火星の斜面に現れた何本もの黒い筋。NASA探査機「MRO」が撮影

【▲ 火星・アケロン谷の斜面に現れたスロープ・ストリーク(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】

こちらは、火星・オリンポス山の山頂から北に約1000kmの場所にある「アケロン谷」(Acheron Fossae、アケロン地溝帯)の斜面を火星の周回軌道から捉えた画像です。黒いインクを流したような筋が何本も写っていますが、これは「スロープ・ストリーク」(slope streak)や「ダーク・スロープ・ストリーク」(dark slope streak)と呼ばれている特徴です。

スロープ・ストリークは、火星表面のダスト(塵)が雪崩のように斜面を流れ下る「ダストなだれ」(dust avalanche)によって形成されると考えられています。アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)によると、数時間続くダストなだれは斜面を1km以上流れ下ることもあるといいます。ダストなだれによって表面からダストが失われた結果、下にある暗い地面が露出しているため、スロープ・ストリークは黒っぽく見えています。ダストが再び降り積もることで、暗い地面は数十年かけて覆い隠されていきます。

印象的なスロープ・ストリークを描き出すダストなだれは、二酸化炭素の霜(ドライアイス)によって引き起こされているようです。JPLのSylvain Piqueuxさんが主導した研究チームによれば、夜間に火星表面の細かなダストと混ざり合うように形成された二酸化炭素の霜は、朝日に温められると昇華して風を発生させます。この風がダストを動かし、ダストなだれを発生・維持している可能性があるといいます。

冒頭の画像はアリゾナ大学の月惑星研究所(LPL)が2007年2月7日に公開したもので、Piqueuxさんたちの研究成果と合わせてJPLが2022年5月5日付で改めて紹介しています。元になった画像はNASAの火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」(MRO:Mars Reconnaissance Orbiter)に搭載されている高解像度撮像装置「HiRISE」を使って、2006年12月3日に高度約290kmの火星周回軌道から取得されました。

関連:火星のクレーター斜面に降りた二酸化炭素の霜。NASA火星探査機が撮影

Source

  • Image Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
  • NASA/JPL \- Science at Sunrise: Solving the Mystery of Frost Hiding on Mars
  • LPL \- Slope Streaks in Acheron Fossae

文/松村武宏

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