのだが、ブライアンにあらたな試練が襲ってきたかと思うと心が痛む。コージーは、日本でも人気の高いドラマー。レインボー、ホワイトスネイクなどなど、多くのバンドで来日している。ブライアンは、また悲しみを背負ってしまったことになる。秋にはツアーの予定もあったということだ。この作品で、生き生きと楽しくプレイしているブライアンだけに、大きなショックに押しつぶされているのではないか。運命というものは、本当に皮肉なものである。一体、神様はブライアンにどんな使命を与えているのであろうか?

原稿を書き始めた時の『アナザー・ワールド』の印象と、書き終えようとしている今の印象は、ひとりの友人の死によって、大きく変わってしまった。もうすでに、このアルバムは、違う意味を与えられたように思う。そしてブライアンがコージーの死を乗り越え、アルバムを制作していた3年間の気持ちを再び味わえる時が来ることを祈っていたい。今は、そっとこのアルバムを聴くことにする。

Written By 今泉圭姫子

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ブライアン・メイ『Another World』
2022年4月22日発売

© ユニバーサル ミュージック合同会社