『BOLERO』から感じる反抗・反逆の姿勢はMr.Childrenがロックであることに他ならない

『BOLERO』('97)/Mr.Children

5月11日、Mr.Childrenのベストアルバム『Mr.Children 2011 - 2015』『Mr.Children 2015 - 2021 & NOW』がリリースされた。先週辺りから(もっと前から!?)テレビ、ラジオの音楽番組のみならず、バラエティー番組でも“ミスチル”の名前とその代表曲を耳にするようになってきていて、巷はちょっとした祭り状態ではある。それに便乗して同コラムでもMr.Childrenの過去作を取り上げることとした。最大セールスを記録した『Atomic Heart』は以前に取り上げているので、今回は6thアルバム『BOLERO』でいこう。

日本を代表するモンスターバンド

5年前に4thアルバム『Atomic Heart』を取り上げた時もそんなようなことを書いたが、Mr.Children(以下ミスチル)は日本で最も説明の要らないバンドのひとつ。ここまでの25年間はもちろんのこと、向こう25年間もそれを約束された存在と言っても過言ではなかろう。それは過去音源のチャートリアクションを見ても明白で、シングルは1994年の5th「innocent world」から現在に至るまでの楽曲がほぼ1位を記録(2楽曲が2位)。アルバムも同様で、その『Atomic Heart』(1994年)から2020年の20th『SOUNDTRACKS』までそのほとんどが1位を獲得している(この間、2000年の9th『Q』だけが2位)。さらに特筆すべきは、いずれもプラチナ、ミリオンが当たり前で、1990年代にはダブル、ミリオンもあったし、業界全体としてフィジカルの出今も国内屈指のアーティストであることはまったく揺るぎがない。加えて、CDの総売上枚数が歴代3位という記録もあるし、日本ゴールドディスク大賞での各賞受賞を始めとした受賞歴に至っては、本当に枚挙に暇がないほどである。

“説明の要らないバンド”と言いながらまたも説明を加えてしまったのは、その偉大さを示すには客観的な数字を用いるのが分かりやすいからだ。逆に言えば、どうしてミスチルがこうした記録を残すに至っているのか? それを客観的に示すのは難しい。まぁ、頭の悪い言い方をすれば、それはその楽曲群が優秀だから…ということにはなるのだけれど、その優秀さがどんなふうに大衆に支持されているのかはなかなか説明がつかない。いや、“琴線を刺激する旋律が…”とか言うことはできるし、専門的に言えば、コード進行がどうの、サビでの転調や溜めがどうの、桜井和寿(Vo)の声の周波数がどうの…いろいろと言えば言えるのだろうが、芯を喰った答えを導き出すのは難しいと思う。

昨年、ミスチルと同世代の某アーティストがこんなことを言っていた。“昔、○○さんと“売れる法則が分かっちゃったよね”なんて会話をしたことがあるんだけど、今になってみると、アレはなんだったんだろうと思うよ。“あの法則って一体どんなだっけ?”って(苦笑)”。詳しくは言わないけれど、その某アーティストも上記の“○○さん”もそれなり…に、いや、相当に“売れた”方々であるのだが、そんな人たちにしても大衆に支持される方法は分からないのである。こちらが安易に語ることは軽々な想像でしかない。“売れる”には人智を超えた何かがあるのだろう。それこそ時代は大きく関係しているだろうし、タイアップなどのバックアップ体制もあるはずで、間違いなく“売れる法則”などは存在しない。そう考えると、上記のように記録を残し続けているミスチルのすごさが際立つと思う。よく彼らのようなバンドを“モンスターバンド”などと形容する。改めて“モンスター”という言葉の意味を調べてみると、怪物や化け物のほか、巨大なもの、圧倒的な存在感や影響力をもつ人や物、あるいは、常人ばなれした能力を持つ人物…といった場合にも用いられることを確認した。まさしく、である。

反抗的姿勢を感じるアルバム

さて、そんなミスチルの6thアルバム『BOLERO』である。筆者が聴いたのはおそらく25年前だと思うし、その時もじっくりとは聴いていなかったように思う。というか、シングル曲以外はほとんど耳馴染みがなかったから、当時は聴き流していたと言ったほうがいいかもしれない。今では考えられないほどCDが売れた時期である。すでにこの仕事に片足を突っ込んでいたので、取材用に聴かなきゃいけない音源が他に山ほどあったのだ(言い訳ですみません)。

