【富士薬品】“会員制”相談応需サービス開始の背景 /デジタル化が浮かび上がらせた“人の強み”

【2022.06.17配信】ドラッグストア「セイムス」などを展開する富士薬品グループ(本社:埼玉県さいたま市、代表取締役社長:高柳 昌幸氏)は4月4日から、会員制で相談に応じる「ヘルスケア会員制度」を開始した。取り組みの背景や現状、今後の展望などについて、同社ドラッグストア事業本部人材開発部次長の猿谷吉宏氏に聞いた。猿谷氏は顧客台帳のデジタル化によって、カウンセリング強化のコストに見合う収益が上げられることが分析できるようになったと語った。

相談のコストに見合う収益があることがデジタル化で分かった

――制度を始めた経緯と目的を教えてください。

猿谷 10 年以上前からビューティーケアの方では紙ベースの顧客台帳を導入していましたが、その電子化とともにビューティーケアカウンセラー会員制度を去年スタートしました。それが軌道に乗ってきたので、ヘルスケアも同じように会員制度化してやっていこうということが「ヘルスケアカウンセラー制度」の開始の発端です。

ビューティーケアとの違いとしては、化粧品は定期的にご購入いただける傾向にあり、メーカーさんの支援も厚いのですが、ヘルスケアは商品カテゴリーが広く、また医薬品となると、購入のタイミングというのは定期的なものばかりではありません。ですから、ヘルスケアを医薬品だけで捉えるのではなく「セイムスファン」づくりの1つのきっかけとなるような位置づけで、力を入れていきた
いと考えています。

――経営で見たときにセルフ販売が一番利益率がいいというイメージがあるのですが、カウンセリングの労力、端的にいうと人件費上昇に対しての収益をどのように考えていますか。

猿谷 カウンセリングに対するコストは当然あると思っています。「登録販売者」の資格を取得させ、さらにヘルスケアの専門家として教育する手間もかかります。これらのコストも考えた上で、この制度が導入できると判断できたので開始しました。まずは社内の専門家育成制度の評価でランクの高いスタッフを中心に開始しています。

電子台帳へとデジタル化したことで、コストに見合った収益の予想がはっきり分析できるようになってきました。今までは会員になったお客さまの“ファン度”がどう販売につながるか、感覚的にはわかっても立証しづらかった面もあったと思います。それがデータでみると、「やっぱり会員になる前となった後で全然違う」ということが分かったのです。お客さまによっては、セイムスにある商
品カテゴリーはほとんどセイムスで買っていかれるという方もいらっしゃいます。

紙ベースだとこういう分析が全くできないので、いわゆる経営的にみた収益性はどうなんだという問いに全く答えられなかったというのがこれまでだと思
います。
医薬品、あるいは病気に関する相談へのニーズに関しては、当社が事前に実施したアンケート調査でも顕在化しました。「相談場所がない」というお声がお客さまの中にあったのです。さきほど、「セルフ販売」とおっしゃったのですが、まさにお客さまの中にも「ドラッグストアはセルフ販売である」というイメージは少なからずあるのだと思います。「こういう制度があると、別に病気じゃなくても、また購入が目的でなくても、例えば、こういう薬を持っているんだけど、とか、そういったことを話しやすくなるね」というご意見をいくつもいただきました。

当社としても「そもそもヘルスケアの専門家、ヘルスケアカウンセラーの存在意義はなんだ」という調査から始めたのです。

もっと言いますと、「セイムスに行って日常的な相談しよう」と思っていただけるのが理想でもあります。

声かけで半分ぐらいの顧客が登録

――どのように会員登録の案内をしていますか。貴社には会員カードの「セイムスカード」がすでにありますが、そこに重ねてヘルスケアカウンセラー制度に登録する意義をお客さまはどう受け止めているのでしょうか。

猿谷 当社には「虎の巻」と呼んでいる接客問答集があるのですが、一番のポイントは未病・予防に貢献できるというのがヘルスケアカウンセラーですので、そういった心配事がありましたらいつでもご相談くださいね、というお声掛けをしています。それで半分ぐらいは登録していただけているようですね。相談先がなくて困ってる人もそれなりの数いるんだろうなと思っています。特に午前
中は高齢の方のご来店も多く、ニーズは高いと思っております。

――今後の展望を教えてください。

猿谷 まずは、さきほど申し上げた社内の専門家制度のランクが高いスタッフを中心に 143 店舗で開始しましたが、ゆくゆくは全店舗で対応できるようにしていきたいと思っています。

――今後、EC やアプリの活用、あるいは調剤との連携の構想はありますか。

猿谷 もちろんございます。今年度中にはセイムスアプリとの連携を計画しています。アプリの会員の方には専用の告知が届きます。

調剤との連携に関しては現在、検討の最中です。相談の中に飲み合わせの問題は出てくると思いますので、何かしらの連携は必要になってくると考えています。将来的に顧客データは一元化されておくべきだと思っています。

――社内スタッフに対しては、この制度をどのように伝えていますか。あるいは、どのようにスタッフのモチベーションを向上していますか。

猿谷 当然コストがかかることですから、コストをかけてでもやる意味があるんですよということを伝えています。ある意味、専門家の存在が認知されることにもつながると思います。「登録販売者」という資格の名称が医薬品や健康につながるということが分かりづらいというお声をお客さまからいただくことがあります。ですが、「ヘルスケアカウンセラー」という名称は分かりやすいので、
そこから認知を高めていければと思っています。

モチベーションに関しては、当社は以前からスキルと実績に応じて昇格するようになっています。必須研修の受講の有無など、いくつか項目を作って毎年昇格試験を実施しています。専門家ランクという評価と、それと連動した給与体系がモチベーションにつながると思っています。

そのほかにも販売スキルと競う年間のコンクールや、個人販売実績に対する表彰もあります。

――分かりました。ありがとうございます。

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