DAIGO☆STARDUST『The space toy』にあふれるロック愛!DAI語的に言えば“DYH=DAIGO、やっぱり半端ない”

『The space toy』('03)/DAIGO☆STARDUST

BREAKERZのデビュー15周年記念アルバム『BREAKERZ BEST -SINGLEZ-』が6月15日に発売となった。今週はそのBREAKERZの音源でも良かったのだが、いい機会だし、バンドの中心人物であるDAIGOのキャリアを振り返ってみたい。彼がデビュー時、DAIGO☆STARDUSTと名乗っていたことを知っている人はどれほどいるだろう? ファンでなければ“何それ?”という感じではなかろうか。『The space toy』はDAIGO☆STARDUST名義で発表された、DAIGOのメジャーデビュー作品。セールス的には芳しくなかったようだが、そこには彼らしいスピリッツがしっかりと宿っていた。

マルチに活躍する稀代のアーティスト

“天は二物を与えず”などと言うけれど、二物どころか、三物も四物も天から授かっている人物が世の中にはいる。結構いる。これまでの人生、ちょくちょく出会ってきたようにも思う。その都度、天というのは案外不公平なものなのだなと思ってきたのだが、一物も授かってないこちらとしては、もはや達観するようにもなってきた。それが天なのだ。で、その“天は二物を与えず”が当てはまらない人物。いろいろと思い浮かぶが、DAIGOその最たる人物と言えるだろう。まず、家柄。祖父が第74代内閣総理大臣の竹下 登であるというのは有名な彼の出自である。“政治家の家系がどうした!?”と突っ込まれそうな話だし、自分もおじいちゃんが首相経験者だからといってその孫が何か大きな権力を持つとまでは思わないけれど、家柄というのは決して無視できない。それによって生じる社会的信用は間違いなく大きなものだ。これが一物。

続いては、そのルックスである。見た目のことを指摘すると、ルッキズムだなんだと言われる昨今ではあるが、178センチのスラッとした長身。そのフェイスはキリっと決めれば映えるし、そうじゃない時は柔和な印象で笑顔も爽やかだ。これは明らかにアドバンテージであろう。若手アイドルほどにはコケティッシュではないかもしれないけれど、現在、40代半ばの彼の齢を思えば、十分すぎるほどに好感の持てる見た目だと思う。“理想のパパ”ランキングで上位に選ばれるのもよく分かる。これも一物である。

本業の芸能、エンタメの分野でもDAIGOは幾らか物を持っている。弁が立つし、キャラクターも立っている。よって、テレビタレントとして重宝され続けている。とりわけMCで起用されることも多く、目立つところで言うと、『みんなのKEIBA』、『ZIP!』、『DAIGOも台所〜きょうの献立何にする?〜』辺り。それぞれ“関東競馬中継の顔”、“木曜朝の顔”、“新しい料理番組の顔”といった具合にそれぞれに“顔”と なっているのは、その才能の成せる業であろう。レギュラー番組はこれだけに留まらないし、ドラマや映画、舞台への出演もある。『DAIGOも台所』以外の冠番組も少なくない。テレビCMへの出演も多いことも言うまでもなかろう。ここ15年間のテレビタレントとしての存在感は圧倒的と言っていい。これも一物。いや、二物、三物とカウントしていいかもしれない。

そして、音楽活動である。タレントとしてのDAIGOがあまりにも目立つため、知らない人がいるかもしれないので、念のために記すと、もともと彼は音楽畑から出てきた。タレントがのちに音楽活動を始めたのではなく、インディーズで活躍していたバンドのヴォーカリストが、そのバンド解散後、ソロに転向。そして、メジャーデビュー。その後、バンド、BREAKERZの結成に至っている。タレントとしての知名度を上げたのはその頃。そこから再度ソロ活動も展開という流れだ。BREAKERZは1stシングル「SUMMER PARTY/LAST EMOTION」(2008年)からチャートトップ10入り。アルバムでは5th『GO』(2011年)が4位にランクインした。DAIGO名義のソロ作品では、1stシングル「いつも抱きしめて/無限∞REBIRTH」(2013年)が8位、1stアルバム『DAIGOLD』(2014年)が6位を記録しており、申し分のない成功を収めていると言っていいだろう。その上で別ユニットにも参加している他、他者への楽曲提供も行っている。この音楽活動においても彼は一物も二物も授かっていると言える。最低でも全部で六物くらいとなろう。

