最近注目されつつある「手話」の本を探すには? 図書館や書店における「手話」の本の分類について

By 伊藤 芳浩

 現在日本で公開中の「Coda コーダ あいのうた」に出演したトロイ・コッツァさんが、男性のろう俳優として初めて第94回アカデミー賞の助演男優賞を受賞され、話題を集めています。世界でヒットしたマーベル映画「エターナルズ」という映画の中でも、手話が出てくるのをご覧になった方も多いかと思います。

 それがきっかけで「手話」に関心を持ち、「手話」についての本を、図書館や書店で探したいと思った時にどうしていますか?

 図書館では「日本十進分類法」の基準に沿って本の内容ごとに下記の10種類に大きく分類され、種類ごとに並べられています。

0.総記
1.哲学
2.歴史
3.社会科学
4.自然科学
5.技術
6.産業
7.芸術
8.言語
9.文学

 日本十進分類法(NDC:Nippon Decimal Classification)とは、日本の図書館における図書分類法のデファクトスタンダードであり、2008年の調査では公共図書館の99%、大学図書館の92%がこれを使用しています。
(参考:Wikipedia)

 手話をボランティアで勉強しようと思ったら【3.社会科学(社会福祉)】、手話を言語として勉強しようと思ったら【8.言語】のところを探す形になります。

 書店の場合は、ジャンルで置く場所が分かれています。ジャンルというのは大まかに、雑誌か書籍かに分かれていて、それぞれさらに細かく趣味、実用、ビジネス、文芸、文庫、児童、学参、コミック、専門書(芸術、理工、医学、人文)などと分かれています。

 図書館と同様に自分が求める本がどのジャンルに属しているのかを考えて探す形になるでしょう。

 最近は検索端末があって、そこにタイトルやキーワードを入れる形で調べることができるでしょう。

 さて、最近、Twitterで「手話」関連書籍の分類コードが話題になっていたので調べてみたところ、「手話」関連書籍が「言語」として分類されるようになったのは最近の話ということを知って驚きました。なぜ、このようなことが起こったのか、調べてみたので、以下にまとめてみました。実は、手話が言語として、社会が認められたのが最近の話であることと深く関係していました。

手話関連書籍が言語分野に分類されつつある現代

 国立国会図書館サーチで手話をタイトルに含む本を対象に検索すると、369.276(聴覚障害者福祉.言語障害者福祉)は119件、378.28(手話法.口話法)は591件。一方、801.92(手話[手話言語])は71件で、とても少ないという印象があります。

 手話関連の書籍が、社会福祉や障害児教育のジャンルに多く入っているのは、現在の主流であるNDC新訂9版(1995年)が発行された時点において、日本では、手話が言語であるとは公的に認められていなかったためと考えられます。

 2017年のNDC(日本十進分類法)新訂10版から、手話関連書籍は、これまでの378.28(障害児教育>手話法.指話法.読唇術)の分類から、801.92(言語学関連(文法や語彙等)>言語・文字によらない伝達>手話[手話言語])に変更になりました。
NDC10版改訂箇所一覧

 NDC(日本十進分類法)新訂10版では、手話に関連するものは下記の3点が存在することになりますが、言語としての手話を扱う場合は、(3) 801.92が妥当ということになります。

  • 369.276:聴覚障害者福祉.言語障害者福祉…手話奉仕[手話通訳]は,ここに収める
  • 378.28:手話法.口話法…ここには,学校教育における手話指導および口話指導に関するものを収める
  • 801.92:手話[手話言語]

 国立国会図書館では、2017年4月からNDC新訂10版を適用しているため、今後、言語学の本として分類されることが増えると思われます。

社会的にも手話が言語として認識されつつある現代

 2006 年12月13日、第 61 回国連総会にて採択された「障害者の権利に関する条約」において手話は言語として明確に位置づけられました。

第二条 定義
 「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。

外務省Webサイト(障害者の権利に関する条約)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000899.html
太字は筆者により付与

 そして、日本では、2011 年に障害者基本法の改正法にて、日本の法律ではじめて、手話を言語と定義しました。(第3条 三)

第 3 条
三 全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。

e-GOV法令検索(障害者基本法)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC1000000084
太字は筆者により付与

分類ひとつで社会の見方が変わる

 たかが分類と思っていませんか?分類は、本のテーマがどの分野に属するかを示す重要な鍵であり、その分類によって、本を読む人の意識が変わってきます。

 特に、手話の場合、「手話が言語である」ということを意識すると、言語を学ぶという意識が高まり、視覚的言語としての特性などに着目しやすくなります。そうすることで、手話を第一言語とする人の生活や考え方、文化(ろう文化)の理解が深まります。

 分類をあるべき姿にすることで、多様性がある社会の中のマイノリティ(手話の場合は、言語的マイノリティであるろう者)のことを正しく理解するきっかけとなり、共生社会の実現につながります。

 皆さんも是非、近くにある図書館や書店で、手話関連書籍がどこに分類されているか調べてみてはいかがでしょうか。

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