新型宇宙船「スターライナー」に無重力インジケーターとして宇宙開発シムのキャラクターが“乗船”

【▲ スターライナーの船内に入ったNASAのボブ・ハインズ飛行士とチェル・リングリン飛行士。手前にはマネキンの「ロージー」と「ジェバダイア・カーマン」のぬいぐるみが写っている（Credit: NASA）】

日本時間2022年5月21日、ボーイングの新型宇宙船「CST-100 Starliner（スターライナー）」が国際宇宙ステーション（ISS）へのドッキングに成功しました。今回のミッション「OFT-2（Orbital Flight Test 2）」はスターライナーによる2回目の無人軌道飛行で、打ち上げからISSへのドッキングを経て地球に帰還するまでの実証試験を目的としています。

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今回打ち上げられたスターライナーは無人ですが、飛行中の状態を計測するために、15個のセンサーを備えたボーイングのマネキン「Rosie the Rocketeer（ロージー・ザ・ロケッティア、ロケット技師のロージー）」がコマンダーの座席に搭載されています。しかし、ドッキング翌日の日本時間5月22日にスターライナーのハッチを開いた宇宙飛行士たちは、スターライナーに乗船していた“もう1人のクルー”の姿を目にすることになったようです。

【▲ スターライナーのコマンダー席に据え付けられたマネキン「ロージー」（Credit: Boeing）】

ボーイングは5月22日、宇宙開発シミュレーションゲーム「Kerbal Space Program（カーバル・スペース・プログラム、以下KSP）」のキャラクター「Jebediah Kerman（ジェバダイア・カーマン、愛称Jeb）」のぬいぐるみが、OFT-2のスターライナーに「無重力インジケーター」として搭載されていたことを明らかにしました。

無重力インジケーター（ゼロGインジケーター）とは、無重力状態になったことを視覚的に示すために宇宙船へ積み込まれるマスコットのことです。2019年12月のスターライナー初飛行では、スヌーピーのぬいぐるみが搭載されていました。今回搭載されたジェブのぬいぐるみは、アメリカ航空宇宙局（NASA）によるハッチ開放のライブ配信でも「co-pilot（コ・パイロット、副操縦士）」として紹介されています。

【▲ NASAのライブ配信でジェバダイア・カーマンが紹介された場面】
（Credit: NASA）

KSPは「Kerbal（カーバル）」と呼ばれるキャラクターが住む地球によく似た架空の惑星「Kerbin（カービン）」を舞台に、宇宙開発や天体探査などが行えるシミュレーションゲームです。KSPではカーバルたちを宇宙飛行士として雇用できますが、ジェブはプレイ開始当初から配属されている4人の宇宙飛行士の1人。同作のプレイヤーにとってはおなじみのキャラクターです。

【▲ ESAのロゴがあしらわれたスーツを着たKSPのキャラクターたち。左から2人目がジェバダイア・カーマン（Credit: Squad/Private Division）】

KSPはこれまでにもNASAや欧州宇宙機関（ESA）とコラボレーションしており、ESAと宇宙航空研究開発機構（JAXA）の水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」を再現したシナリオモードが実装されている他に、アポロ計画のように歴史的なミッションのロケットや宇宙船を再現できるパーツが追加されるダウンロードコンテンツも配信されています。NASAやESAで働くエンジニアや科学者にとって、同作はおなじみのゲームだといいます。

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スターライナーのエンジニアにもKSPのファンが多いようです。海外メディアのcollectSPACEによると、エンジニアリングチームの多くが抱くゲームへの熱意と、ゲームがプレイヤーにもたらすSTEM（※）分野の教育効果を表現するために、OFT-2ではカーバルが無重力インジケーターに選ばれました。搭載されたジェブのぬいぐるみはKSPのパブリッシャーであるPrivate Divisionが販売している公式グッズ（高さ23cm）で、同社から提供を受けたということです。

※…Science（科学）、Technology（技術）、Engineering（工学）、Math（数学）の4分野を指す言葉

【▲ ISSに滞在中のセルゲイ・コルサコフ飛行士が撮影したジェブのぬいぐるみ。コルサコフ飛行士のツイートより】

筆者もKSPのいちファンですが、ジェブのぬいぐるみが積み込まれていたことに驚くと同時に、実際に宇宙開発に携わる人々からも同作が評価され、愛されていることを改めて感じました。なお、スターライナーは5月25日にISSとのドッキングを解除し、米国ニューメキシコ州のホワイトサンズミサイル試験場へ着陸する予定です。

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文／松村武宏