7月11日は藤井フミヤの誕生日 − チェッカーズのボーカルからソロシンガーへ  収録曲「TWO PUNKS」に感じたソロシンガーとしての意気込み

7人だからできたチェッカーズの音楽

来年デビュー40周年を迎えるザ・チェッカーズ。彼らの活動期間は約10年間だ。その一方でファンにとっては解散後の30年、チェッカーズの音楽を思い出として捉えるのではなく、現在進行形で共に人生を過ごしている。

チェッカーズは圧倒的に “バンド” だった。つまり、この7人でしか奏でることの出来ない音があり、7人でしか醸し出すことが出来ないグルーヴがあった。だから、藤井フミヤ(以下藤井)の、「クロベエ(徳永善也)亡き今、再結成はありえない」という趣旨の発言にファンなら誰もが納得しただろう。

久留米の不良少年たちがバンドに青春を賭け、練習に明け暮れ、コーラスワークの腕を磨きコンテストを勝ち抜く。チェッカーズはストリート上がりのドゥーワップ、ロックンロールバンドだった。

藤井のスタイルもまた、バンド内で特出したシンガーという印象ではなかった。バンドのグルーヴありきで、様々な表情を醸し出すヴォーカリストだった。多様な音楽を吸収していく中で、個性が研ぎ澄まされていった。

ファーストアルバム『絶対チェッカーズ!!』に収録された初期の大名曲「ムーンライト・レヴュー50s'」のコーラスワークにしても、クロベエがリードヴォーカルをとったクールスリスペクトのロックンロールナンバー「青い目のHigh School Queen」(シングル「俺たちのロカビリーナイト」B面収録曲)のバッキングヴォーカルにしても、その立ち位置はバンドのグルーヴによって確立されていった。ソロシンガーでは決してたどり着くことの出来ないバンドサウンドの中心に藤井はいつもいた。

藤井フミヤ、ソロデビュー。バンドサウンドとは異なったシンガーとしての魅力

もちろん、音楽性を深化させていった後期も変わることはなかった。硬派なブリティッシュビートを主体とし、セルフプロデュースで放たれた『GO』以降、ブルーアイドソウル、ハウスミュージックなど様々な音楽を吸収していく中でも、これらをバンドサウンドとして練りこみ、特出したグルーヴの中でこそ彼のヴォーカルが輝いていた。

だから、チェッカーズ解散後、ソロアーティストとして、「TRUE LOVE」をリリースした時の衝撃もかなりのものであった。この西海岸的なドライな音作りは、ソロアーティストとしてのクオリティであり、これまでのバンドサウンドとは異なったシンガーとしての魅力に満ち溢れていた。

当時僕は、キャロルを解散し、ソロシンガーとして再出発した矢沢永吉を思い出した。キャロル解散の日比谷野音では、ビートルズでお馴染みの「SLOW DOWN」を巻き舌で歌った矢沢が、タキシードを着てしっとりと聴かせる「I Love You OK」と同じような衝撃をソロデビューの時に感じた。それは、チェッカーズというバンドのグルーヴを知り尽くした藤井がソロとして音楽に向き合う時に何をすれば良いか… という答えに対して真摯に向き合った結果だったと思う。

ストリートの最先端の音楽をバンドサウンドとして吸収し、自分たちのグルーヴを作り出していったチェッカーズ時代の藤井には性急さも感じていたし、常に尖っていた。しかし、ソロデビュー以降は、ジャンルでは語れない音楽の本質に向き合っているかのように思えた。

セカンドソロアルバム「R&R」で向き合った音楽の本質

ソロアルバム第2弾として1995年にリリースされた『R&R』はそんなスタンスが色濃く表れた傑作アルバムだ。『R&R』というアルバムタイトルから連想される派手さはなく、ブルースを主体とした極めてシックなアルバムだ。

当時、布袋寅泰のサポートギタリストだった辻剛をパートナーに、土屋昌巳、筒美京平、浅井健一といった作家陣が集結。革新的でありながら、それを全面に打ち出すのではなく、シンガーとしての自らと対峙するような奥深い作品だ。

しかし、チェッカーズ時代の尖り具合もチラチラと垣間見られる。イントロのブルースハープが炸裂し、バスキングスタイルを取り入れながらも時代に即したネオロカビリー的な解釈も可能な「Tokyo Runaway Blues」や、浅井健一が楽曲を提供、当時のブランキー・ジェット・シティの内省的でありながら、どこかヒリヒリとした痛みを伴う世界観を見事に体現した「マリア」など、楽曲ごとの表情も多彩だ。

収録曲「TWO PUNKS」に感じたクリエイターとしての輝き

そして、特筆すべきはTHE MODSのデビューアルバム『FIGHT OR FLIGHT』に収録され、彼らのファンのアンセムとなった「TWO PUNKS」のカヴァーだ。

見事だったのは、このアンセムと向き合う藤井の引き算の美学だった。ここで藤井は決して当事者としてではなく、憧れとして、傍観者として、この物語を完結させている。例えば「TWO PUNKS」のテーマとなるオリエンタルとも言える特徴的なギターのメロディをあえて使わず、華美なアレンジを施すのでもなく、ソリッドにシンプルに歌詞の世界観を全面に打ち出している。

派手さは微塵もなく、それでも魂を込めた楽曲への向き合い方が、ソロシンガーとしての意気込みのようにも感じられた。

この「TWO PUNKS」がこの『R&R』というアルバムを象徴している。時代に即した煌めきを敢えて抑えることで、音楽は普遍的に輝き続ける。ソロシンガーとして、クリエイターとして、藤井にとってこのセカンドアルバムは大きな位置にある作品だと思う。

カタリベ: 本田隆

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