疲労などによる事故多く…大山登山、「1分間に60歩を目安」「下山時の体力温存が重要」

遭難事故を想定した研修会で、参加者に安全な登山への説明をするインストラクターの上村さん(右手前)=伊勢原市大山

 新緑を楽しむ登山シーズンを迎え、大山(標高1252メートル)に多くの登山客が訪れている。登山は新型コロナウイルス禍で「3密」を避けられるレジャーとして人気を集め、大山も日帰り登山に最適とされるが、疲労や装備不足などによる事故も多発しており、関係者は「下山時の体力温存が重要。コースタイムに惑わされず、1分間に60歩を目安に登ることを心がけてほしい」と話している。

 山頂へのメインルートとなる登山道を管轄する伊勢原署によると、2021年の同署管内の山岳遭難発生件数は過去5年間で最も多かった20年より減少したものの36件に上り、遭難者数は41人。21年の事故原因で多くを占めたのが「疲労(熱中症や脱水症状など含む)」(14件)で、うち11件が下山中に発生している。

 今年は4月末までに11件の山岳遭難事案が発生しており、そのうち4件が下山中の「疲労」に起因。署幹部は「日帰りで登れるから大丈夫と考えないでほしい。登山には体力づくりも含めた念入りな準備が肝心。当日も体調と相談して中止することも考えて」と話す。

 4月下旬には、伊勢原市と環境や防災などの包括連携協定を結ぶアウトドア用品大手「モンベル」(大阪市)が遭難事故を想定した研修会を同市内で開催。登山ガイドや市商工観光課の担当者ら16人が参加した。

 講師を務めたインストラクターの上村博道さん(57)は、大山阿夫利神社下社から山頂を目指す高低差約600メートルの登山コースについて「地図や標識には90分とあるが初心者がその時間で登るのは難しく、下山まで体力がもたない」と指摘。上村さんによると、歩行時間の設定に統一的なルールはなく、大山などの丹沢山地は中~上級者を想定した時間設定となっている傾向があり、登山者の疲労による山岳遭難事案につながりかねないとみている。

 上村さんは、安全に登山する目安として(1)1分間に60歩のペースで進む(2)1時間で標高差300メートル上がる─の2点を挙げる。「ゆっくり登って、下山時の体力を温存させることが大切。地図に記された時間通りに進まないと焦るかもしれないが、逆に早く登る必要もない。安全に登って下りてくることが重要」と説く。

 研修会で「1分間に60歩」を体験した参加者からは、スローペースに驚きながらも「登りやすい」「体が楽に動く」といった声が聞かれた。上村さんは「今すぐ地図などの所要時間を変更するのは難しいが、自分のペースを調整することはできる。無事に下山するまでが登山なので、最後まで楽しめるよう体力を残してほしい」と呼びかけた。

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