しかも…だ。DAIGOは、[『女性が選ぶ「なりたい顔」ランキング』で、2010年、2013年、2014年、2015年、2019年、2020年と6度に渡り首位を獲得している]女優さんを伴侶に迎え、お子さんをもうけている。もはや、天に愛されている男と言っても過言ではなかろう。(マジなところ、婚姻は生まれつき決まっているものではないので、天が与えた一物でも何でもないけどね)。([]はWikipediaからの引用)

J-ROCKのひとつの側面、 ビートロックの王道

こうして見てみると、もはや大成功者のDAIGOであるけれど、彼とて最初から順風満帆というわけでなかった。DAIGO がBREAKERZ を結成する前、DAIGO☆STARDUSTという芸名だったメジャー初期の頃がまさにそれで、ずっと活躍することがないことを“鳴かず飛ばず”と言うが、その見本のような感じではあった。Wikipedia先生にも[デビュー当時、ドラマやCMに出演するなど期待されていたが売れず]と、ずばり書かれている([]はWikipediaからの引用)。そのはっきりした物言いはやや残酷にも思えるが、売上チャートを振り返ればそれも止むなしであることが分かる。1stシングル「MARIA」が64位。氷室京介作曲という破格と言っていい好待遇のデビューのわりには寂しい結果であったことは否めないけれど、まぁ、新人はこんなものだろう。

酷いのはそれ以降である。散々であった。2nd「永遠のスペースカウボーイ」70位→3rd「ROCK THE PLANET」83位→4th「デイジー/SUMMER ROSE」84位→5th「SCAPEGOAT」174位→6th「SUPERJOY」130位といったありさまである。アルバムも1st『The space toy』160位→2nd『HELLO CRAZY GENTLEMAN』258位で、いずれにしても右肩下がり…どころか、右肩急降下であった。BREAKERZがブレイクしたあとで発売されたベスト盤『DAIGO☆STARDUST BEST』(2009年)は56位と、かつてのチャートリアクションに比べれば健闘したと言えるかもしれないが、“昨年一気にブレイクしたDAIGOのDAIGO☆STARDUST時代の初のベストアルバム待望のリリース! 本人選曲&監修による、シングル全曲を含む全17曲収録”という惹句ほどには待ち望まれていなかったようであった。

そんな状況を鑑みると“こりゃあ、さぞかし酷い作品だったんだろうなー”と覚悟しつつ、アルバム『The space toy』を聴いてみた。結論から言えば、悪くない。いや、悪くないどころか、結構カッコ良いし、よく出来たアルバムでもある。正直言って、最高位160位だったというのは過小評価も過小評価だろう。チャートが即ち作品の評価であるとは思わないけれど、これは低く見積もりすぎであることは間違いないと思う。BOOWYで顕在化し、ビートロックとも言われ、そののち多くのビジュアル系アーティストにも好まれたJ-ROCKのひとつの側面、その王道とも言えるサウンドを堂々と鳴らしている。個人的にはそう感じた。ちょっと語弊のある言い方だが、少なくとも2000年代前半まではこういう音楽はわりとあったし、一時期、邦楽の主流でもあったように思う。今も脈々と受け継がれているはずだ。『The space toy』はその路線からまったく外れていないし、突飛なところは何もないと言っていい。そういうアルバムである。収録曲をザッと見ていこう。

