井上健斗のカルペディエム Vol.7/トランスジェンダーと結婚

私事ではございますが……
兼ねてからお付き合いをさせていただいていた、NANAさんと結婚しました!!

実をいうと僕はバツ2。この度の結婚は3度目になります。懲りてないとも言えるし、何度も結婚できる幸せ者とも言える。
無論、こんな楽観的な考え方はまるで行き当たりばったりに生きているみたいで、いずれまたバツがつきそうな印象を受けることは自覚している。

でも、僕としてはNANAさんとの結婚は「新たな旅が始まる」という感覚でいる。今回は、結婚について改めて思うことがあるので、「トランスジェンダーと結婚」について書こうと思う。

結婚は夢のまた夢
女性だった頃の僕は、好きな人(女性)に告白する資格はなく、お付き合いどころか結婚するなんてあり得ないと思っていた。叶わぬ夢だからこそ結婚への憧れが人一倍強かったと思う。それが、性別変更を経て、戸籍上も男性として認められるようになり、女性と結婚ができるようになったことの反動が大きかった。
周りからも男性として扱われるようになった25歳前後。好きな人と結婚できる資格を得た僕は、嬉しいを通り越して有頂天だったのだと思う。

結婚はゴールではなくスタート
今振り返ると、その頃の僕は結婚することがゴールになっていた。そして僕が経験したものは…離婚。結婚というものに恋をしていたから、結婚とは「終着点」であり、「新しいスタート地点」だなんて考えていなかった。よくある例えだけど、花は好きだけどすぐ枯らしてしまう人は、花を見ることは好きだけど、世話をすることは好きではない。

本当の愛とはもっと渾身的で面倒なもの。土を肥やして水をやり、こまめに適量の肥料を与え、たとえ枯れても次の季節に元気な花を開かせられるように世話をする。これが花を愛するということで、咲いている時だけ心惹かれるのは本当の愛ではないと。花もまた注いだ愛にきちんと応えて美しい花を開かせる。ただ一方的に愛でられるだけではなく、苦楽と喜びを分かち合って寄り添うことができる存在なのだと思う。そして、それは結婚生活や恋愛にも同じことが言える気がする。

結婚生活で気づいたこと
トランスジェンダーの僕と「結婚してくれた」のだから、「他の男性よりももっと頑張らなきゃ」「彼女を幸せにできない」無意識にそう考えていた。この気持ちに気づいてから、自分自身が自分を卑下していたこと、自分自身を大切にしていなかったことに初めて向き合えたと思う。

トランスジェンダーだから……と思ってる時点で僕自身が一番トランスジェンダーであることに囚われていた。結婚できるようになって嬉しい反面、どこか不安や引け目が付き纏っていた理由が分かった気がする。
そして何より、結婚は夫婦対等の「共同作業」であって、夫が一方的に何かを背負うことではないことも、僕の中にある「男性像」がいかに古めかしかったかを再認識させられたと思う。

結婚のその先へ
トランスジェンダーが結婚をするケースが年々増えている。僕の周りにもたくさんいるし、子作り(方法は様々)をするケースも増えている。
絶対に無理だと思っていたことが現実になり、社会が変わり始めている。
これからも紆余曲折はあるかもしれない。それでも、世話を続ければいずれ花が咲き誇るように、この先もきっと未来は明るい、と当時の自分に教えてあげたい。

結婚自体は3度目だけど、過去から学んだことはたくさんある。
トランスジェンダーだからと引け目を感じていた自分に気づけたこと、脱せたこと。二度の離婚は失敗に終わってしまったけど、当時の僕と結婚してくれた方にとっても決して無駄ではなかったと思ってもらえるよう、精一杯の幸せを伝えられる僕になりたい。そして、僕から伝えたいのはただ「ありがとう」の言葉。

これまでの経験で結婚はゴールではなくスタートなのだと気づくことができた僕にとって、NANAさんとの新たな門出こそが本当の「初婚」と言っていいんじゃないかと思う。いや、初婚です!!

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文/井上健斗 Twitter@KENTOINOUE
イラスト/RYU AMBE Instagram@ryuambe
記事協力/性同一性障害トータルサポート/G-pit

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