OUTRAGEのスラッシュメタルが世界標準であることが克明に示されたメジャーデビュー作『Black Clouds』

『Black Clouds』('88)/OUTRAGE

4月20日にデビュー35周年記念アルバム『SQUARE, TRIANGLE, CIRCLE & FUTURE』をリリースしたOUTRAGE。この作品は5月から劇場公開される映画『鋼音色の空の彼方へ』で使用されているOUTRAGEの楽曲を収めたCDと、デビュー前からのOUTRAGEのライヴ映像を収録したDVDがセットになっており、OUTRAGE入門編としても便利な上、生粋のファンにも嬉しいアイテムと言えそうだ。映画もその予告を観る限り、一風変わったバンドのヒストリー物語に仕上がっているようで、こちらも楽しみにしたい。当コラムでは、そんなOUTRAGEのメジャーデビュー作を取り上げる。

日本スラッシュメタルの雄

久々にOUTRAGEの音源を聴いたが、やはりハンパなくカッコ良い。デビューアルバムにしてこのクオリティーはすごいと言わざるを得ないと思う。当コラムでは“デビューアルバムにはそのアーティストの全てがある”理論を好んで用いているのだけれど、この『Black Clouds』もまたそういう作品と言っていいだろう。いい意味で、デビュー作からすでにバンドが完成されていることがよく分かる。

彼らが掲げるサウンドは日本ではメインストリームとは言い難いヘヴィメタル、とりわけそれをさらに過激にしたと言われるスラッシュメタルである。雑多な音楽シーンの流れに塗れることなく、今年デビュー35周年、結成から数えれば40周年というキャリアを着実に積み重ねてきた。本作を聴くとそれも納得というか、デビュー時からすでに貫禄と呼んでいい、確固たるスタンスを備えていたことを実感することができる。

最近ではそうした偏見を持つ人もかなり減ったと思われるが、ヘヴィメタルというと、とかく音がうるさいとか、演奏が長くてしつこいとか、メンバーの見た目が汚いとか、敬遠する人にはとことん敬遠されていた時期があった。OUTRAGEがメジャーデビューを果たした1987年の日本においても、まだ微妙に…ではあったであろうが、しかしながら確実に、その傾向はあったように記憶している。その辺はWikipediaの“ジャパニーズメタル”の記事に詳しい。以下の記述が興味深い。[1980年代当時のBURRN!編集長であった酒井康は一般層に浸透しているヘヴィメタルのイメージが「長髪、化粧、騒音、馬鹿」になっていると嘆き、宣伝目的で安易にバラエティー番組に出演するバンド側に対し「メディア(の影響力)は怖い。出演している側がシャレと思っていても、知らない人はマジで受け止めてしまう」と危惧すると同時に「ヘヴィメタルを理解していない人たち、つまり、一般メディア、マスコミ、それらに利用されているとは思わない頭の良い日本のバンド様によって一般大衆に“ヘビメタ”という言葉だけが浸透していっただけ」と痛烈な皮肉と批判を口にしていた]とある([]はWikipediaからの引用)。誤解に基づく偏見と蔑視であったというのは、老舗専門誌の編集長ならではの慧眼である。

ただ、そうは言っても、ライトユーザーにヘヴィメタルを理解させるのが難しかったことは、これもまた事実であっただろう。同ジャンルはテンポの速い楽曲も多く、それゆえにメンバー全員にかなりの演奏スキルが要求される。それだけのテクニックがないバンドの楽曲は聴くに堪えないのだ。うるさい演奏がただただ続くだけである。思うに、ヘヴィメタルを蔑視した人たちの中には、そうした聴くに堪えないヘヴィメタルを体験して(例えば、学園祭でのライヴとかで…ね)、うんざりしたという人たちも少なくなかったのではないかと筆者は想像する。とにかくヴォーカルとメインギターが一定のレベルじゃないと目も当てられない。聴くに堪えないどころか、本当に聴けたものじゃなくなるのだ。

何を言いたいかと言えば、それだけヘヴィメタルは精密さが必要な音楽だということだ。1990年代以降はジャンルも多岐に広がり、そのエッセンスを取り込んだアーティストも増えてきたので、ヘヴィメタルも一概にテクニック指向とは言えなくなった感もあるが、1980年代まではテクニックのないバンドはデビューなどできるはずもなかった。当然まともなバンドをライトユーザーが軽く聴く…なんて機会も少なかったと想像できる。無論バンドにとってメジャーは狭き門であっただろう。ちなみに、OUTRAGEよりも先にメジャーで活動していた日本のヘヴィメタルバンド、REACTION、PRESENCE(メタルバンドとして扱うには強引だが…)も1989年に解散しているので、彼らがデビューした頃、メタルシーンは冬の時代に突入しようと言っていいかもしれない。仮にそうだとすると、そんな中でOUTRAGEがメジャー進出したのは、彼らがその行く末を嘱望されたからであることは疑うまでもなかろう。以下の記述は、そうしたOUTRAGEの資質やポテンシャルを1stアルバム『Black Clouds』から探っていこうとする試みである。

