挑戦を続ける本気の伊藤蘭!伝説の日比谷野音で44年ぶりコンサート【ブルーレイ発売】  Blu-ray&DVD化!「伊藤 蘭コンサート・ツアー 2021 ~Beside you & fun fun Candies!~野音Special!」

聖地、日比谷野外音楽堂のステージに立った伊藤蘭

44年ぶり。伊藤蘭が野音のステージに立った。1975年4月13日、矢沢永吉が率いるキャロルが燃え尽きた解散ラストライブ、1981年6月20日、ザ・モッズが開演中集中豪雨に見舞われ伝説のステージとなった “雨の野音”―― 日比谷野外音楽堂は、数多のアーティストにより、その場所は聖地と化した。それは、キャンディーズファンにとっても例外ではなかった。

1977年の夏、人気絶頂だったキャンディーズ、突如の解散宣言はこの日比谷野外音楽堂だった。この場所で伊藤が感極まって発した「普通の女の子に戻りたい!」は当時の流行語になるほど世間を騒然とさせたが、ここの発言にたどり着くまでの華々しいキャンディーズの軌跡と、伊藤の思い、そしてファンの気持ちを今俯瞰して考えてみても感慨深いものがある。

あれから、44年の月日が流れ、伊藤蘭は再び野音のステージに立った。『伊藤蘭コンサート・ツアー2021~Beside you & fun fun ♡ Candies!~』中野サンプラザホール公演の追加公演として選んだのが、伊藤にとっても特別な思いの込められた聖地・野音だった。

オープニングナンバー「春一番」キャンディーズ時代の大名曲

キャンディーズの応援ナンバーとして知られるインスト曲「SUPER CANDIES!」が野音の空に響き渡ると自身のイメージカラーだった赤いワンピースで伊藤が登場する。オープニングナンバーはキャンディーズ時代の大名曲「春一番」だった。

コロナ禍の規制で声を発することのできない観客席から無言の熱いエールがステージに向けられる。観客の中には、キャンディーズとともに青春を過ごした壮年の先輩たちも多く見かける。中には、全キャン連(全国キャンディーズ連盟)時代のCANDIESとロゴの入ったスタジアムジャンパーを着た筋金入りのファンもいる。

その熱気から彼らにとってキャンディーズが一過性のアイドルではなく、長い人生の傍ら常に彼女たちの楽曲と共にしていたことを感じ取ることが出来る。

「春一番」を歌い終えた伊藤のMCはこうだった。

「みなさん、こんにちは!伊藤蘭です。そして、ただいま野音!」

この短いMCから、僕には二つの意味を感じ取ることができた。それは、40年以上という長い時を経て、今もキャンディーズを背負う伊藤の覚悟と、2019年にソロ歌手としての活動をスタートさせ、今年2枚目のアルバム『Beside you』をリリース。2021年現役の歌手として大舞台に臨む覚悟というふたつの覚悟だった。

セカンドアルバム「Beside you」シンガー伊藤蘭の魅力が凝縮

『Beside you』のクオリティの高さは目を見張るものがあった。中でも、ここに収録され、昨年12月に配信限定シングルとしてリリースされた「恋するリボルバー」は、クレイジーケンバンドらが得意とする昭和の郷愁を今の時代の最先端に呼応すべくブロウアップさせた極上のロッキンナンバー。今回のステージでも「この曲をいただいた時は心臓を撃ち抜かれました」というMCを添えた。

これだけではない。ここに収録されている楽曲の数々は “往年のスター” というイメージとは遥かに異なり、2021年現在第一線で活躍するミュージシャンたちとコラボレートした現在の等身大の伊藤蘭であることは言うまでもない。このアルバムにソングライターとして名を連ねた布袋寅泰、佐藤準、トータス松本といった布陣の本気度も一目瞭然だった。

そんなアルバムをひっさげた伊藤のステージ、ソロの楽曲を中心に組まれた前半戦は、2021年現在のシンガー伊藤蘭の魅力が凝縮されていた。

「恋するリボルバー」と同じく先日リリースされたセカンドソロアルバム『Beside you』に収録されている普遍的なロックテイストを全面に打ち出した「ICE ON FIRE」やJR西日本「おとなび」のCMでもお馴染みのボサノバ調チルアウトナンバー「ヴィブラシオン」など変幻自在にバラエティに富んだ楽曲構成。

