菊川の住宅街にある『RIVER』という場所、一体なに?

犀川近く、菊川の住宅街に一軒、筆者が数年間ずっと気になっている場所があります。

ここ『RIVER』は、細い小道をおばあさんがカートをひいて歩くような静かな街の中にあるのですが、実は時折若いボーイズたちが集まっている様子。 数年前から何度か訪れる機会があり、最初は石川県を拠点に「日本全国スケートボード旅」を行っていたクルー「skateatom」に話を伺ったときのこと。

当時「skateatom」のメンバー何人かが「川/kawa」というスケート撮影チームを作り、『RIVER』はチームの事務所のような場所と聞いていました。 それから数カ月、今度は『RIVER』がギャラリーとして使われていると情報が。さらに数年たった今年1月『RIVER』のインスタアカウントをのぞくと「store」の文字と営業時間が追加されている!!…。ギャラリーからお店に変わったのか?と思いきや、投稿を見ると展示の告知がほとんどで…。

一体どうなっているの!? 気になりすぎる!ということで、ことの真相究明にいってきました!

石川県のお土産ではなく『RIVER』に来たお土産を。

店主の長岡 斉さんは、スケートボードの専門誌やカルチャー誌でも紹介されるスケート撮影チーム「川/kawa」や「stakeatom」の動画制作を行い、個人でもフィルマーとして活動しています。(※フィルマーは、カメラ片手にスケートボードに乗り、映像作品を創作するスケーターのこと)

ーーこんにちは!お久しぶりです。
長岡さん:ご無沙汰しています。前回の展示のとき以来でしたっけ?

ーーそうですね、お店になってから初めて来ました。そもそもお店でいいんですよね?いろんなものが置いていますが、ここは何屋さんになるんですか?
長岡さん:んー、なんですかね。お土産屋さん、かな?

伝統工芸とストリートカルチャーを掛け合わせた九谷焼のブランド「九九谷」。

ーー九九谷も置いているんですね。これは石川らしさがありますけど見渡した感じ、石川のものばかりじゃなさそうですし、お土産屋さんのイメージとはちょっと違っています。
長岡さん:石川の特産品があるお土産屋さんじゃないですけど、感覚としては「RIVERに来たお土産」って感じかな。

ーーふむふむ。
長岡さん:僕たちスケーターって、デッキを持って全国のあっちこっちに行くじゃないですか。スケートボードってアート性が強いカルチャーなので、どこに行ってもいろんなクリエイターの方とつながるんですよね。自分も動画を撮ったり、展示のキュレーションをしたり、ものづくりを何年もやっているので、そのつながりが自分たちを形成していると思うんです。ここをショップにしようということになって何を置くかを考えた時に『RIVER』として置くものはこれ、というものを置いています。だからグラフィティアートもあれば、服も、雑貨もある。石川のものも、他県のものも。

大量生産ではできない、各地のクリエイターが丁寧につくった商品が並ぶ。
吉原の遊女をモチーフにデザインを落とし込んだ商品を手掛けるブランド「新吉原」。

ーー浅草にお店がある岡野弥生さんのブランド「新吉原」もありますね。石川県ではあまりお目にかかれません。
長岡さん:以前から「川/kawa」と、浅草を拠点に活動する絵師のESOWさんとでコラボをさせてもらっていたんですが、『岡野弥生商店』でも本の発売記念でポップアップをさせてもらったり、何かとつながりがあるんです。ちょっとエッチなモチーフだけど女の子も手に取りやすいデザインが多いですよね。

ESOW氏と「川/kawa」の共同制作による展示を本にした「川遊び」。

仲間の関係性と共に、形を変えてきた場所。

ーーそういえば、「川/kawa」のオフィスはどうなったんですか?
長岡さん:それが、ここを店舗にするにあたって少し「川/kawa」の体制を考え直したんですよ。今「川/kawa」の拠点はここではなく京都にあって、作品作りはそっちでしています。

店内アイテム。

ーー体制を考え直した、というと?
長岡さん:実は、ありがたいことに「川/kawa」としていろんなお仕事をいただけるようになったんですが、正直全員がいっぱいいっぱいになってしまって。今までは小さなことでも相談したりミーティングを開いたりしていたんですが、それだと回らなくなってきたんです。そうなると精神衛生上よくないし、自分たちが大事にしている作品のクオリティを落とすことにもなり兼ねないということで、ある程度それぞれに決定権を持たせて役割分担をすることになりました。ざっくり言うと、僕はこの店と動画の担当ですね。

