広報室奮闘記 ~ある製造メーカーでの出来事~ Vol.2

日本の企業は、欧米に比べ、営業部門や製造部門ほど、広報部門を重要視しない時代が長く続いていました。ある時期までは、広報室は企業のゴミ捨て場と言われていたそうです。特に、日本経済を支えてきた製造業においては、かつては「良いものを作れば売れる」という概念が強く根付いており、その良さをどう伝えるのか、誰に訴求するのかといった手段に対する興味が薄く、その風潮は令和時代となった現在であっても、根強く残っていました。しかし、DX時代に突入した現在、ビジネスは共創により成り立つようになり、広報視点で社内のみならず、社外(社会)への情報発信が必要不可欠となりました。本コラムを通して、製造業における広報の在り方、有効な活用手段を1人称で伝えていきたい、そんな記事の掲載を目指しています。

Vol.2 社長交代 取材対応

ニュースサイトを見て唖然とする

広報室勤務もだいぶ慣れ、季節も変わったある日の午後、最近は新しいニュースリリースの発信もないので、少し呑気に休憩がてら、何気なくニュースサイトをチェック。それも広報の仕事のひとつだからです!競合企業の情報が出ていないか、自動車産業と密接な半導体、原油価格、等の周辺情報もチェックして、社内にフィードバックするのも広報の重要な仕事なのである。・・・というような具合にニュースサイトを見ていると、「●●モーター社長交代」の文字が目に入ってきた。「え?『●●モーター』って、うちの会社!? 社長交代ってどういうこと?」。・・・そうなのです。広報室勤務の私は、自社の社長交代ニュースを何気にみていたニュースサイトで知ることになったである。

初めての社長交代劇に突入

まずは、真相を確認しないといけないので、広報部長を捕まえることにした。しかし、広報室の電話は、社内の従業員、社外の取引先、そしてメディアからひっきりなしにかかってくるのである。その対応をしなければならず、社長室から出てくる広報部長に会えたのは、第1報からの1時間後となった。そこで分かったことは、社長が交代すること、そして、本来来月発表予定の社長交代の情報が大手経済新聞によってすっぱ抜かれたことである。部長が作成したQAが渡され、そのQAの内容に基づき、私たち広報室のスタッフは、記者からの質問に回答することになった。その日は、電話対応に追われ、勤務を終えて会社をでることができたのは22時を回っていた。明日は、朝から新聞チェックをするため、早朝出勤。その後、1週間は本件でとても慌ただしく過ごしていた。

新社長の就任

自動車業界の中でも、日本を代表する大手自動車メーカーの系列であり、企業規模としては、中堅企業に属するわが社●●モーターの社長は、3年に1回くらいの割合で、系列会社からやってくる。いわゆる“天下り先”というか“偉い人の受皿”のような会社で、まだ、プロパー社員が役員になったという実績はなく、ほとんどが、この系列会社から役員を迎えている。なので、プロパー社員から部長職への就任があると、少し話題になるのである。つまり、プロパー社員にとっては、かなり、限られた人しか就くことができないポジションであり、また、わが社のプロパー社員にとっては部長が最上位なのが実態だ。最近は部長になれないと分かった50代社員に早期退職も増え、見切りをつけて転職する30代~40代も増加傾向にある。一方で、このような組織に対し、疑問をもたずに定年を迎える従業員も多い。そういった環境なので、社長交代は珍しくなく、時期が来れば、社内では「そろそろかな」というような雰囲気になり、水面下で発表や新体制の準備がなされていた。企業規模からすれば、社長の交代をニュースで知るというのはそう珍しくないことだと思うが、広報室勤務となった今は、せめて広報室のメンバーにだけでも事前に共有してくれてもいいのではないか、外部に漏れている時点で、失敗だったのではないかという疑問でいっぱいになった。そして、新社長はやってきた。

初のインタビュー対応

広報室では、新社長が就任される前から、新社長のインパクトを最大化するため、会見を準備していた。会見をするといっても様々な準備があるもので、事前にQAを用意し、新たな事業計画や方針を資料にまとめ、当然、好感度が高くなるようなあいさつ文案も用意した。そして、新社長の就任会見にふさわしいネクタイまで揃えていた。また、事前に記者に案内状を発信し、記者クラブ内での会見を予定していた。しかし、新社長の意向でこの会見は突如中止になったのである。その理由は、「系列の会社(就任前の会社)より、目立つことはしたくない」ということからであった。理解できるような理由ではあるが、残業を重ね準備をした身としては納得できる理由ではなかった。そのため、急きょ、就任会見から取材に変更し、業界紙のインタビューを受けることになった。業界紙に絞ったのは、この業界を理解していることから、困る質問をしてこないであろうという理由からであった。案の定、当たり障りのない想定していた質問に対応し、インタビューは終了した。インタビューの対応が初めてだった私でも、あまり、緊張することもなく、そつなく対応できた取材であったが、どこか、こんなものなのか?という疑問は残っている。そして、エレベータホールで社長と別れ、私は、玄関まで記者を見送った。●●社長は、保守的だから、広報室も暇になるね。」と別れざまに言われたが、その時にはその意味が分からなかった。

      

今日の教訓②

保守的な社長は、広報活動に非協力的


(製造DXチャンネル 2022年6月1日掲載)

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