ちなみに今回『BOLERO』でM10「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」を聴いて、当時、その歌詞にある《晩飯も社内で一人インスタントフード食べてんだ》なんてことが実際に何度もあったことを思い出したのだが、そんな前世紀の思い出話はさておき──。自らの仕事に直接関わりがなくとも、こうした音楽史に残る作品はリアルタイムで聴いておくべきだと、四半世紀を経て今さらながらに、ちょっと後悔し反省したところではある。それというのも、今回、ちゃんと『BOLERO』を聴いて、“この作品が発するメッセージを当時のリスナーはどうとらえたのだろう?”と強く感じたからだ。トリプルミリオンを達成し、1997年度年間アルバムチャート2位、歴代アルバムランキングでも14位となっている作品であるから、セールス的には大成功しているし、概ねリスナーの評価も高かったと言えるだろう。ただ──それは発表から25年後に冷静になって聴き、しかも、ミスチルがその後に発表する音源は軒並みチャート首位、レコ発ツアーはドームやスタジアムが当たり前となったことを知っているからなのだろうけど、誤解を恐れずに言えば、こんなにロックなスタンスを取ったアルバムが300万ものリスナーに受け入れられたのか興味深い。正直言えばちょっと不思議である。ロックなスタンスとは反抗的姿勢と言い換えていいし、反逆と言ってもいいかもしれない。以下、そこに絞って解説してみたい。

インストでオープニングSE的なM1「prologue」とM2「Everything (It's you)」は、とりわけロックだ何だという感じもない。M2のギターアレンジには聴くべきところはあるが、この楽曲はミドルテンポの乗せられた大らかなメロディーが中心ではあって、少なくとも反抗、反逆の影はない。問題は(?)M3「タイムマシーンに乗って」とM4「Brandnew my lover」であろう。仮タイトルが“バカ・ロック”だったというだけあって、全体にはポップなギターロックでありつつ、グラムやサイケの匂いも感じさせるM3。繊細なアルペジオにディレイがかかった感じからしてニューウェイブっぽさも感じるM4。タイプの違いこそあれ、バラエティーに富んだロックではあるのだが、それ以上に注目は歌詞だ。M3の《マスコミがあおりゃ》や《侵略の罪を 敗戦の傷を》、M4の《Kiss me…》や《Fuck する豚だ》辺りは、初期のミスチルのイメージからはかけ離れている。また、M3での《How do you feel? どうか水に流してくれ/愚かなるこのシンガーのぼやきを》といった心境の吐露と思しきフレーズもちょっと衝撃的ですらある。

続くミドルテンポのM5「【es】 〜Theme of es〜」では──これはこれでロックなサウンドではあるのだが──甘いメロディーラインで《甘えや嫉妬やズルさを/抱えながら誰もが生きてる/それでも人が好きだよ/そして あなたを愛してる》と歌っている。さらに、頭打ちの軽快なリズムで全体的にさわやかな印象のサウンドに乗せて、《恋なんて言わばエゴとエゴのシーソーゲーム Ah/いつだって君は曖昧なリアクションさ》と歌っているM6「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」は文字通り、恋の歌だ。それらと比較するまでもなく、M3とM4はエッジが効いていると言わざるを得ないし、当時、本作を聴いた人たちはこれらの歌詞をどう解釈したのかは気になるところだ。

まだ続く。M7「傘の下の君に告ぐ」とM8「ALIVE」。アナログ盤ならB面の頭にあたる、これらのナンバーもかなり興味深い。間奏ではサックスが主役を張るシャッフルビートのM7は、そのサウンドは浜田省吾や尾崎 豊の楽曲を彷彿させる上、そのヴォーカリゼーションは否応にも桑田佳祐を思い起こさせ、ミスチルの音楽が邦楽ロックの保守本流であることが分かる。《一般市民よ平凡な大衆よ/さぁコマーシャルに酔って踊ってくれ…》《数字次第でスポンサーは動き/古き良き時代を消去》《資本主義にのっとり/心をほっぽり虚栄の我が日本です》などの歌詞も先達からの影響を感じられなくもない。そうは言っても、ミスチルもそれまでCMソングや民放のドラマ主題歌をやっていたわけで、クライアントはどう捉えたのか、余計なお世話だが、考えてしまう。

M8「ALIVE」は冒頭に打ち込みのビートとシンセが聴こえてくるものの、全体のサウンドは力強く骨太で、ミスチルがバンドであることをはっきりと示されているような楽曲。そこではバンドの貫禄を感じるところだ。歌詞は、サビでは《夢はなくとも 希望はなくとも/目の前の遥かな道を/やがて何処かで 光は射すだろう/その日まで魂は燃え》などと言っていることから、基本的には前向きであることは理解できるものの、《全部おりたい 寝転んでたい/そうぼやきながら 今日が行き過ぎる》や《手を汚さず奪うんだよ 傷つけずに殴んだよ/それがうまく生きる秘訣で》といった辺りには、これもまた当時のリスナーのとらえ方が気にはなる。ミスチル流の「A Hard Day's Night」や「Eight Days a Week」が垣間見える。