M1「The space toy」。ゆったりとしたギターにマーチングビート、そこにストリングスが重なってくる様子はどう聴いても壮大だし、そこからドカン!とバンドサウンドが打ち鳴らされるに至っては、アルバムのオープニングに相応しいというか、オープニング曲でしかあり得ないスケール感である。本作は殊更にコンセプトアルバムと謳っていたわけではなかったようだが、冒頭からしてそんな作りではあろう。曲間を空けずにM2「STARS」へつながるのもそれっぽい。そのM2は冒頭こそフワフワとした印象だが、頭サビが終わると、疾走感のあるパンクチューンという本性を表す。まさにビートロックと呼ぶに相応しい容姿である。ギターもリズム隊もその教科書のような演奏を見せつつ、開放感あるサビに向かっていく。ファルセットで重ねているコーラスはおそらく本人ではなかろうか(違ったらすみません)。それも含めて確かな歌唱力をうかがうこともできる。簡単に言えば、歌が上手い。件のビジュアル系アーティストの中には個性的なヴォーカリゼーションで迫る歌い手も少なくなかったけれど、彼の歌い方にはそういう癖、えぐみのようなものはほとんど感じられない。その意味で聴き手を選ばなかったとは言える。また、M2は歌詞にも注目したい。DAIGO☆STARDUSTという芸名はDavid Bowieの『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』から拝借したことを公言しているが、歌詞からもBowieに対する敬愛がうかがえる。

《トレモロのHeroes なりきりのCrazy/現実(いま)からのSuicide ここはそう君のSTARS》(M2「STARS」)。

David BowieとBOØWYへの愛

“聴き手を選ばなかった”と書いたが、M3「Queen Stardust」以降、彼自身の歌唱力もさることながら、歌の主旋律がとても親しみやすく、これもまた聴き手を選ばないものであることに気付く。M3はスタンダードなロックンロールで、メロディーはワールドサイズなポップさと言ってよかろう。M4「永遠のスペースカウボーイ」もポップだが、サビで少し切ない印象になっていくところに日本らしさが感じられる。M5「dear sunshine」もメロディーにはやはり和風があって、全体的にややマイナーでありつつも、サビはキャッチーに仕上げているのは優秀だと思う。この辺まで聴いてくると、本作がアルバムとして何ら問題がないばかりか、かなりちゃんとした音楽作品であることは明白である。メロディー展開や(おそらくは)コード進行などにはDavid BowieオマージュやBOØWYリスペクトが感じられて、非の打ちどころがないとは言わないまでも、2000年代J-ROCKのひとつの側面を象徴する作品と言ってもいいような気がしてくる。もしかすると、『The space toy』はよく出来すぎていたのかもしれない。それゆえに、いい意味でも、そして悪い意味でも、そのメロディー、サウンドがリスナーの想像の範疇を出なかったのではないだろうか。(語弊がある言い方だろうが)DAIGO☆STARDUSTは最初から優等生だったのだ。本作前半を聴いてそんなことを思った。

ソウルな雰囲気もあるM6「D☆TRANCE」はワイルドなギターリフがひたすらカッコ良いし、幻想的なエレピとシンセが終始楽曲を彩るM7「Dolly」はサイケデリックロックの匂い。朴訥にも思えるバンドサウンドのM8「ruby & sapphire」は、それゆえにロック少年のひたむきさを感じとることもできよう(その意味では、M8の間奏で入るモノローグは当時から賛否あったようだが、個人的には肯定的に捉えることができた)。モータウンビートを取り込んだダンサブルなナンバー、M9「I wanna be your star」は明らかにBOØWYの影響、もっと言えば布袋寅泰の影響を隠してない楽曲だろう。モータウンのリズムだけでなく、ギターのフレーズは「ホンキー・トンキー・クレイジー」や「季節が君だけを変える」辺りを彷彿させる。オマージュ、リスペクトだけでなく、ダンサブルさのあとで切ないメロディーを持ってくる辺りにはちゃんとDAIGOらしさを感じられて好感が持てるところでもある。そのあとで氷室京介作曲のデビュー曲でもある、M10「MARIA」を配しているのはBOØWY愛の表れだろう。シングル曲は本来2曲目に置くのが不文律である。M10はメロディーは氷室の「Claudia」と同じであるから、如何にもヒムロックな旋律ではあると認識はするが、DAIGOの声質とサウンドの仕上がりからは、そこまでヒムロックヒムロックした感じではない気はする。「Claudia」に比べると拙い感じは否めないものの、そこは若さの発露と前向きに捉えたい。アルバムのフィナーレはM11「heavy heavy」。ミドルテンポのヘヴィロック。Aメロはラップ調のヴォーカルで、サウンドは中東風とそれまでの楽曲とは一風変わった雰囲気で進むものの、やはりサビはキャッチー。彼のメロディメーカーとしての汎用性の高さのようなものを感じるのであった。