ラウドに留まらない多彩な展開

アルバムのオープニングナンバーはM1「Curtain Of History」。ゴリゴリなギターリフとキレのいいビートで始まりつつも、途中からそこにメロディアスなリードギターが絡むイントロからして、決して彼らの音楽が単純なものでないことが分かる。 “ラウドでありながらメロディック”というのは本作、引いてはOUTRAGEの大きなポイントではあろう。爆音で攻めつつも決して爆音だけに留まらない。その中にしっかりと抑揚ある音階を入れてくる。これは本作収録曲の随所に見られるものだ。M1のイントロは47秒あるので、サイドギターだけでは長尺に感じられるところを、リーダーギターの旋律がそう思わせない。1番から2番のブリッジや2番終わりも同様。しかも、その旋律はどこかオリエンタルでどこか妖艶。間奏のソロパートでは転調があったりして、ここでも変に間延びした感じはない。ヴォーカルはハスキーではあるものの、癖は強くなく、(こう言っては失礼かもしれないが)生真面目で、しっかりと歌の旋律を堅持している印象が強い。当たり前だが、音楽として極めてちゃんとしているのである。うるさいだけとか、演奏が長くてしつこいだけとか、そういう類いのバンドではないことははっきりとしている。

M2「Under Control Of Law」はM1より若干速め。冒頭からギターリフがザクザクと進んで行くところは相変わらずだが、歌が入るとドラムがブラストに変化するので、余計にテンポアップした感じがある。コール&レスポンス的な箇所があったかと思えば、その後に転調したりと、展開も多彩。とりわけ間奏でギターが変化する様子がおもしろい。速弾きからメロディックに移行して、さらにはミドルテンポ風に白玉でのコード弾きへ…といった具合で、初見では先が読めないのではなかろうか。間奏とは言ったものの、ここが楽曲のメインの演奏と言ってほうがいいように思う。

M1、M2で、このバンドがヘヴィメタル、スラッシュメタルと言っても、ライトユーザーが想像するような“ヘビメタ”ではないことを実感するとは思うが、それはM3「Slowly But Surely」で決定的になる。この楽曲はフラワー・トラベリン・バンド(以下FTB)が1973年に発表したアルバム『Make Up』収録曲のカバーである。未体験の方は、ぜひ原曲を聴いてからこのM3に臨んでほしい。OUTRAGEのテクニックとセンスがより理解できると思う。FTB版にはオルガンやピアノが配されているが、OUTRAGE版にはそれがない。キーボードを駆使してプログレッシブロックの構築美を表現したFTBに対して、OUTRAGEは同楽曲を4人の音だけで構成している。しかも、妙に個性的なバージョンにするのではなく、コピーに近いカバーと言っていいだろうか。こうしたことは自らの演奏に自負がなければ容易にできるものではなかろう。ギター、ベース、ドラムのみの演奏ながら、原曲と印象が大きく変わらないのは、原曲での印象的な歌やギターのフレーズを自らのものとして堂々と鳴らしているからに他ならない。OUTRAGEからFTBへの敬意と共に強烈な矜持を感じるところである。ジョー山中のハイトーンを完璧に表現するのは流石に無理があったようで(あのハイトーンは他の誰にも真似できないだろうが…)キーを下げているけれど、変に小細工を弄することなく、素直に自らのレンジで歌っているのはむしろ好感が持てるところではないかと思う。