バンマスとしてキーボードを奏でる佐藤準を中心としたバンドと一体になって織り成すグルーヴが伊藤の類まれな表現力、そしてキャンディーズ時代以降、年を重ね成熟した歌唱力と相俟って、夕闇に包まれる野音の空にメロディが溶けていくその瞬間は、音楽の神様が地上に舞い降りてくるかのような錯覚にとらわれたほどだ。

後半はキャンディーズナンバーで構成

後半は、キャンディーズナンバーが中心となるステージだった。まばゆい輝きが美しい黒のワンピースとロングブーツという衣装に着替えた伊藤が熱唱するのは「危い土曜日」「その気にさせないで」「ハートのエースが出てこない」という珠玉の名曲たち。解散から43年経っても輝きは全く色褪せていない。MCで伊藤は言う。

「キャンディーズの曲を歌うと隣にいたスーさん、ミキさんのぬくもりを感じるんです」

この言葉を聞いて僕は目頭が熱くなる。それと同時に1978年4月4日に行われたキャンディーズの解散コンサート『ファイナルカーニバル』の映像がオーバーラップする。この日のラストナンバーは「つばさ」だった。伊藤自らが作詞し、解散を知った全キャン連の有志が作った「3つのキャンディー」という歌への返歌としても知られる曲だ。この時、無数の紙テープが舞うステージで抱き合う3人の姿、そして前をまっすぐ見据えて歌う伊藤の力強さが、なにより印象的だった。

この先にある長い将来を見据えたような強さ。同時に3人だからこそやってこれたというメンバーに対する感謝の念や、ファンに対する思い…。そして、当時の思いをすべて背負い、最後のキャンディーズとして、野音のステージで当時からの多くのファンの眼前に立つ伊藤の覚悟を感じずにいられなかった。

「アン・ドゥ・トロワ」「やさしい悪魔」「年下の男の子」「暑中お見舞い申し上げます」… と誰もが知るキャンディーズナンバーが次々と織り成される。当時の振り付けそのままに再現される名曲の数々。40年以上の時を経て届くその歌声を聴いたファンは、当時に想いを馳せるだけでなく、これらの曲が懐メロなんかではなく、これから先もずっと寄り添って生きていく人生のパートナーだということを実感していたはずだ。

ラストナンバーは「家路」、当時披露されなかった「さよならのないカーニバル」も

この記念すべきステージのラストを飾るナンバーは、キャンディーズ活動期間内のラストシングル「微笑みがえし」だった。これまでのキャンディーズのヒット曲が歌詞の中に散りばめられたこの曲は、まさに人気絶頂のまま解散したキャンディーズそのものを体現していた。

3人でステージに立っていた時代を思い出すかのように歌詞を噛みしめて歌う伊藤。その姿を涙なしに観られるファンはいなかった。観客席の往年のファンたちが目を真っ赤に腫らし聴き入る光景もまたこのステージの重みと深い意味を物語っていた。

そして、アンコールではスワロフスキーで飾られたツアーTシャツに鮮やかなピンクのトレンチコートで登場。キャンディーズ時代のコンサートでも本編ラストの定番曲だった「Dancing Jumping Love」そしてこちらもアンコールの定番曲だった「さよならのないカーニバル」と当時を知るファンであれば落涙もののナンバーが続く。そして、ラストナンバーは作詞:森雪之丞、作曲:布袋寅泰によるハートウオーミングなナンバー「家路」で幕を閉じた。

「さよならのないカーニバル」は44年前の野音公演でセットリストに入っていながら突然の解散宣言のため披露されることのなかったナンバーだ。アンコールのMCで伊藤は言う。

「…あの日歌えなかった歌なので、なんとなく欠けていたピースが埋められたと思います」

44年という長い年月、キャンディーズへの思いをずっと胸に秘め、これからキャンディーズ背負い、なおかつ現役のシンガーとして新たな試みに挑戦を続ける伊藤蘭らしい素敵なMCだった。そして欠けていたピースが埋まった伊藤のこれからの活動にも大いに期待したい。

※2021年10月17日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 本田隆

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