DNAやRNAに含まれる核酸塩基5種類、炭素質隕石から初めて同時検出

【▲ 初期の地球へ隕石によって核酸塩基がもたらされたことを示したイメージ図(Credit: NASA Goddard/CI Lab/Dan Gallagher)】

北海道大学の大場康弘准教授を筆頭とする研究グループは、地球に落下した「炭素質コンドライト」(有機物に富む炭素質隕石)を分析した結果、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)に含まれている5種類の核酸塩基がすべて検出されたとする研究成果を発表しました。

炭素質コンドライトには太陽系初期の様子を伝える古い物質が含まれています。これまでにも5種類の核酸塩基のうち3種類が隕石から検出されたことはありましたが、研究グループによれば、5種類が同時に検出されたのは今回が世界初のことだとされています。

■隕石から5種類の核酸塩基を同時検出、二重らせん構造に欠かせない塩基対も

地球の生命の遺伝情報を担うDNAやRNAには、それぞれ5種類の核酸塩基「ウラシル(U)」「シトシン(C)」「チミン(T)」「アデニン(A)」「グアニン(G)」のうち4種類(※)が含まれています(括弧内は略号)。

このうちアデニンとチミン(DNAの場合)またはウラシル(RNAの場合)、シトシンとグアニンは塩基対と呼ばれるペアを組み、塩基対が無数につながることで特徴的な二重らせん構造が形成されています。生命を形作ったり機能させたりするための情報は、この塩基対の連なりとして記録されているのです。

※…DNAにはシトシン・チミン・アデニン・グアニン、RNAにはウラシル・シトシン・アデニン・グアニンが含まれている

生命に欠かせない水や有機物は、初期の地球に落下した小惑星や彗星によって運ばれたと考えられています。DNAやRNAに含まれるものをはじめとした様々な核酸塩基も、宇宙空間で形成された後に地球へもたらされたとする説が提唱されています。

しかし、生命に欠かせない5種類の核酸塩基のうち、今までに隕石から検出されたことがあるのはウラシル・アデニン・グアニンの3種類だけでした。そこで研究グループは今回、3つの炭素質コンドライト(マーチソン隕石、タギシュ・レイク隕石、マレー隕石)について、ごくわずかな核酸塩基を検出できる新たな手法(1ピコグラム=1兆分の1グラムオーダー)を用いて分析を行いました。

その結果、未検出だったシトシンとチミンを含む、DNAやRNAに含まれる5種類すべての核酸塩基が初めて同時に検出されました。さらに、DNAやRNAの二重らせん構造を形成する上で欠かせない塩基対も、今回初めて炭素質コンドライトから検出されたといいます。

今回の研究では、3つの隕石すべてから核酸塩基が検出されました(隕石1グラムあたりの濃度は最大で72ナノグラム=10億分の72グラム)。なかでも1969年にオーストラリアへ落下したマーチソン隕石は核酸塩基の種類と量が豊富で、18種類の核酸塩基(うち10種類は初めて)が検出されています。

研究グループによると、炭素質コンドライトには数万~数十万種類の多様な有機化合物が存在するとされていますが、そのなかでも核酸塩基は生命との関連性が期待される化合物です。検出された核酸塩基のうち少なくともその一部は、水素分子や塵を含む星間分子雲における光化学反応によって、太陽系が形成される前に生成されたのではないかと研究グループは考えています。

隕石に含まれている核酸塩基はどのようにして生成されたのか、初期の地球へもたらされた後にどのようにして核酸を形成する材料になったのか。宇宙から地球へもたらされた有機化合物をもとに生命が誕生するに至った全容の解明へ近づくために、研究グループはさらなる研究の必要性を指摘しています。

関連:準惑星ケレスのウルヴァラ・クレーターには「塩」と一緒に「有機物」が堆積している

Source

  • Image Credit: NASA Goddard/CI Lab/Dan Gallagher
  • 北海道大学 \- 炭素質隕石から遺伝子の主要核酸塩基5種すべてを検出~地球上での生命の起源・遺伝機能の前生物的な発現に迫る~
  • NASA \- Could the Blueprint for Life Have Been Generated in Asteroids?
  • Oba et al. \- Identifying the wide diversity of extraterrestrial purine and pyrimidine nucleobases in carbonaceous meteorites

文/松村武宏

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