続くタイトルチューン、M4「Black Clouds」でまた少し驚かされる。ギターがアルペジオを奏でており、テンポはミドル。1分を少し過ぎた辺りからはアコギの音色も聴こえ、2本のギターでアンサンブルを取っていく。この辺りはそこらのメタルバンドが簡単に仕掛けられる技でもなかろう。そして、ヴォーカルが入ると重めのエレキギターが楽曲を引っ張ってダイナミックになっていく。と思ったのも束の間、1番の終わりで転調。きれいなアコギの旋律から、そこに折り重なるようにヘヴィなギターリフが鳴らされ、そこからまたアコギに成り代わる格好でエレキギターのソロが奏でられる。そのヘヴィリフは次第にカッティングが強めに変貌していきながら、そこにまたユニゾンのエレキギターが重なり、さらにそれが速弾きへと変わっていく。変幻自在とはまさにこういうことを言うのだろう。そういうギタープレイだ。この間、リズム隊は時にラウドに、時にスパートし、最後はダイナミックにバンドのボトムを支えていく。こうした楽曲を単純にヘヴィメタルやスラッシュメタルと呼びたくないし、これを聴くとM3でFTBをカバーしたこともさもありなんというか、このバンドの懐の深さ、志の高さを改めて感じて背筋を伸ばしたくなるほどである。

スリリングな演奏が生む独特の高揚感

M5「Bring Him Back」はいかにもヘヴィメタルといった重いギターリフで始まる。ラウドでアッパーでありながら、どこか不穏な印象があって、シリアストーンなナンバーだ。やはり、間奏でのメロディアスかつオリエンタルな雰囲気のギターが耳を惹き、このバンドのベーシックなスタイルを再認識させられる。M6「Eos」はアコギ1本で綺麗なメロディーが奏でられるインスト。ほぼ1分という短いナンバーで、こういう曲をアルバムに入れていることでも、このバンドが単に勢いだけで迫っていこうとしていないのが分かるはず。

M7「Edge Of Death」のサウンドを重く感じるのは、直前にM6が配されているからかも…と少しだけ思ったりもした。で、そのM7。やはりヘヴィなリフが支配しているのだが、やはりここでもしっかりと抑揚を付けていて、単純なイントロではない。また、2番終わりからテンポアップしていくようにも聴こえる。ドラムはツーバスになり、ギター、ベースも細かいフレーズを弾くので、速くなったように聴こえるだけで、実際のテンポは変わっていないのかもしれないが、いずれにしても、ここもまた決して単調な展開ではないことが確認できるだろう。その後、ギターがアルペジオになることで楽曲はよりドラマチックになっていき、さらにはメロディアスなソロも聴こえてくる。これはもうプログレと呼んでよかろう。しかも、後半のヴォーカルパートにはコール&レスポンスっぽいリフレインもあって、さまざまな要素が多彩に詰め込まれている。聴いていて飽きることなどないと思う。

M8「Peyote」はインスト。テンポは本作の中では最速ではなかろうか。BPMを計ったわけではないので実際のところは分からないけれど、ブラストビートであって体感では最速のように感じる。そんな勢いのあるナンバーでラストが締め括られているというのは何ともいい感じだ。しかしながら、無論この楽曲も決して単に勢いだけで攻めているものではない。メロディアスでちょっとノスタルジックな旋律を奏でるギターは、時にカッティングを駆使したりしながら、楽曲の中心を流麗に闊歩していく。歌がないこともあって、誤解を恐れずに言えば、どこかフュージョンに近い印象が個人的にはある。中盤からはラウドに展開。楽曲全体に独特の抑揚と緊張感を生み出している。とりわけ「Boléro」に似たリズムの中、エレキギターがザクザクと進んでいく箇所はスリリングさの極み。独特の高揚感は聴いていてとても気持ち良い。後半は再びブラストで、力の限りに突っ走ってフィナーレを迎えるような印象でありながら、キレ良くスパッと終わる。清々しい雰囲気すら残す。

久々にOUTRAGEを聴いた興奮のまま、勢いで書き殴ってしまったので、大分主観も入ったようだし、事実との祖語があるかもしれないが、その辺はご容赦いただきたく思う。その熱だけでも伝わってくれれば幸いである。ここまで説明してきたように、1stアルバム『Black Clouds』で、ヘヴィメタル特有のラウドなダイナミズムの中にもメロディアスな要素などを入れ込んで、多彩な展開のある楽曲を示したOUTRAGE。以降、4th『THE FINAL DAY』(1991年)、6th『LIFE UNTIL DEAF』(1995年)と傑作を産み出していく。また、欧米のメタルバンド、ハードコアバンドが来日した際にそのオープニングアクトやツアーに同行。ラウドシーンにおいて日本を代表するバンドと言っても過言ではない存在へと成っていった。それも、1stで示した彼らのポテンシャルを考えれば当然であったと言える。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Black Clouds』

1988年発表作品

<収録曲>
1.Curtain Of History
2.Under Control Of Law
3.Slowly But Surely
4.Black Clouds
5.Bring Him Back
6.Eos
7.Edge Of Death
8.Peyote

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