逆風に転じた経営環境とサステナビリティ推進

金融市場における最大の関心事は、1~3月期は中国発の新型コロナウイルスの世界的な拡散動向と経済への影響、さらに2月24日に勃発したロシアによるウクライナ侵攻による新たな先進国間での軍事的な緊張による地政学リスクの高まりだったが、4~6月期では、特に足元では、米国FRBによる「インフレ加速」を背景とした「金融引き締めのテンポ」に変わってきている。

パウエルFRB議長は、先月5月までは「物価上昇は一時的」「米国景気はソフトランディング可能」と楽観的なメッセージを発し続けてきたが、6月10日発表の5月の消費者物価上昇率が市場予想を上回ったことから、事前に高まっていた「インフレのピークアウト」観測・期待・楽観論は雲散霧消した。

FRBは、これまでは「米国景気・株式市場に対して優しい配慮の姿勢」を示してきたが、ようやく遅ればせながら、そして明らかに「物価上昇への抑え込み姿勢」に優先順位のかじ取りを変えた。判断と対応が遅れた分、今年後半での金融引き締めの動きは加速する。

FOMC(連邦公開市場委員会)は、年内にあと4回の開催が予定されているが、政策金利は都合+2%引き上げられる見込みである。連続的かつ累積的な金融引き締めの効果から、今後は個人消費と住宅販売にマイナスの影響が強まってくることが予想される。

 

2021年までの10年間は、世界的な中央銀行主導の“カネ余り”の幸せな局面だった。今年に入ってからの政治・軍事・貿易・物価・金融政策における時代の大転換は、今後の企業経営と株式投資スタンスにも大きな影響をもたらしている。

それは

 ① 成長機会の剥落と、ヒト、モノ、カネの調達ネック

 ② 割高状態にあったリスク資産の価格調整とボラティリティの高まり

 ③ 日本のマクロ、ミクロ面での競争力低下と将来不安(人口、社会保障、公的債務等)

であり、当面は、逆風の環境下での先見性・戦略性・精神的タフネスさが求められよう。

この暗転した経営環境下において軌を一にするかのように、これまで拡大基調にあった「ESG経営」や「ESG投資」に対しても、見直し機運とともに一時的にブレーキがかかる動きが散見されている。ESGビジネスを取り巻く参加者である、事業会社、金融機関、投資家の3者において状況は異なっている。

今回の事態到来で一番の影響を被り、正常化への変容を求められているのは金融機関(資産運用会社)であろう。ESG投資の世界では、これまで忌避対象だった化石燃料産業や軍事産業に対する評価がウクライナ侵攻の事態勃発により揺らぎが出てきている。

またESG投資を謳っているものの、その評価・判断・選択基準が曖昧な説明性の無い「グリーンウォッシュ(なんちゃって運用・ファンド)」が明らかになってきた。欧米の監督当局は大手の運用会社に対して厳しい調査を始めており、既に大手の機関投資家が摘発されている。明快かつ具体的な銘柄評価・選択の哲学・体制・プロセスなどの説明・開示が今後ますます求められることになる。

事業会社においても、「脱炭素経営」は時間をかけて戦略策定のもとで長期的な対処を継続していかねばならない重要な経営課題であるが、今回のロシア危機、エネルギー危機の到来により、企業のエネルギー戦略へのコミットメントと説明性が一層問われることになる。

さらに、国内外での「非財務情報開示」の加速と新基準策定への対応が、「サステナビリティ経営」推進の切っ掛けとなることが予想される。国際会計基準(IFRS)財団の下部組織である国際サステナビリティ基準審議会が策定中である「非財務情報開示」基準が年内にも確定され公表の予定であり、日本の金融庁も、有価証券報告書にサステナビリティ情報を明記する方向にある。

新型コロナウイルスの蔓延を契機として対応が始まった「働き方改革」の流れは、勤労条件やジェンダーフリーによる社会責任の重要性の高まりにつながってきている。昨今、次々と報道されている日本の製造業の生産現場での、何十年まえから継承されてきているかのような不祥事の露呈からは、企業内統治・ガバナンスが現時点でも不完全・不十分であることは明らかである。足元の経営環境の多難な時期においては、「サステナビリティ推進」への真剣さと巧拙が、将来的な企業間格差に一段とつながることが想定される。

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