諦めず、夢を追い続けるスピリッツ

本当に駆け足でアルバム『The space toy』を、サウンド、メロディーを中心に振り返ってみた。オマージュを含めてのサウンドのバラエティーさと、メロディーラインのポピュラリティーの高さがある作品であることが分かってもらえたら幸いである。そこも本作のポイントであることは間違いないけれども、最も注目してほしいのは歌詞である。以下、主だったフレーズを抜き出してみる。

《時を超えて 闇の向こうへ/真実のMyself 探しに行こう/ここにいては何も見えない/さあまだ見ぬ宇宙へ》《未来はこの手の中にある/さあまだ見ぬ宇宙へ》(M1「The space toy」)。

《今 自分の居場所に/満たされてる奴はここには居ないはず/傷つきもせず過ごしてる/そこそこの安定に/苛立ち 僕ら 叫ぶ》(M5「dear sunshine」)。

《I believe in myself この瞬間は誰にも止められない/朝の5時に魔法は解ける 今夜もそうさ/Everybody shake it babe!!》《One more time, I believe... このトキメキは誰にも止められない/朝の5時に魔法は解ける 今夜もそうさ/Everybody shake it babe!!》(M6「D☆TRANCE」)。

《僕らは時代の歯車じゃない!》《君とならば何処までも行ける/願いだけは汚されはしない/この両手に何も無くても/いま始まる僕の OUTSIDE STORY》(M10「MARIA」)。

《「このままじゃ 何も始まらない!」》《新世界 飛び込むのは誰だって怖いけど/迷う時間はもうないさ タイムリミットだ/「ここからが僕らの戦いだ!!」》《このスピードを上げて 辿り着くから/僕らが輝く あの場所へ/譲らないモノ この手にかざして/未だ見ぬその先へとゆこうか》(M11「heavy heavy」)。

“殊更にコンセプトアルバムであると謳っていたわけではなかったようだ”と前述したが、ここまで歌詞が首尾一貫していると、これはもうほとんどコンセプト作と断言してよかろう。上記以外でも、M2「STARS」とM4「永遠のスペースカウボーイ」の歌詞はM1と地続きで、まるで組曲と言ってもいいようだし、M8「ruby & sapphire」もそこで描かれているスピリッツは他曲と同じものである。まとめてしまうのも艶っぽくないけれど、未知なる場所へ臆することなく進む…といったことになるだろう。DAIGO自身、飛び込んだメジャーのロックシーンに大きな期待感を抱き、来るべく未来に想いを馳せていたことがうかがえる。その想いがすぐに成就しなかったことは先に述べた。BREAKERZは1stシングル「SUMMER PARTY/LAST EMOTION」は2008年発売だから、メジャー進出は果たしたものの、そこから5年間、前述したとおり、彼は思うような結果を出すことができなかった。しかし、DAIGOはシーンからフェードアウトしなかった。彼以外の人物なら思わず腐ってしまうような瞬間があったかもしれない。そうだったとしたら、間違いなく、今の彼はいなかっただろう。決して腐ることなく、夢を追い続けた。DAIGOの何がすごいって、自分が想ったことを追い続ける才能がものすごいのかもしれない。「SUMMER PARTY」にこんな歌詞がある。

《もういい年なのになんて言わないでね/恋する事に期限は無いさ/何度も傷ついて涙を流してマジブルーでも/立ち上がれ 簡単に振り向いてもらえなくても/諦めちゃダメさ!》(BREAKERZ「SUMMER PARTY」)。

これはストレートに恋愛を歌った内容なのかもしれないけれど、DAIGO☆STARDUST『The space toy』を経験した今となっては、彼の反骨精神を比喩的に形にしたものにしか思えないのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『The space toy』

2003年発表作品

<収録曲>
1.The space toy
2.STARS
3.Queen Stardust
4.永遠のスペースカウボーイ
5.dear sunshine
6.D☆TRANCE
7.Dolly
8.ruby & sapphire
9.I wanna be your star
10.MARIA
11.heavy heavy

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