40周年!河合奈保子「夏のヒロイン」アイドル集大成のキラキラソング  リリース40周年! 色褪せない河合奈保子のハツラツとしたアイドルソング

“嬉しくて楽しくて仕方ない夏” 感満載! 河合奈保子「夏のヒロイン」

奈保子、初めてのサンバでウキウキ、ワクワク!
―― これは月刊明星の付録の歌本「YOUNG SONG」(以下、ヤンソン)に「夏のヒロイン」が初めて掲載されたときに書かれていたフレーズである。

前年(1981年)の夏にリリースした「スマイル・フォー・ミー」は初のオリコンTOP10入りを果たし、その年一番のヒット曲となった。それまでの奈保子のシングル曲は比較的マイナー調のものが多かったこともあり、“この夏も明るい曲調の作品を出せば、奈保子のキャラクターと相まってヒットするはずだ!”…と、評論家でもないくせに、当時高校1年生だった奈保子ファンの私はそう思っていた。

そんなところにリリースされたのが「夏のヒロイン」である。

前作「愛をください」のシリアスなムードとは違い、サンバ調のリズムに乗ってハツラツと歌う奈保子。派手なブラスアンサンブルに、夏の暑さを感じさせるように響く芳野藤丸のギター、勢いのあるコーラス(レコードではEVEが担当)との掛け合いなど、楽しい構成になっている。

ただ冷静に歌詞を読むと、なかなかに笑えたりもするのだ。

 青い渚 急に駆け出しながら
 突然言うのね 君が好きだなんて

 夢じゃないのね 本当ね
 ときめいて トロピカル フィーリング

 夏のヒロインに
 (チャンス チャンス…きっとなれる)
 熱いその胸で
 (チャンス チャンス…きっとなれる)
 光の中の恋人 誘惑してね

海で急に駆け出しながら突然「君が好きだ」と言う彼がまずスゴい。そして「好きだ」と告白されて、嬉しいからっていきなり「夏のヒロインにきっとなれる!」って大はしゃぎする彼女もスゴい(笑)。しかし奈保子が歌うと、そんなぶっ飛んだシチュエーションでさえ愛おしく感じられる。そして、「ときめいてトロピカルフィーリング」って一体どんなフィーリングなのかわからないけど、「嬉しくて楽しくて仕方ない夏なのは確かに間違いないよな」と思わせる強さがこの曲にはある。

近田春夫の「夏のヒロイン」評… そしてその結果は?

近田春夫氏が前出の「ヤンソン」でこの曲を批評しているのだが、

「よくできた作品で、お金を払う価値のある仕上がり」

… としながらも、

「全部実感のない言葉のられつ、それを本気で歌える奈保子のすごさ」

… と、褒めているんだか貶してるんだかわからないような感想を述べている。しかし、

「キラキラとハデに目立つ曲です。大いに売れるんじゃないですか?」

… と近田氏が書いたとおり、「夏のヒロイン」は1982年にリリースされた奈保子のシングル曲の中で一番の売上となり(次点は僅差で「けんかをやめて」)、『ザ・ベストテン』でも初のTOP3入りを果たす。

また、この年の夏、東北新幹線が開業したのだが、年末の10大ニュースを取り上げるテレビ番組で、バックの音楽に「夏のヒロイン」が使われていて、それだけ世間的にも印象の強い曲だったんだなぁ、と思ったものである。

作曲は馬飼野康二、河合奈保子のアイドル集大成的シングル

ところでこの曲を初めて聴いたとき、ある曲を思い出した。それは岩崎宏美が1979年にリリースした「夏に抱かれて」だ。

この曲もサンバ調の明るくハツラツとした曲で、彼とヴァカンスに海に行って、嵐の夜に結ばれて、今年の夏は忘れない… めでたしめでたし… という内容なのであるが、サビで「♪海小屋~!! 借りたの~!!」と超ハイテンションに歌うところがあり、「そ、そんなに海小屋を借りたことがうれしかったのか?」というような、なんとも言えないテンションの高さが似ているなぁ、と感じたのである。

作詞家は違うが(「夏に抱かれて」は山上路夫、「夏のヒロイン」は竜真知子)、作曲はどちらも馬飼野康二氏によるものなので、「次の奈保子の新曲は宏美の「夏に抱かれて」みたいな曲でヨロシク!」みたいなオーダーがあったのではないかと勝手に想像している。当時は同じ芸能事務所だったし(笑)。

このコラムを書くにあたり、「夏のヒロイン」を歌っている映像をいくつか見返したのだが、テンポの早い曲にもかかわらず、とても伸びやかでしっかりとした歌声に改めて感動した。そして、1982年の『紅白歌合戦』でこの曲を披露したとき、司会の黒柳徹子が「奈保子さんの笑い顔は宝石みたい」と言ったとおり、奈保子の笑顔とかわいらしさが弾けまくっている。リリースから40年経ってもそれは全く色褪せない。

他にもサビ前に「1、2、3、ハイ!」と客席に向けて合図したり、歌い終わりに「イェイッ!」と叫んだり、当時奈保子ファンはテレビの前で何度もノックダウンされていたに違いない。そう、私のように(笑)。

しかし、この次に「けんかをやめて」をリリースし、大人びて少しずつアーティスティックな方向に進んでいったことにより、このようなハツラツとしたアイドルソングはシングルでは歌わなくなった。そういう意味では、この「夏のヒロイン」は奈保子にとってアイドル集大成ともいえる、大変貴重な作品だったのではないだろうか。

カタリベ: 不自然なししゃも

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