ギリアド社、ドラゴンフライ社のNK細胞エンゲージャーTriNKETsでライセンス契約締結 世界の製薬トップニュース:ギリアド社が一時金310億ドル以上を支払う新たなテクノロジーとは?

By 前田静吾

ギリアド・サイエンシズ社が、ドラゴンフライ社 (Dragonfly Therapeutics)のNK細胞エンゲージャーを用いた免疫療法を、オンコロジーおよび炎症性疾患領域で開発するライセンス契約を締結したことを5月2日発表しました。この契約により、ギリアドはドラゴンフライ社の前臨床免疫療法DF7001の独占的グローバルライセンスの取得に併せて、ドラゴンフライ社のTriNKETプラットフォームを用いた他のNK細胞エンゲージプログラムへのオプトイン権の権利も取得しました。

3億ドルの一時金、売上金額の20%のロイヤリティなどの諸条件

今回発表されたライセンス契約には、ギリアドがドラゴンフライ社に払う3億ドルの契約一時金、ドラゴンフライが受け取るオプトイン権利利用時に受け取るフィーと業績に応じたマイルストーンペイメントに加えて、DF7001がされ承認された場合売上高に対して最大20%のロイヤルティを受け取る権利が含まれています

ドラゴンフライ・セラピューティクス社とは

ドラゴンフライ・セラピューティクス社は、先天的な免疫システムを活用した新しいがん免疫療法に注力したバイオテクノロジー企業です。同社が取り組む治療薬は、腫瘍の微小環境に存在する免疫抑制因子のバランスを取り、抗がん免疫反応をするように設計されており、単剤での効果はもちろん、T細胞治療などの既存のがん免疫療法との併用による治療効果が期待されています。

ドラゴンフライ・セラピューティックス社ホームページ(英語)
同社のパイプラインへのリンク(英語)

現在、免疫系のT細胞を利用した「チェックポイント阻害療法」や「CAR-T細胞療法」は大きな成果を上げてますが、まだ治療効果の限界と課題が残っています。特に、T細胞ベースの治療は、特定の種類の癌に対してのみにしか効果が期待されません。

ドラゴンフライ社の技術は、免疫系のセンチネルと呼ばれるナチュラルキラー(NK)細胞を用いた免疫療法を向上させる効果が期待されています。同社のプラットフォームであるTriNKETs(三重特異性NK細胞エンゲージャー療法、Tri-specific NK cell Engagement Therapies)は、NK細胞の有用性を実証し、重要な新しい治療ツールや幅広く適用できる抗癌剤のポートフォリオの両方を生み出しています。

多くのグローバル製薬企業との提携が締結されている同社のTriNKETs技術

ドラゴンフライ社は、多くのグローバル製薬企業と提携を進めております。今年4月には自己免疫および線維性疾患の新しい標的に対する免疫療法に関して従来の契約内容を更に拡大するニュースを発表しています。アッヴィ社、ギリアド社のみならず、メルク社、ブリストル・マイヤーズスクイブ社とも提携をしています。

TriNKET(三重特異性NK細胞エンゲージャー療法)とは?

TriNKETsのイメージ:ドラゴンフライ社ホームページから

同社のホームページでは、TriNKET(三重特異性NK細胞エンゲージャー療法)を「プラットフォームの説明ページ(原文英語)」で以下のように説明しています。

TriNKETは、NK細胞ベースのプラットフォームで、NK細胞の本来の免疫システムを活性化する基盤技術で、免疫療法を劇的に強化することが期待されます。T細胞と同様に、NK細胞は身体の自然免がん細胞と、NK細胞自身、T細胞、B細胞などの、がんを攻撃するために役立つ免疫系の細胞間にアクティブな接続を提供します。固形癌と血液腫瘍の両方に存在する癌細胞は、表面にタンパク質を発現しています。ナチュラルキラー(NK)細胞は、人体が本来持っている免疫システムの一部ですが、このNK細胞もまた、その表面にタンパク質を発現しています。これらに同社のTriNKETは、がん細胞とNK細胞の両方に発現しているタンパク質に結合①します。

体内のNK細胞を活性化させる

この結合により、TriNKETがNK細胞を刺激し、がんを認識させ、がん細胞を直接殺す①と同時に、他の免疫細胞にがんを攻撃するように通知②します。その結果、NK細胞ベースのTriNKETが免疫療法を強化します。T細胞③と同様に、NK細胞は身体の自然免疫系の一部であり、幅広い腫瘍において、がん細胞を直接認識して破壊することができます。また、免疫系の他の細胞にも指令④を出します。

– NK細胞は腫瘍細胞を直接的に殺傷する
– NK細胞はまた、T細胞とB細胞を活性化します。
– B細胞が 抗腫瘍抗体の生産を助けます。
– そして、より多くのT細胞を活性化し腫瘍細胞を殺す

全体として、NK細胞はT細胞の効果を増幅し、他の免疫系細胞にがんを攻撃するよう呼びかけるセンチネルとして働きます。また、がんを識別するという特殊な性質を利用して、腫瘍細胞をより特異的に狙い、治療の幅や安全性のプロファイルも広げる可能性があります。

ギリアド社が独占的グローバルライセンスを得るDF7001は2023年にIND申請予定

DF7001は、非小細胞肺がん、膵臓がん、乳がん、頭頸部扁平上皮がんなど、予後の悪い腫瘍の増殖を支えるがん細胞や間質細胞に発現する5T4たんぱく質を標的とするTriNKETとして設計されています。

ギリアドの研究担当執行副社長であるフラビウス・マーティン氏は、同社が革新的なNK細胞エンジェクタープログラムでパイプラインを拡大しようとしていると述べました。「我々は、補完的な(作用機序)と組み合わせの機会に対する強力な科学的根拠を持つアセットでポートフォリオを拡大しています。ドラゴンフライ社とのコラボレーションは、 癌や炎症性疾患の治療における最大のギャップのいくつかに対処しようする試みです。」
両社によると、DF7001の治験薬として2023年前半にIND申請を目標としている。[(https://www.dragonflytx.com/platform)

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