ーーそうなんですね。「川/kawa」がスケートボードの専門誌だけでなく、カルチャー誌などでも取り上げられているのを見て、単純にすごいなーと思っていました。
長岡さん:そうなんです。嬉しいことなんですが、そうやって皆さんに知っていただけるようになると「川/kawa」って誰なんだとか、「川/kawa」ってどこで会えるんだとか、思わぬところが注目されるようになってきたんですよね。一緒にやろうってなった当初は誰がとかもなく、一緒にいいものつくろうぜ、って集まった感じの自由さがあって、それが楽しかったんですけど。

ーーその頃に戻りたいという感じですか?
長岡さん:俺らも年を重ねて家族や大事なものもできて、ガキの遊びの延長のままじゃダメだとは思うので、戻りたいというわけじゃないんです。でもあの当時に大事にしていた自由さとか、いいものを作りたいって気持ちは大切にして、今の俺らに合った形にしていけたらと思っています。

丁寧に保管された撮影機材。

ーー『RIVER』のこの場所も「川/kawa」やその周りの人たちの形に合わせて変化してきている感じがしますよね。
長岡さん:そうですね。ここって元々仲間の一人の自宅だったんです。スケーターの撮影をしていた奴なので、展示もできる場所を探していたんだと思います。それをちゃんと活用しようとなって皆で改修しながら『819』(現在片町にある、スケーター店主のバー&ギャラリー)が生まれました。展示を主にしていたんですけど『819』を片町でバーとしてちゃんとやりたいって話になったんで、その移転と立ち上げも手伝いつつ、この場所はギャラリー兼「川/kawa」のオフィスにしました。それから今年に入ってショップ&ギャラリーとして『RIVER』になった感じです。

ーーなんだか、みんなの場所って感じなんですね。
長岡さん:そうかなぁ。スケーターって結構先輩後輩みたいな縦社会が厳しかったりもするんですけど、その分、横のつながりもかなり強固なんで、自分たちではあんまりこの場所がすごく特別って感じはしないですけどね。みんなのたまり場みたいな感じかな?あ、でも店にしたからにはいろんな人に来てほしいし、むさ苦しいスケーターばっかりな感じは出さないようにしています(笑)女の子も来られるくらいの雰囲気で(笑)

ーー確かに、スケーターのたまり場と言われると、ちょっと来にくいかも(笑)でも『RIVER』は外壁もスケルトンで、白を基調としているのでオープンな明るい感じがありますね。
長岡さん:この場所はギャラリーとして展示を行うのを前提でつくったので、やっぱり作家さんの作品が良く見える形にしたくて。アート作品の販売もしているので、ここに足を運んでこられる方と直接しゃべって、この空間で作品を見て良いと思ったら買ってほしい。売る側として、行程をふまえてゆっくり売っていきたいという気持ちもありますしね。

展示が行われるときには、レイアウトも変化する。

常にとどまらず、ローカルから発信する。

ーーこれからこの場所はショップやギャラリーとして、クリエイターとより密な関係を作っていくんだと思いますが、いつかまた皆さんの想いや関係性によっては違う形に変化するかもしれないですね。
長岡さん:まぁ、さすがにショップにしたばっかりなんで、さっさと変えることはないですけど(笑)でも、皆やりたいことが多くて、こだわりがある奴らばっかりなんで、また違う形になることもあるかもしれないですね。ずっと同じ形でとどまるよりも、挑戦してみて“違ったな”と思ったら形を変えてみる、という方が俺らの性に合っているんですよ。

ーー『RIVER』のあるこの場所がその象徴のように感じてきました。
長岡さん:そう考えたらそうかもしれない。「川/kawa」はこの場所でものづくりを続けて来て、自分たち発信ではない外からのお仕事も頂く事ができるようになりました。今後『RIVER』としてもオリジナルのものを作っていきたいとも思っているんですが、こうやって形を変えながら、今いる場所から自分たちらしいものを発信していきたいという精神は変わらずに持っているんです。

ーー長岡さんや皆さんの今後も『RIVER』の今後も楽しみです!ありがとうございました。
長岡さん:あ、今度また展示をやるので、気が向いたらぜひ来てくださいね~!

店舗の運営をしながらも自身の作品撮影やキュレーション、さらには周りに集まってくる後輩にものづくりのノウハウを教えたり、後輩スケーターを売り込んだりと毎日が忙しそうな長岡さん。

それでも、自分の好きなことで生きていくと決め、常に動き続けている姿は大変でも楽しそうに見えました。

『RIVER』の今の形を楽しめるのは、そう長くないかもしれないので今のうちに皆さんぜひ訪れてみてください。

RIVER

石川県金沢市菊川1-14-17
問い合わせ/Instagram DMにて
営業時間/10:00〜18:00
定休日/火曜、水曜、木曜
駐車場/なし
※こちらの情報は取材時点のものです。

(取材・文/西川李央、撮影/林 賢一郎)

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