今こそ聴きたい「FM STATION 8090」サブスクでは味わえないテイスト満載!  伝説のDJ、カマサミ・コングの声に乗って聴くシティポップ&J-POP

洋楽とともに都会派需要にハマる日本のポピュラー音楽"シティポップ"

いわゆる「シティポップ」としてざっくりと括られている楽曲群が生まれた背景として、70年代後期〜80年代に都会的でスタイリッシュな生活を指向する若者が増加したことが挙げられる。ディスコだカフェバーだ、ビーチだゲレンデだ、ドライブだリゾートだ……そのあたりは、過去にもいろいろな人が考察している通りだ。

特に80年代はシティポップ(当時は「シティポップス」と呼ばれた)が、若者たちの都会派需要にハマる日本のポピュラー音楽として歓迎されたのは間違いない。

一方で、見落とされがちな現実もある。その時代のシティポップのリスナーが必ずしも都会的でスタイリッシュな暮らしを実践できていた訳ではないという点だ。年齢や生活環境、経済事情によっては、やりたくてもできなかった人たちが大勢存在したのである。

たとえば、土曜の夜にダウンタウンに繰り出せない人も、ふたりの夏物語を綴れない人も、中央フリーウェイをドライブデートするには若すぎる人も、ロングバケーションにやることが受験勉強だけの人もいた。シティポップはそんな立場の人でも、なんとなく都会やリゾートの気分を味わえるツールとして機能したのだ。

DJはカマサミ・コング。架空のラジオステーション「FM STATION 8090」

インターネットのない80年代、エッジの効いた情報の供給源はラジオと雑誌だった。

ラジオ、なかでもFMは、テレビの歌番組では流れない楽曲を高音質でたくさんオンエアしており、友達が知らない曲をエアチェックすることができた。また雑誌は、音楽のみならず、映画、ファッション、タウンの最新事情を学べる教科書の役割を果たした。都会的な生活を実践できていなくても、ラジオや雑誌には時代の先端に近づいている気分にさせる効果があった。

…… さて、上記に心当たりのある皆さんに、特にオススメしたい音源がエイベックスより7月20日にリリースされる。タイトルを『FM STATION 8090 ~CITYPOP & J-POP~ by Kamasami Kong』という。なぜオススメかといえば、この商品には、シティ・ポップ、ラジオ、雑誌の3要素がすべて詰まっているからだ。

80年代の音楽ファンに愛されたFM情報誌『FM STATION』(ダイヤモンド社)とのコラボレーションにより実現した企画で、「FM STATION 8090」という架空のラジオステーションの架空のプログラムを1枚のCD(または1本のカセットテープ)に収録したものである。80年代よりハワイと日本を股にかけて活動するスーパーDJ・カマサミ・コングが、80年代のシティポップなど全18曲を次々に紹介していく構成だ。こうしたラジオ番組のテイストはサブスクでは味わえないだろう。

多くの人に共有されたナンバーがズラリ!

今日、「シティポップの名曲」として音楽メディアに取り上げられているものは、専門家が歴史を俯瞰して選んだものであり、あえて “知る人ぞ知る系” が多めになっている傾向がある。その点、この商品は1986オメガトライブ「君は1000%」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER」、杏里「悲しみがとまらない I CAN'T STOP THE LONELINESS」、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」、EPO「DOWN TOWN」など多くの人に共有されている楽曲がメイン。

カバーながら「真夜中のドア〜stay with me」も押さえている。ほかに、ピチカート・ファイヴの「東京は夜の七時」などシティポップの匂いがする90年代J-POP曲も入っており、それがスパイスの役割を果たす。タイムラインを行ったり来たりする構成はなんともラジオっぽい。

このような内容だけに、残念ながら80年代に都会的でスタイリッシュな生活を実践できなかった人でも、当時の気分にポジティブに浸ることができるのだ。海沿いの道を走るクルマのなかで流すか、ビーチリゾートホテルのテラスで聴くか、沿岸のグランピング施設でワーケーションのBGMとするか…… あの頃とは生活環境や自由になるお金が違う今、活用法はいろいろあるだろう。

カタリベ: ミゾロギ・ダイスケ

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