【特集】ビニール傘で選挙に勝つ

梅雨時の演説に重宝、イチローも

画像 大きなビニール傘を差してキャンプ施設に向かうマーリンズのイチロー=3月25日、ジュピター(共同)画像 内側から風を抜くため骨に沿って開けた穴=東京都台東区画像 須藤宰社長による、演説での使用のイメージ(同社提供)

 選挙戦に欠かせないのは「透明性」と「風通し」―。と言っても、金の話でも支援組織の話でもない。雨の日の選挙演説で使われる透き通ったビニール傘。候補者の姿を隠さずにすっきりと彩り、雨風に負けない丈夫な「透明人間」として重要なのだ。ことしは梅雨時を避けられない参院選があるうえ、衆院選との同日選もささやかれており、国内唯一のビニール傘メーカーは、政党や陣営からの注文に備え、生産に追われている。

 ▽邪魔しない

 「あっ、うちの傘だ」。3月下旬。練習に向かう米大リーグ・マーリンズのイチロー選手の写真が載った新聞に、傘製造販売会社「ホワイトローズ」(東京都台東区)の須藤宰社長(61)は驚いた。

 イチロー選手が差していたのは同社製のビニール傘「テラ・ボゼン」。雨の中、墓前で読経する法衣姿の僧侶に差しかけることを想定し、外側の親骨が85センチという特大の傘だ。普通の傘は50~60センチ程度。「抱えた用具をぬらさない大きさに加え、透明なため、イチロー選手こだわりのTシャツの邪魔をしていないのでは」と須藤社長は話す。

 同社は江戸時代から十代続く老舗だ。綿製の傘が主流だった1950年代ころ、傘を覆うビニール製カバーを作り販売したのをきっかけに、傘自体をビニールで製作。「世界初のビニール傘だった」という。以来、海外から安価なビニール傘が大量に輸入されるようになっても、国内で職人の手作業による生産を続けている。

 ▽風通します

 しなやかなグラスファイバー素材で折れにくい骨を使用している。3層重ねのビニールは、内側から風が抜けるよう骨に沿って小さい穴を開けてあるため、強風でも傘がひっくり返りにくい。大きさや機能などにより、1本5400円から1万2960円。修理可能で使い捨てではない。

 選挙演説用の傘は、「勝てる」にちなんで「カテール」「シンカテール」と名付けている。30年ほど前、都議選に立候補する知人から「大きく透明で、選挙戦の2週間壊れない頑丈な傘を」と依頼されて開発した。

 演説中、聴衆の面前で壊れるようではみっともないし、縁起でもない。丈夫さにこだわって試作を重ねた。今や全国から注文があり、まとめ買いする政党も。当選後も使い続けている政治家も多いという。

 ▽透明は安全

 最近は、天皇、皇后両陛下が被災地訪問や園遊会で使用されたビニール傘を製作したことでも話題になった。女優、身辺警護員、ゆるキャラ、ガーデンウェディングの新郎新婦が差したり、歌舞伎座のお練りに使われたこともある。国際会議で来日する海外のVIP用にという注文も寄せられている。

 「目立たないよう作った傘が、使った人のおかげで注目される。透明人間がはっきり見えたようで不思議な感じ」と須藤社長。

 選挙や業務用の注文も多いが、ネット販売ではほとんどが一般の個人客。周りが見える安全性を求めるようだ。

 「子どもや障がい者、高齢者などは、安全のために外から気づいてもらえることも大切だ。安全に帰宅できるツールとしての傘であるため、透明ビニール素材にこだわりたい」。同社は今後、杖代わりにもなったり、杖を内蔵するなどした高齢者らに配慮した製品の展開を目指している。(共同通信=小森裕子)

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