残酷さ、冷酷さすら感じられる視点

M9「幸せのカテゴリー」は個人的には本作で最も問題作なのではないかと思う。歌メロはイージーリスニングにも耐え得るというか、最初期から続くこのバンドらしい良質なメロディーといった印象ではあるし、歌詞もパッと聴きでラブソングであることが分かるので、ぼんやり聴いているとそれこそ流してしまいそうだ。しかし、よくよく聴くと、これはかなり残酷な内容である。《出会った日の弾む鼓動は/日常と言う名の フリーザーの中で/とうに凍りついてる》や《恋人同士ではなくなったら/君のいいとこばかり思い出すのかな?/当分はそうだろう/でも君といるのは懲り懲り》と綴られている。ロストラブソングなどという生易しいものではなく、お相手への最後通牒と言っていいだろう。間奏のエレキギターがかなりワイルドで、歌詞での感情がそのまま音になったようでもあり、そのエモーションもロックを感じるところである。

M10「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」は、シングルとして発表された時から、その社会風刺的な内容が小林よしのり『ゴーマニズム宣言』の影響を受けていると喧伝されていたので、今回改めて聴いた時には大きな驚きはなかったけれど、少なくとも爽やか内容ではないし、4th「CROSS ROAD」(1993年)、5th「innocent world」(1994年)と来て、6th「Tomorrow never knows」(1994年)から一カ月という短いインターバルでありながらも、当時こうした内容のシングルを世に放ったミスチルの心意気に想いを馳せるところではある。

タイトルチューンであるM11「ボレロ」のザラついたサウンドと、ヴォーカルの気怠い感じも気になるところではあるものの、ストリングスが豪華に配されているところで悲壮感のようなものはあまり感じられない。《感情をむき出しにして/朝から晩まで 裸のまんまで 暮らしたい》辺りの歌詞にメンタルのへこみを垣間見られなくもないけれど、個人的にはこれもまたそこまでヘヴィなものを感じなかった。

ただ、アルバムのフィナーレに置かれたM12「Tomorrow never knows (remix)」にはグッと来たし、考えさせられた。“remix”と言っても、それはドラムが生演奏に録り直されているなどサウンド面であって、歌も歌詞もシングルとは変わっていないのだが、こうしてアルバムを通して聴いてくると、耳が行間を読むようになっていると言ったらいいだろうか。単体で聴いていた時よりも、歌詞の意味合いがより大きく感じられるようだ。改めて聴くと、以下のフレーズはなかなか衝撃的だし、残酷を通り越して冷酷さすら感じられる。

《無邪気に人を裏切れる程/何もかもを欲しがっていた/分かり合えた友の愛した女でさえも》《償うことさえできずに今日も傷みを抱き/夢中で駆け抜けるけれども まだ明日は見えず/勝利も敗北もないまま孤独なレースは続いてく》(M12「Tomorrow never knows」)。

また、M3やM4、あるいはM10の内容、言葉選びから感じられる思想性、M9で露呈された(筆者が勝手に考える)それまでのパブリックイメージとは真逆とも思えるスタンス。それらを加味すると、以下のフレーズには、単なる決意でもないし、矜持でもない。深み…と言うとあまりにも簡単だが、さまざまな感情の入り混じったものが感じられる。

《今より前に進む為には/争いを避けて通れない/そんな風にして世界は今日も回り続けている》《優しさだけじゃ生きられない/別れを選んだ人もいる/再び僕らは出会うだろう/この長い旅路のどこかで》《癒える事ない傷みなら いっそ引き連れて》《心のまま僕はゆくのさ 誰も知ることのない明日へ》(M12「Tomorrow never knows」)。

シングル「innocent world」も似たような内容だが、比較すれば、M12はそこからさらに進んだのか、あるいは深まったのか…そういう精神状態であるように思われる。

《僕は僕のままで ゆずれぬ夢を抱えて/どこまでも歩き続けて行くよ いいだろう?/mr.myself》《陽のあたる坂道を昇る その前にまた何処かで 会えるといいな/その時は笑って 虹の彼方へ放つのさ》
(シングル「innocent world」)。

ともにシングルとしては1994年に発表されているものの、M12はその3年後に本作に収められているが、それも納得といった気もする。歌詞的には収まりがいい。事程左様に決してリスナーを突き放しているわけではないのだが、かと言って、間違いなく大衆に阿っているわけでもない。ロックバンドとしての成分が強いのである。300万を超えるリスナーがこのアルバム『BOLERO』で当時何を感じたのかは、今となっては確認する術を知らないけれども、こうした作品を作ったバンドが、今もなお日本のシーンのトップであるということは、まだまだ日本のロックは廃れていないということなのかもしれない。ホント今さらながらに…だが、そう思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『BOLERO』

1997年発表作品

<収録曲>
1.prologue
2.Everything (It's you)
3.タイムマシーンに乗って
4.Brandnew my lover
5.【es】 〜Theme of es〜
6.シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜
7.傘の下の君に告ぐ
8.ALIVE
9.幸せのカテゴリー
10.everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-
11.ボレロ
12.Tomorrow never knows (remix)

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