お笑いジャーナリスト・たかまつななさん 主役は若者、もっと本音で語りたい

出前授業で高校生の意見を聞くたかまつななさん(左)=群馬県渋川市の県立渋川高校

 バブル崩壊後の「失われた30年」に育ち、リーマンショックや東日本大震災の混迷を目の当たりにしてきたZ世代。成熟したインターネット社会でスマホを使いこなしてSNSで情報発信する「デジタルネーティブ」でもある。参院選公示まで2日。新しい価値観に生きる彼らは、いまの政治をどうみているのか。社会課題に敏感な若いアクティビストや、Z世代に近い28~33歳の若手政治家らにも密着し、昨秋の衆院選に続いてZ世代に迫ります。

 「お年玉、100万円あげるよ」

 「えー?! こんなにもらっていいの?」

 「なあに、節税対策じゃよ」

 参院選公示日まで1週間を切った16日。群馬県のある県立高校が、3年生約200人の笑いに包まれていた。同県がZ世代の政治参加を促すため、横浜市出身のお笑いジャーナリスト、たかまつななさん(28)らを講師に招き、県内の全79高校で展開する主権者教育授業の一コマだ。

 政治家は投票率が高い高齢者に響く政策を選ぶ。国家予算が教育分野に配分するのは全体の5%─。そんな説明に、驚きの声があがる。「若者の投票率が1%下がると7万8千円損をするという試算もある。ぜひ権利を行使して欲しい」と授業は締めくくられた。

 同県の狙いは政治の固いイメージを、笑いを通して柔らかくしてもらうZ世代の意識改革。授業後、斎藤諒さん(17)は「政治に関心はなかったけど、笑いを通せば身近なものになりそう」とほほ笑んだ。

 たかまつさんが主権者教育に関わり始めたのは、フェリス女学院中高校(横浜市中区)を卒業し、慶大大学院1年だった2016年に18歳選挙権が導入されたときだ。「初めて『若者が主役になった』と感じて、その流れをもっと加速させたいと思いました」

 一方で、取り寄せてみた高校生向けの教材の物足りなさも感じた。ちょうど“お嬢様芸人”として認知され始めた頃だった。「70年ぶりの制度改正。次の70年を待っていたら私も90歳を越えてしまう。それなら自分がやろう」と、笑下村(しょうかそん)塾を設立し社長に就いた。

 卒業後にNHKに入局したが、約2年で退職した。兼業が認められず笑下村塾の活動はボランティアで続けていたが限界があった。「若者と政治をつなぐ根幹の主権者教育の活動にはお金が必要。スウェーデンは国が若者団体に補助する仕組みがあるけど、日本にはない。大学生が団体を立ち上げても、お金がなく卒業とともに撤退するのが現状で、この会社が続いているのは奇跡なんです」

 群馬県での取り組みは、たかまつさんのユーチューブを見た山本一太知事から「なんでも中位の群馬を変えてほしい」と直接オファーを受けて始まった。

 群馬での先進的な取り組みは専門家による効果検証も行われ、「実践事例集にとどまりがち」な日本の主権者教育に大きな一石を投じている。しかし、政治を語ることへの忌避感や中立といった乗り越えなければならない壁も多い。

 「教育基本法には政治的中立を保たなければならないとあって、罰則規定もある。文科省も政治的中立を気にしすぎているから、先生もリスクを冒そうとはなりません」。神奈川でもつい先日、菅義偉前首相を招いて県立高校で企画されていた講演会に抗議が殺到して中止になったばかりだ。

 たかまつさんは、シルバー民主主義を解消し、Z世代の投票率上昇につながる策として、平均寿命から投票人の年齢を差し引いた分をポイント化する『余命投票制度』も提案する。1人1票の原則を変える大胆なアイデアだ。

 「平均寿命が100歳だとしたら、20歳は80ポイントで90歳は10ポイント分投票できる。政治家は若者に向けて話さないといけなくなりますよね」

 若者に当事者意識を持ってもらうため、被選挙権年齢の引き下げも唱える。

 「成人年齢や選挙権が18歳なのに、被選挙権が25歳や30歳なのはおかしい。若者の声を代弁する当事者が必要」と力を込める。出前授業を通じて高校生との感覚の違いを痛感するからだ。「10歳離れてもだいぶ違うのに、50代の大人に若者の声を代弁できるだろうか」。各党が35歳以下を2~3割立候補させ、できないなら政党助成金をカットする─といった夢想する案を授業で語ることはない。

 「私も憲法など具体的な政治問題を扱いたいけど、できない。架空の政策について議論することは、決して本望ではないんですよね」。政治の本質を語りたくても高い壁に阻まれる。Z世代に向けて本音で話したいことはまだまだある。

◆たかまつなな お笑いジャーナリスト。小学校4年生の時、環境問題から政治に興味を持つ。お笑い芸人やNHK勤務を経て、時事ユーチューバーとして、政治家との対談などを配信中。横浜市出身。28歳。

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