【レポート】映画「リトル・ガール」で考える、トランスジェンダーの子どもとその家族が直面する問題。

ーー「知ってもらう機会を増やす」、映画上映会が開催。

「世の中の当たり前に違和感を問いかける」をコンセプトにした雑誌『IWAKAN』が、最新号にてメインインタビューをおこなった、セバスチャン・リフシッツ監督最新作『リトル・ガール』の無料上映会を5月31日(火)、東京都写真美術館にて開催した。

『リトル・ガール』は、男性の身体で生まれたが2歳を過ぎた頃から自身の性別違和を訴え続けている7歳のサシャと、学校の教師たちや周囲の人々からなかなか女子であることを認めてもらえず疎外されるサシャを守り、周囲に受け入れてもらうために奮闘する家族の姿を追ったドキュメンタリー作品。

本作品の劇場での一般上映は、昨年11月から全国各地でおこなわれ現在では上映終了しているが、無料上映をすることで、より多くの方に本作を通じてトランスジェンダーの子どもや家族を取り巻く現状について知って考えてもらえる機会となれば……という『IWAKAN』編集部の想いによって開催された。
その想いに呼応するかのように、SNSを中心に事前予約を募ったところ反響は大きく、先着の150席はすぐに埋まったとのこと。

世界的にLGBTQの可視化は進み、人権は徐々に認められはじめているように思われがちだが、本作品を観ていると、多様性を受容できないステレオタイプの大人たちによる差別になす術もない子ども、そして「私が悪いのでは」と自分を責めて苦しむ母親の姿は、今も尚どこの国でも共通なのだなと日本の当事者として実感し暗澹たる気持ちにさせられた。
しかし、小児精神科医など医療のプロや家族のサポートによって、我が子がありのままでいられるよう闘う決意をする母親の成長ぶりと、ワンピースを着てはしゃぐサシャの笑顔に励まされるような作品だった。

ーー幼少期のトランス・アイデンティティの課題を考える。

上映後には、アフタートークショーも開催。
女性医療クリニック『LUNAネクストステージ』でトランスジェンダー外来を担当する、産婦人科専門医の池袋真さんと、モデレーターとしてフリーランス編集者・フォトグラファーの中里虎鉄さんが出席し、幼少期のトランス・アイデンティティの課題などについて話した。

池袋さんの元にも10代のトランスジェンダー当事者による受診が多いとして、「学校の制服、トイレが男女で分けられていることについて悩んでいたり、修学旅行もお風呂のことがイヤで休んでしまう子たちもいます。誰かに相談しようにもアウティングを恐れて誰にも自分のことを打ち明けられず、学校生活が苦痛で登校拒否になるケースもあります」と近年の日本でもトランスジェンダーの子どもたちの学校生活がスムーズにいかない実情を話してくれた。

そして、「時には、学校側へ意見書を書いて送ることもあります」と精神科医とタッグを組み、『リトル・ガール』の中でもあったような医療側からのアプローチを実際におこなうこともあるという。

だが、専門の医師の元へたどり着けない当事者も多くいるのも事実。
「日本には現在、専門の認定医が全国で30人とちょっとしかいない。そんな医師がいることも知らず、近所にたまたまあったコミュニティセンターにまず相談しに行く人がほとんどです。そこから紹介してもらえた人だけが認定医とアクセスできているのが現状です」と課題点を取り上げた。

また、『リトル・ガール』の中でも触れられていた“第二次性徴を止めて、本人に判断させるための猶予をもたせる治療”についても、
「今の日本では、この治療開始のためには2年以上のカウンセリングが必要なため、医療アクセス困難な子どもたちにとって、第二次性徴が始まる前に抑制することが難しい現状があります。しかもその治療は自費なので高額なのです」と日本においてはトランスジェンダーが医療に救いを求めるにもハードルが高いことを示唆した。

後半は来場者との質疑応答の時間もあり、教育現場で働く方から「実際にどんな先生がいたらいいと思いますか?」と質問されると、ノンバイナリーを自認する中里さんは、「普段からジェンダーやセクシュアリティ、人種などの多様さについてフラットに話せる人ですね。そういう人になら、自分のことを話せるなって自然と思えたと思う」と当事者視点で答えた。

また、池袋さんは自分が意識していることを挙げて、「何事も決めつけないように、オープンクエスチョンで訊くようにしています。あなたのことは、どんなセクシュアリティで表現すればいい? といったように。あとは、子どもたちが自分のことを話してくれた時に、ありのままを受け止めることが大事。話してくれてありがとうって返すのが良いのでは」と具体的な提案をし、質問者も納得した様子だった。

この短い時間のトークショーでもトランスジェンダーが抱える問題はまだまだ山積みであることが浮き彫りとなったが、『IWAKAN』編集部が願ったように、被当事者にも現状を知ってもらい考えてもらうきっかけとなったのではないだろうか。

映画『リトル・ガール』あらすじ/男性の身体に生まれたサシャは2歳を過ぎた頃から自身の性別の違和感を訴えてきた。しかし、学校では女の子としての登録が認められず、男子からも女子からも疎外され、バレエ教室では男の子の衣装を着せられてしまう。他の子どもと同じように扱えってもらえない社会の中で、サシャは7歳になってもありのままに生きることができずにいた。そんなサシャの個性を支え、周囲に受け入れさせるため、家族が学校や周囲へ働きかけるが……。

■IWAKAN
違和感には答えがない。でも、私が感じている違和感を誰かと話したい。そんな世の中の当たり前に”違和感”を感じるすべての人たちと共に考え、新たな当たり前を共に創造し提案していくマガジン。
https://iwakanmagazine.com/

取材/アロム
取材協力・写真提供/REING(株式会社ニューピース)
記事制作/newTOKYO

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